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那須川天心と武尊は、6・13東京ドームで闘うはずだった!「流れた理由」と今後の実現の可能性──。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
来春、キックボクサーからボクサーに転身する那須川天心(写真:RIZIN FF)

土壇場で武尊が右拳負傷

「本来、6月13日・東京ドームでは(那須川)天心選手と武尊選手の試合が行われるはずだったんです。それは、RIZINとは別のイベント。K-1さん、RISEさんと中立な舞台をつくり、そこで実現させる予定でした」

6月1日午後、東京・目黒雅叙園で行われた『RIZIN.28』の追加対戦カード発表記者会見。冒頭でRIZINの榊原信行CEOは、RIZIN東京ドーム大会開催経緯を説明する中で、そう明かした。

記者会見の冒頭で、那須川天心vs武尊が6月13日・東京ドームで行われる予定だったことを明かしたRIZIN榊原信行CEO(写真:RIZIN FF)
記者会見の冒頭で、那須川天心vs武尊が6月13日・東京ドームで行われる予定だったことを明かしたRIZIN榊原信行CEO(写真:RIZIN FF)

那須川天心vs.武尊は、ファンが長き間、実現を望み続けたカードである。いや、ファンだけではない、那須川と武尊も互いに闘うことを求めた。しかし、それぞれが契約を結ぶ団体が異なることから、なかなか実現へとは話が進まなかった経緯がある。

動きがあったのは昨年末。

大晦日、『RIZIN.26』が開催された、さいたまスーパーアリーナに武尊が姿を現す。那須川の試合をリングサイドから観戦し、その後にインタビュースペースに足を運ぶ。メディアを前に、「那須川選手と闘いたい。そのために自分も動く。2021年に実現したい」と熱く訴えた。

年が明けて、話は一気に進む。RIZIN、K-1、RISEの間で「6・13東京ドームで実現させる」と合意されたのだ。

那須川と武尊の次の試合は、すでに決まっていた。

1月24日、武尊vs.レオナ・ぺタス(『K-1』東京・代々木第一体育館)

2月28日、那須川天心vs.志朗(『RISE』横浜アリーナ)

それでも、この試合を終えた後に調整期間は十分に取れる。両者は万全のコンディションで対峙するはずだった。

だが、新型コロナウィルス感染拡大の影響でスケジュール変更を余儀なくされる。緊急事態宣言の発令により1・24K-1代々木大会が消滅。武尊vs.レオナ・ぺタスは、3月28日、『K-1』日本武道館大会で行われることに。

それでもまだ6月までには時間がある。この時点ではまだ、世紀の一戦は水面下で「予定通り決行と」されていた。

那須川、武尊は、それぞれのリングでともに勝利。

いよいよ実現かと思われたが、ここで問題が生じた。ぺタス戦の後、武尊の右拳負傷が発覚。6月までにコンディションを整えることができなくなり「世紀の一戦」は流れた。

3月28日、K-1日本武道館大会でレオナ・ぺタスを破りフェザー級王座を防衛、笑顔を見せる武尊。だが、この後に右拳負傷が判明した(写真:SLAM JAM)
3月28日、K-1日本武道館大会でレオナ・ぺタスを破りフェザー級王座を防衛、笑顔を見せる武尊。だが、この後に右拳負傷が判明した(写真:SLAM JAM)

RIZINは、これとは別に東京ドーム大会を予定していた。

こちらも難航を極める。

3月14日→4月29日→5月23日と延期が続いた。緊急事態宣言に振り回された形だ。そして結局は、5月23日開催も断念。

そんな折、那須川天心vs.武尊のためのイベントがなくなる。これにより『RIZIN.28』が6月13日にスライドしたのだ。

大晦日がラストチャンスか

那須川と武尊の「世紀の一戦」は年内に実現するのか? それとも、このまま消滅してしまうのか?

那須川は来春の試合を最後にキックボクシングを卒業、ボクサー転向を決めている。もう時間がない。となると実現可能な大舞台は、一つしか残されていないように思う。

RIZIN大晦日決戦だ。

ここなら「世紀の一戦」の舞台に相応しい。大晦日は格闘技界が最高に盛り上がる一日。この大会はフジテレビにより毎年、全国に地上波放送されている。

10月にビッグイベントを行う手もあるが、時間的にも調整が難しいだろう。

「中立なリングで闘いたい」

武尊は、そう話していた。

RIZINのリングでは、その点が合致しない。那須川のホーム、武尊にとってはアウェイとなる。それでも実現可能なビッグな舞台が、大晦日のRIZINのリングしかないならどうだろうか?

武尊は、「それでも闘いたい」と思うはずだ。

現状を俯瞰すれば、「どうしても闘いたい」武尊と「機会があれば」の那須川がいるように感じる。

もともとは、2015年に那須川が挑戦を表明したことで「因縁」が始まった。当時すでに武尊はK-1のエース。まだビッグネームではなかった那須川が咬みついた形だ。それから数年の時を経て両者の立場は逆転したと見る向きが多い。また、那須川の闘いへのモチベーションは、いまやボクシングへと移っている。武尊戦実現のために、ボクサー転向を先延ばしすることなど考えていない。

「どうしても闘いたい」との思いは、すでにないのだ。

このまま実現しなければ、「那須川不戦勝」の雰囲気が漂う。それは、武尊にとって許せないことだろう。ならば、敵地に乗り込むことを決意し、決死の覚悟で周囲を説得するのではないか。

大晦日のリングが、実現のラストチャンスだろう。

さて、6月1日の記者会見では、『RIZIN.28』の追加対戦カードが発表されている。

(提供:RIZIN FF)
(提供:RIZIN FF)

待ちに待ったライト級タイトルマッチだ。コロナ禍で来日できないのでは、と心配されていたトフィック・ムサエフ(アゼルバイジャン)だが、すでに入国している。現在は都内のホテルで隔離待機中。会見では自撮り映像でのメッセージが公開された。

バンタム級JAPANトーナメント、朝倉未来vs.クレベル・コイケ、斎藤裕vs.ヴガール・ケラモフなど、ほかにも好カードが目白押し。

また、強過ぎるためか対戦相手が決まっていない那須川天心は、YouTubeを通じて「俺と闘いたい選手は手をあげてほしい」と呼び掛けている。彼自身の提案で「1対3」のハンディキャップマッチが行われるかもしれない。

那須川天心vs武尊が実現するか否かも気になるが、まずは目前に迫った東京ドームでの『RIZIN.28』に刮目したい。観客は1万人規模になる模様。チケット販売はすでにストップされているが、フジテレビ系列で全国に放送(生中継を含む)される。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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