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ハマス(ハマース)の武器供給者はイスラエル!?

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 ガザ地区で続く戦闘で、イスラエルによる攻撃や封鎖にも拘らず片方の当事者であるハマースの武器や弾薬が枯渇したという話は聞かれない。また、今後の展望についても、ハマースが後数カ月は戦闘可能だとの見通しが唱えられている。今般の戦闘では、ハマースが比較的近代的な兵器を使用していることが明らかになっているが、それらをどのようにガザ地区に持ち込んだのかは、小型ボート、地下トンネル、通常の物資の中に隠蔽するなどの手段が考えられるが、全容は解明されていない。しかし、ハマースによる兵器やその原料の調達経路は従来考えられてきたものよりも多様で、イスラエルの軍や情報機関にとって「予想外」の調達先もあったようだ。この件について、カタルの衛星放送局アル=ジャジーラは、アメリカの『ニューヨーク・タイムズ』紙を基に要旨以下の通り報じた。「予想外」の調達先とは、ほかならぬイスラエルだったのだ。

 報道によると、ハマースが保有・使用した多数のロケット弾、対戦車兵器の弾薬は、イスラエル軍がガザ地区に対して発射した兵器のうち、不発だったものから取ったものだったそうだ。イスラエル軍は、過去17年にわたりガザ地区を封鎖するために様々な兵器を使用したが、そのうちの不発弾はハマースにとって主要な爆発物の入手源だった。一般に、弾薬のおよそ1割は不発なのだそうだが、イスラエル軍の弾薬の不発率はそれよりも高い15%ほどらしい。その理由は、イスラエル軍のロケット弾の中にアメリカなどが使用をやめているベトナム戦争時代にまで遡る型が含まれるからだ。ガザ地区には2023年10月7日以前にも断続的に攻撃が加えられていたが、それにより同地区には数千トンの不発の爆発物がのこされた。重さ750ラトル(注:1ラトルは場所によって異なり、約450g、約3.2kg、約2.6kgなど様々)の不発弾が1発あれば、数百発のロケット弾に利用できる。イスラエル側はハマースがイスラエルの兵器を利用する能力があることを察知していたが、この情報は重視されなかった。

 また、イスラエル軍の武器庫も盗難被害に遭っていた。警備が厳重でない複数の基地から盗まれた多数の弾薬や武器、手榴弾がハマースの手に渡っていたそうだ。実際、「アクサーの大洪水」攻勢の際、ハマース側の戦闘員がイスラエル製の近代的な手榴弾を装備していたことが報告されていたらしい。また、イスラエル軍の高官は「アクサーの大洪水」攻勢でイスラエルの基地から一部の兵器がガザに搬入されたと述べている。

 ここまでを総合すると、「アクサーの大洪水」攻勢特に10月7日の襲撃で、ハマースはイラン製の攻撃用無人機、北朝鮮製のロケット弾、イスラエルの不発弾を再利用した対戦車弾、RPG、爆弾を使用していた。爆発物はガザ地区に持ち込むのが最も困難な物資とされているが、ハマースに爆発物を供給していたのは同地区を封鎖・破壊するために使われていたイスラエル軍の弾薬・爆弾だったというのは皮肉な話だ。一方、長年中東についての報道を眺めていると、イスラエル軍といえども腐敗や犯罪とは無縁ではなく、関連の不正や摘発についての記事も時折現れる。今般の報道は不発弾の再利用、盗難、戦闘での奪取がハマースによるイスラエルの兵器取得の経路として挙げられているが、調査や分析が進むに従って横領や横流しについての情報が出てくることにも備えた方がよさそうだ。意図したものかどうかはともかく、イスラエル軍やその構成員が結果的に「イスラエルに対する大量虐殺」のための資源を提供していたというのは、広報上なんだかおさまりが悪いのは確かだ。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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