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イスラーム過激派の食卓:「イスラーム国 モザンビーク州」は草むらでパスタを食べる

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 今期も、「イスラム教徒(ムスリム)の宗教心が高まり、それに伴う紛争の激化やテロ事件の発生が懸念される」断食月(ラマダーン)が始まった。大方のムスリムにとって、ラマダーンは楽しく暮らすお祭りであるが、今期はムスリムが多数を占める地域のかなり広範囲で物価の高騰や経済危機が広がっており、それが長期化している地域も珍しくない。そのようなわけで、本当にラマダーンが紛争激化やテロ行為の発生の多寡と因果関係があるかはともかく、地域の情勢を観察する身としては仕事が増えそうな気がしてならない。筆者の職業的な関心事としては、「イスラーム国」の者たちが今期はどのようにラマダーンを過ごすかだ。というのも、同派は「ラマダーン中の功徳は10倍」と称し、ポイント10倍キャンペーンのような扇動で模倣犯・共鳴犯の決起を扇動したことがあった。また、過去数年もラマダーンの最後の10日間をめどに報道官が演説して各地の「州」に攻勢を実施するよう扇動し、攻勢の期間中は「イスラーム国」による戦果発表などの件数が通常よりも明らかに増えていた。ところが、昨期のラマダーンにはそのような攻勢は宣言されなかっただけでなく、例年各地の「州」の者たちが日々の暮らしぶりやラマダーンのごちそうを楽しむ様を写した画像群の発信も全くなかった。「イスラーム国」は長らく衰退を続けていたことから、昨期のラマダーンの活動の停滞は組織の衰退を反映しているとも思われるし、同派の自称「カリフ」や報道官が代替わりを繰り返すことにより、個々の自称「カリフ」や報道官の個性が広報活動に反映された可能性もある。もっとも、この3年あまりは自称「カリフ」の交代が頻繁過ぎて個々の自称「カリフ」の個性や方針が広報活動に反映されるには在任期間が短すぎるようにも思う。

 しかし、今期のラマダーンはいつもとは異なる可能性もある。2023年10月7日の「アクサーの大洪水」攻勢以来の中東での紛争は、歴史的規模で深化・拡大しているように思われるし、それに伴いイスラーム過激派諸派、イスラーム主義運動諸派、一般のムスリムの思考や行動にも影響が出そうだからだ。現に、「イスラーム国」は2024年1月初頭に「かれらに会えば、何処でもこれを殺しなさい(コーラン第2章191節)」攻勢と称する攻勢を実施し、各地の「州」の戦果発表を増加させた。しかし、この攻勢は、「ユダヤとその同盟者を攻撃する」と称したにもかかわらず、「イスラーム国」やその共鳴者・模倣者はイスラエルやその同盟国である欧米諸国の権益を一切攻撃しなかった。「イスラーム国」が攻撃したのは、実際の戦場でイスラエル(≠ユダヤ)とその同盟者と干戈を交える「抵抗の枢軸」を構成する当事者たちや、そもそも状況の推移とは全く関係のない哀れなアフリカのキリスト教徒たちだった。現時点での「イスラーム国」についての展望は、同派は世論や報道機関から忘れ去られるのは嫌なので、昨今の紛争に乗じて多少情報の発信や攻撃の件数を増やすだろうが、イスラエル(≠ユダヤ)や本邦も含む欧米諸国の権益への大規模な攻撃は起こしそうもない、といったところだ。

 そのような「多少は」活発になった「イスラーム国」の広報活動の一環として、およそ1年ぶりに待望の(?)「イスラーム国」の者たちの日々の暮らしを写す画像群が発表された。発信者は「イスラーム国 モザンビーク州」だ。「モザンビーク州」は長期低迷傾向の「イスラーム国」の中で活発に戦果を上げる数少ない「州」の一つだ。写真1は食事の準備の一コマで、鹿のような動物を食肉処理する場面だ。

写真1:2024年3月10日付「イスラーム国 モザンビーク州」
写真1:2024年3月10日付「イスラーム国 モザンビーク州」

 写真2、3は調理場面だ。この画像群には数十人が複数の小屋からなる基地のような所で戦闘準備や学習をする場面も含まれているのだが、食事の準備は野外で、焚火によって行われている。また、調理器具も野趣あふれる手作りの器具に見える。

写真2:2024年3月10日付「イスラーム国 モザンビーク州」
写真2:2024年3月10日付「イスラーム国 モザンビーク州」

写真3:2024年3月10日付「イスラーム国 モザンビーク州」
写真3:2024年3月10日付「イスラーム国 モザンビーク州」

 そうして準備した料理を食べる場面が写真4、5だ。料理はパスタの上に肉の煮込みをかけたもののようだが、写真4のとおり肉の煮込みは保存容器状のものに入れられており、戦闘員らが調理場所から遠い所まで料理を運んで食べている可能性がある。また、この2点の写真はいずれも開けた場所ではなく、なんだか快適でなさそうな叢が食事場所となっていることから、撮影場所を基地や村落ではなく、敢えて前線の戦闘部隊や哨戒拠点にしたことも考えられる。

写真4:2024年3月10日付「イスラーム国 モザンビーク州」
写真4:2024年3月10日付「イスラーム国 モザンビーク州」

写真5:2024年3月10日付「イスラーム国 モザンビーク州」
写真5:2024年3月10日付「イスラーム国 モザンビーク州」

 「イスラーム国 モザンビーク州」は、「イスラーム国」の中では比較的活発に活動しており、モザンビークの一般のキリスト教徒の村落を襲撃し、民間人の殺戮、彼らの財産や教会の焼き討ちを繰り返している。世界的な無関心の中、モザンビークでは「イスラーム国」の勢力が拡大しているような気配で、今般の画像群でも数十人の人員が村落か建物群を伴う基地のような施設で活動していることがわかる。「モザンビーク州」が本当に視聴者に誇ることができる程度に活躍しているのならば、今後もこの種の画像群の発信が続くことが予想される。「イスラーム国」の活動が活発だと考えられている他の「州」の広報活動も、これに倣うことだろう。また、衰退して久しく動静についての情報がない「州」からも何か発信があるようだと、少なくとも広報場裏では「イスラーム国」が復調の端緒をつかみつつあると判断せざるを得なくなるだろう。今期のラマダーンで「イスラーム国」が自らの暮らしぶりについてどのくらい広報してくれるのか、大いに興味深い所ではある。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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