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武尊vs.那須川天心は実現するのか?考えられる「3つの可能性」

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
レオナ・ぺタスと激しく打ち合った武尊(右)が2ラウンドKO勝利(写真/K-1)

「会場にスペシャルゲスト、那須川天心選手が来てくれています。ご来場、ありがとうございます。K-1へようこそ! 天心選手も世界中の強豪を倒して最強を証明している日本人です。長い間お待たせしましたが、絶対に闘いたいと思いますので、天心選手、よろしくお願いします」

3月28日、東京・日本武道館で開催されたK-1『K'FESTA.4 Day.2』のメインエベントでレオナ・ぺタスを2ラウンドKOで下しK-1 WORLD GPスーパー・フェザー級王座防衛に成功した武尊は、試合後にリング上から那須川天心に、そうメッセージを送った。

死を覚悟して殺しに行く

この試合の前に武尊は、作戦を立てていた。パンチの打ち合いは避けよう、と。

レオナは「石の拳」と称される強打の持ち主だ。乱打戦になれば、それを喰らう可能性がある。ならば蹴り主体の組み立てで、流れを自らのペースに持ち込む方が得策だと考えたからだ。

絶対に負けられない闘い。

もしここで敗れたならば、その先に見据える那須川天心との頂上対決も消滅してしまう。慎重を期す必要があった。

武尊は計3度のダウンを奪い、挑戦者レオナ・ぺタスを失神に追い込んだ(写真/K-1)
武尊は計3度のダウンを奪い、挑戦者レオナ・ぺタスを失神に追い込んだ(写真/K-1)

堂々のKO勝利を収め王座防衛を果たした武尊。この一戦で彼の評価はさらに高まった(写真/K-1)
堂々のKO勝利を収め王座防衛を果たした武尊。この一戦で彼の評価はさらに高まった(写真/K-1)

しかし、1ラウンドから無意識のうちにプランを崩していた。果敢にパンチを見舞ってくる相手の心意気を強く感じる中で、武尊が宿す負けん気にスイッチが入ったのだ。

倒されることを恐れぬ激しい強打の交錯。レオナの一撃を喰らい、膝をカクっと折る場面もあった。それでもカーフキックを交えてパンチを返し計3度のダウンを奪う。「死を覚悟して殺しに行った」武尊が凄絶なKO勝利を収めた。

大いに盛り上がる館内。『K'FESTA.4』最高のフィナーレだ。その様子を天心は無表情で見つめていた。

天心の胸中はいかに

武尊と那須川天心。

ふたりの因縁は5年4カ月前に生じた。

当時、K-1 WORLD GP -55キロ級(スーパー・バンタム級)王者で「軽量級最強」と目されていた武尊に、当時17歳の天心が咬みついた。

「闘いましょう」

K-1の会場に出向いて挑戦をアピールしたのだ。

だが、実現には至らず歳月が流れた。そして、この間にふたりの立場は逆転しつつある。

天心はその後、RIZINのリングに上がる。その活躍ぶりはフジテレビを通じて全国に届けられ、知名度は急上昇。人気、実力評価において、いまでは「武尊より上」との声も多く聞かれる。

そのためか、最近の天心は、武尊との闘いに執着しなくなっていた。

昨年の大晦日、武尊が『RIZIN.26』が開催された、さいたまスーパーアリーナに足を運ぶ。天心の試合をリングサイドから観た後、メディアに対して「(頂上対決を)絶対に実現させたい」と訴えた。

だが、これに対する天心のコメントには熱が感じられなかった。

「まだ何も決まっていないんで。もう、あまり時間がない。機会があればやりたい」

そう話すにとどめている。

気持ちは、武尊戦よりもプロボクサー転向に傾いているように思えた。

しかし、敢えてリスキーな闘い方をしレオナを倒し、腰にベルトを巻き輝きを放つ武尊の姿を目の当たりにして、天心は心を動かされたのではないか。

(この男と闘わずしてキック界を去るわけにはいかない)と。

試合後、武尊から改めて対戦を要求された那須川天心。無表情だったが、眼光は鋭かった(写真/K-1)
試合後、武尊から改めて対戦を要求された那須川天心。無表情だったが、眼光は鋭かった(写真/K-1)

考えられる3つの可能性

果たして、ファン待望の「武尊vs.那須川天心」は実現するのだろうか?

現時点で、闘いの舞台として考えられるのは次の3つだ。

1つ目は『MEGA2021』。フロイド・メイウェザーを軸に、2月28日・東京ドームで行われる予定だったイベントだが、諸事情により延期となっている。これが今秋に同じく東京ドームで開催されるのであれば、格好の舞台だろう。団体間の中立も保たれる。

だが、2月に延期が発表された後、『MEGA2021』の主催者からは何のアクションもなく、開催されるか否かも不透明な状況だ。

2つ目は、大晦日の『RIZIN』のリング。

「K-1でもRIZINでもRISEでもない中立なリングで闘いたい」

武尊は、そう話しており大晦日決戦は、これに当てはまらない。それでも最高の舞台ではある。格闘技への関心がもっとも高まる時期であり、全国にテレビ放映もされるからだ。これらのメリットを考慮し武尊サイドが譲歩したならば、ここで実現する可能性も残る。

そして最後は、K-1とRIZINのビッグイベント合同開催。これができれば理想的だ。武尊と天心の闘いを実現させるための一夜限りの夢舞台をつくるのである。これにキックボクシング、総合格闘技の諸団体が賛同すれば「格闘技オールスター戦」となり業界全体のさらなる盛り上がりも期待できよう。

これは、決して夢物語ではない。

闘いを終えた武尊は今後、この道を模索するのではないか。今回の武尊の決死のファイトを観て心を動かされた者は多いはずだ。団体関係者の英断を待ちたい。

武尊vs.那須川天心──。

この「世紀の一戦」を実現できるか否か。ここに日本格闘技界の未来がかかっている。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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