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朝倉未来は勝てるのか? 6・13東京ドーム『RIZIN.28』クレベル・コイケ戦を読み解く──。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
柔術戦士クレベル・コイケと東京ドームで対戦する朝倉未来(写真:RIZIN FF)

クレベルはキャリア最強の相手

「東京ドームで闘うことを決めました。残り1カ月ちょっとあるので、いままで以上に追い込んだ練習をして良い試合をしたいと思います。(クレベルは)世界でも闘ってきた選手で驚異のフィニッシュ率を持っている。危険な相手だという印象があります」(朝倉未来)

「未来は日本のトップ選手で、ベルトは持っていないけど実力的にはチャンピオン。強い選手であることは分かっています。でも試合で勝つのは私。彼に勝って、日本でもっと有名になりたい。頑張ります」(クレベル・コイケ)

5月4日、ウェスティンホテル東京で『RIZIN.28』に向けての記者会見が開かれ、朝倉未来(トライフォース赤坂)とクレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)の対戦決定が発表された。

静かな雰囲気だった。

朝倉が、クレベルを挑発することはなかった。

斎藤裕(パラエストラ小岩)との対戦が決まった時のように「レベルが違う」とは口にしない。両者は互いに相手のキャリアをリスペクトし合っていた。

会見後に写真撮影に応じる朝倉未来(左)とクレベル・コイケ(右)。両雄は、まったく視線を合わせなかった(写真:RIZIN FF)
会見後に写真撮影に応じる朝倉未来(左)とクレベル・コイケ(右)。両雄は、まったく視線を合わせなかった(写真:RIZIN FF)

昨年11月、大阪城ホールでの『RIZIN.25』で僅差の判定ながら朝倉は当時・修斗王者の斎藤裕に敗れた。この結果によりRIZINフェザー級のベルトは斎藤の腰に巻かれる。

朝倉は、試合直後にダイレクトリマッチを要求したが、そうは事が運ばなかった。

そのため、昨年大晦日のリングに上がり弥益ドミネーター聡志(team SOS)と対戦、1ラウンドKO勝利を飾り復活を果たす。

「ベルトが欲しいというよりも、斎藤選手にやり返したい」

そう願う朝倉と斎藤のリマッチが、いよいよ実現かと思いきや、さらに高いハードルが設けられてしまう。

なぜならば、もう一人、フェザー級のベルトを狙うに相応しい男が出現したからだ。昨年の大晦日にRIZIN初参戦、カイル・アグォン(米国)にダースチョークを決め1ラウンド勝利。今年3月の『RIZIN.27』では摩嶋一整(毛利道場)を三角締めで葬ったクレベルである。

昨年大晦日、RIZIN初参戦でカイル・アグォンを圧倒したクレベル・コイケ。「決め」の強さを日本のファンに強くアピールした(写真:RIZIN FF)
昨年大晦日、RIZIN初参戦でカイル・アグォンを圧倒したクレベル・コイケ。「決め」の強さを日本のファンに強くアピールした(写真:RIZIN FF)

彼は、実績十分な柔術ファイター。

総合格闘技戦績27勝5敗1分け。この間に多くの海外試合を経験している。2017年5月にはポーランドのワルシャワ国立競技場に5万8千人の大観衆を集めて開かれた大会でKSWフェザー王座に挑戦。敵地で王者マルチン・ロゼク(ポーランド)を破りベルト奪取を果たした。また、27の勝利のうち23はサブミッションでの一本勝ちによるものだ。

「倒す」か、「決められる」か

さて、キャリアにおいて最強の相手を迎えることとなった朝倉は、いかに闘うつもりなのか?

ふたりのファイトスタイルは対照的。打撃の強さが魅力の朝倉に対して、寝業に持ち込めば決めの強さを発揮するクレベル。つまりは「朝倉が倒す」か、「クレベルが決めるか」の試合になるだろう。

やはり気になるのは、朝倉の出方だ。

彼は、斎藤との闘いで判定負けを喫したことでファイトスタイルをチェンジした。もとに戻したと言ってもいい。

相手の出方を見て、カウンターを狙うのではなく、自分から試合を組み立てるように変えた。5分3ラウンドのスタミナ配分を考えるよりも、瞬発力を活かして積極的に相手を倒しに行くスタイルにだ。

「KOで勝つ」

記者会見で、そう話した朝倉は、スタイルチェンジ後の弥益戦と同じように1ラウンドから前に出てプレッシャーをかけ、躊躇なくパンチを振るっていくことだろう。

「試合の中でチャンスは必ず訪れる。私は、その時を逃さない。決めて勝つ」

そう話すクレベルに対して、チャンスを見出される前に打撃で決定的なダメージを与えるつもりなのだ。

「朝倉選手の闘い方は分かっている。心配はない、勝つのは私だ」と自信に満ちた表情で話すクレベル・コイケ(写真:RIZIN  FF)
「朝倉選手の闘い方は分かっている。心配はない、勝つのは私だ」と自信に満ちた表情で話すクレベル・コイケ(写真:RIZIN FF)

「ずっとプレシャーを与え続ける。そしてKOで勝つ」と話す朝倉未来(写真:RIZIN FF)
「ずっとプレシャーを与え続ける。そしてKOで勝つ」と話す朝倉未来(写真:RIZIN FF)

この一戦に関しては、判定決着が想像しがたい。それは、朝倉が長期戦を望まず「殺るか、殺られるか」の闘いをする覚悟を決めているから。

実力は五分と五分。

「ここぞ!」の場面で、躊躇なく攻め切った側が勝者となろう。

今回、オファーを受けた際に朝倉はRIZINから3人の対戦相手候補の名を挙げられ、「この中から選んでほしい」と告げられた。

斎藤とのリマッチの前哨戦であることを考えれば、もっとイージーな相手を選ぶこともできただろう。だが、彼は敢えてもっとも強いクレベルを指名している。

「いずれは闘うことになる相手。ならば、ここで潰しておく!」

強気な朝倉らしい。

この後、緊急事態宣言の期間が延長されれば、東京ドーム大会は無観客開催になるかもしれない。それでもリング上に異常なほどの熱が生じることは間違いない。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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