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シリア:「トルコの民兵」に組織改編の動き

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 シリア紛争(2011年~)の当事者、そして現在の東アラブ地域で活動する様々な民兵の中でもっとも著名なのは「イランの民兵」だろう。「イスラーム国」も非国家武装主体の一種として民兵とみなすのならば、彼らは現在もシリア領に潜伏し、活動を続けている。しかし、シリア紛争に干渉し、シリア領を占拠したりそこでシリア人民の生活の向上や彼らの権利の実現に反する活動をしたりしているのは、「イランの民兵」や「イスラーム国」だけではない。アメリカが支援・育成し、現在は「イスラーム国」の構成員らを超法規的に収容する施設を管理する「汚れ役」を担っているシリア民主軍(SDF)や、アメリカ軍がシリアとイラクとの往来を妨害するためだけに占拠しているタンフとその周辺に配置し、アメリカ軍の存在が不法でないことを示すお飾りとなっている元「自由シリア軍」の民兵は、「アメリカの民兵」と呼ぶべきものだ。また、ヨルダンも地縁・血縁を通じてシリア南部から人員を動員して紛争に干渉しようとしたが、そうした者たちは「ヨルダンの民兵」と呼んでいいだろう。

 本稿で取り上げる者たちも、「悪の独裁政権」を打倒してシリアに自由・公正・平等をもたらすという「革命」の理念や目標をすっかり忘却し、トルコから給与をもらい、トルコ軍から訓練や装備の提供や指令を受ける者たちだ。彼らは、現在は「シリア国民軍」なる名称でトルコ軍が占領するアレッポ県北部を主な居場所としている。「シリア国民軍」は、かつての「自由シリア軍」、イスラーム過激派など雑多な団体を糾合したもので、トルコの都合によってはリビアにでもアゼルバイジャンにでも出かけて戦う勇敢な民兵だ。2024年2月13日付『シャルク・アウサト』紙は、この「シリア国民軍」について、組織の改編・改革が進められているとして要旨以下の通り報じた。それによると、改編・改革は「シリア国民軍」が活動するシリア北部の治安の強化が目的で、構成団体の一部を統合・解体して人員を削減すること、「シリア国民軍」を統制する(ことになっている)「シリア暫定政府」の国防省の強化を通じてなされるそうだ。「シリア暫定政府」は、「反体制派」の連合体である「国民連立」のもとに編成されトルコで活動している政体だが、「国民連立」も含め長年その無力が非難の的となってきた。

 具体的な改編としては、「シリア国民軍」の「諮問評議会」を解体し、「高等軍事評議会」でこれを代替すること、士官養成のための機関を設置すること、一部の団体を解体して「シリア国民軍」の構成団体を削減することが挙げられている。消息筋によると、この改革計画は「シリア国民軍」の活動地域に隣接するイドリブ県の一部を占拠している「シャーム解放機構(旧称はヌスラ戦線。シリアにおけるアル=カーイダ)」が「シリア国民軍」の活動地域へと勢力を拡大し、同地域への攻撃や侵入を繰り返していることを受け、2023年末に策定された。計画の策定はもっと早かったが、トルコ当局のシリア問題担当者の人事改編のため実行が遅れたとの説もある。改革計画には、「シリア国民軍」の憲兵組織の改革、同派の活動地に設置された検問所の統制も含まれている。また、「シリア国民軍」から分裂し、「シャーム解放機構」と提携して活動するようになった複数の民兵団体を同派との提携を解消して「シリア国民軍」に復帰させることも計画されているらしい。「シリア国民軍」と「シャーム解放機構」が占拠する地域の境界には、複数の非公式通過地点が設けられているが、これらを廃止して通過地点を1つに収斂することも改革の一環らしい。通過地点の収斂は、「シャーム解放機構」からの浸透や侵害行為を阻止することを目標としている。人員削減計画では、「シリア国民軍」を構成する諸派を27から18に削減し、人員を半減することになっている。諸派は、地域性やイデオロギー性に基づく編成から装備や専門技術に応じる編成に改められ、それに基づき現在用いられている「師団」や「旅団」という呼称も廃止される。削減された人員の一部は憲兵に移籍する。

 「シリア国民軍」の活動にまつわる問題は、今に始まったことではない。同派は、傘下に「東部自由人運動」のような、「イスラーム国」の幹部が「シリア国民軍」の占拠地域に移動・潜伏するのを手助けしたとされる民兵を抱えており、同派の占拠地域は「イスラーム国」の幹部にとって安住の地となっていた。実は「イスラーム国」と共謀・共生関係にあるという点では「シャーム解放機構」も同様だ。「シャーム解放機構」は、表面上は「イスラーム国」と敵対しているものの、両派が実際に戦火を交えたことは2015年以降ほとんどない。「イスラーム国」の歴代の自称カリフのうち、少なくとも3人は「シャーム解放機構」の占拠地に潜伏中に殺害され、彼らはその間「カリフ」としての活動を悠々と続けていた。なお、「シャーム解放機構」も、実は内部に外国人が指導するものも含む少なくとも3つの派閥が割拠し、2023年はその対立抗争や粛清も発生する状態となっていたようだ。今般、トルコが「シリア国民軍」の改編・改革に乗り出したのは、「シリア国民軍」の自体の問題だけでなく、占拠地域が隣接する「シャーム解放機構」の動揺や変質も見据えたものだそうだ。

 今般の動きで重要なのは、シリア紛争が軍事的・政治的に膠着する中、紛争当事者のすべてが傘下の民兵を統制したり、動員を解除したりする局面にあるということだ。政府側でも、「イランの民兵」を含む親政府民兵の法的身分や指揮系統を政府・正規軍に統合しようとする措置が取られている。このような状況は、大きな戦闘がほとんど発生しなくなる中、民兵の素行の問題や維持経費の負担も考えなくてはならない諸当事者が、様々な面で重荷となっている民兵の整理を試みているから生じる。「革命」実現に邁進するでもなく、ぼんやり基地にいるわけでもなく、勝手に検問所を設置したり「イスラーム国」に便宜を図ったりするような民兵は、シリア人民にとって「革命の戦士」でなく重荷に他ならない。ちなみに、アメリカ軍はSDFの占拠地で盗奪したシリアの天然資源や農産物をいずこかで売りさばいてSDFの維持費や自軍の「駐留」の経費を捻出するという、賢い方法を「発明」したようだ。シリアに限らず、紛争の現場で戦闘の機会が減少すればそこで活躍していた民兵は用なしどころか邪魔でしかない。シリアでの諸般の民兵や彼らの行く末を観察するということは、世界各地の紛争の研究や平和構築などの「より大きな話」に事例や知見を提供する作業でもあるということだ。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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