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五味隆典は皇治の咬ませ犬なのか? 42歳になった”火の玉ボーイ”の闘志をたぎらせるメイウェザーの影

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
大晦日『RIZIN.26』で皇治と対戦する五味隆典(写真:RIZIN FF)

「ほぼボクシング」での対決

「大晦日に、さいたまスーパーアリーナへ行く予定はなかった。でも佐々木憂流迦にセコンドについて欲しいと言われて『じゃあ行くか』と思っていた時に、試合のオファーが来た。まあ、できる範囲のことをやります。勝負論がほとんどないエキシビションですけど。若い選手たちの邪魔にならないように」

12月21日、東京・目黒雅叙園において開かれた「五味隆典vs.皇治」対戦発表記者会見。五味は、やる気のなさそうな口調でそう話した。

さいたまスーパーアリーナで開催される大晦日決戦『RIZIN.26』の全対戦カードは以下の通りとなっている。

(提供:RIZIN FF)
(提供:RIZIN FF)

メインエベントは、RIZINバンタム級タイトルマッチ、王者・朝倉海vs.挑戦者・堀口恭司。

五味隆典vs.皇治は、第12試合に組み込まれている。

五味が出場オファーを受けたのは記者会見の10日前だったという。

つまり、このカードにおいて主役は皇治、五味は脇役である。

皇治の参戦は早くから決まっていたが、なかなか対戦相手が定まらなかった。大晦日決戦ならではのお祭り的なマッチメイクを求め、「vs.ボブ・サップ」「vs.チェ・ホンマン」といったカードが模索される。だがこれらが流れ、今度はプロボクシング元世界2階級チャンピオン亀田和毅との対戦話が持ち上がるも、こちらも実現には至らず。

その末に、五味に話が舞い込んだわけだ。

今回の試合は、MMA(総合格闘技)ルールで行われるわけではない。キックボクシングルールでもない。「スペシャル・スタンディングバウトルール」が採用される。

聴き慣れないルールだが、これは「ほぼボクシング」である。

従来のボクシングルールと異なる点は、両者ともにシューズを着用せず素足でリングに上がること。そして、バックハンドブローが認められていることだ。

形式は公式試合ではなくエキシビション。よって戦績に勝敗は加算されない。

3分×3ラウンドで、フルラウンド闘った場合、採点は行われず引き分け扱いとなる。だが、KO、TKOはあり。この取り決めは、2年前の大晦日に行われたフロイド・メイウェザーvs.那須川天心と同様である。

すなわち、エキシビションの名の下での「リアルファイト」だ。

ただ、このマッチメイクには大きな問題点がある。それは両者のウェイトが、かけ離れていること。

「オファーをもらった時、82キロ。ここから絞って75キロでリングに上がることを目指す」(五味)

対して皇治は65キロ前後でこれまで闘ってきている。実に10キロのウェイト差があるのだ。

皇治は当初、ボブ・サップ、チェ・ホンマンといった100キロ超えのスーパーヘビー級と闘おうとしていた。ならば、10キロのウェイト差など大したことではないとの声もあるが、そうではないだろう。ボクシングマッチにおける10キロの体重差は、かなりのハンディとなる。

皇治の挑発に対して「そのエネルギーを試合で出そう」と受け流した五味(写真:RIZIN FF)
皇治の挑発に対して「そのエネルギーを試合で出そう」と受け流した五味(写真:RIZIN FF)

五味がオファーを受けた理由

会見で五味は言った。

「体重も違うので(皇治には)ヘッドギアをつけてもらって、グローブもワンサイズ違うもので構わない。何かあって後でグダグダ言われるのも嫌だから」と。

これに対して皇治が返す。

「じゃあ、ヘルメットみたいなガチガチのヘッドギアをつけてもいいですか?」

「どうぞどうぞ」

そんなやり取りもあったが、実際にはグローブハンディは用いられてもヘッドギア着用は有り得ない。

通常では考えられないマッチメイク。

体重が重い五味は勝って当然だし、もし負けたら笑いものだ。そんなメリットのないオファーを、なぜ五味は受けたのか?

大晦日のリングに上がって勝とうが負けようが、悪くない額のファイトマネーを得られればいいと考えたのだろうか。だから記者会見で、負けた時のエクスキューズとして「エキシビションだから」と強調したのだろうか。

いや、そんなはずはない。

五味は、もっとしたたかで向上心を宿す男である。

対戦発表記者会見で11歳年上に対して「五味ちゃん」呼ばわりをし挑発的なコメントを発し続けた皇治(写真:RIZIN FF)
対戦発表記者会見で11歳年上に対して「五味ちゃん」呼ばわりをし挑発的なコメントを発し続けた皇治(写真:RIZIN FF)

会見で皇治は、こうも言った。

「(昔の五味は)凄かったですよねぇ。でも、もう元気もないみたいだから。昔は『火の玉ボーイ』。でもいまじゃ『金玉ボーイ』、いやいや、もう『金玉おじさん』ですよ(笑)。大晦日はKOじゃなきゃダメとか言ってたから、俺がぶっ倒してやります」

挑発されても、五味は静かに笑っていた。

五味が、こんな屈辱的なオファーを受けた理由──おそらくそれは、先を見据えてのことだろう。

体重差のあるこの勝負、リングから長く離れていてスタミナ面には不安のある五味にも十分に勝機がある。咬ませ犬に甘んじるつもりなど微塵もない。開始早々から勝負に出て倒すつもりでいる。やる気のない発言や態度もフェイクだ。実のところ、静かに闘志をたぎらせ、主役と脇役の逆転を狙っている。

五味は、ポロっとこう漏らした。

「ボクシングマッチ、やりたかったんですよ。来年はメイウェザーも来るしさ」

2021年2月28日、東京ドーム。この大舞台でプロボクシング5階級制覇王者のフロイド・メイウェザーが試合をすることが決まっている。対戦相手には朝倉未来が有力視されていたが、11月の『RIZIN.25』で斎藤裕に敗れたことで白紙状態に。

そこに五味は名乗りを上げようとしているのではないか。

五味と皇治の一戦は、フジテレビ系列で全国に生中継される模様。エキシビションマッチとはいえ、そこでインパクトのあるKO勝利を収めれば「メイウェザーvs.五味」の可能性も生じてくる。

現役引退が近づく42歳”火の玉ボーイ”は「最後の野望」を抱く。それは、大舞台で珠玉の世界王者と拳を交えること──。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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