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シリア:コレラが蔓延しても人民は汚染された水を飲む

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 シリアでは、2022年9月以来のコレラによる死者数が39人に達した。感染はシリア全国14県のうち11県に及んでおり、保健省の発表によると感染者数は594人である。感染者・死者の多くは、シリア北部のアレッポ県で発生している。なお、この数値がシリア政府の統制外の地域の数値を含むかは不明である。

 多くの場合、コレラは飲料水が欠乏したり、下水設備が不足していたりする居住地で発生し、感染の原因は汚染された水や食品を摂取することである。2022年9月22日付『ナハール』(キリスト教徒資本のレバノン紙)は、AFPを基にシリア東部のダイル・ザウル県における汚染された水や食品を利用せざるを得ない住民の実態を要旨以下の通り報じた

 地元の当局は、ダイル・ザイル県でのこれらの蔓延の原因をユーフラテス川の汚染と流量の減少にあると考えている。ユーフラテス川は、トルコからシリア、イラクを経てチグリス川と合流し、シャット・アラブ川としてペルシャ湾に注ぐ。ユーフラテス川の全長は2800kmで、その中シリア領にかかっているのは600kmである。近年ユーフラテス川の流量が減少しているのは、干ばつや気温の上昇に加え、トルコが領内に多数のダムを建設し、シリア側への流量を減少させていることにもある。ユーフラテス川の流量が減少すれば、そこに流入する下水による水質汚染の程度が増すことになる。また、ダイル・ザウル県にある油田からの、油による水質汚染も重要な問題である。

 上記報道によると、水質の汚染にも拘らずシリア人のうち500万人以上がユーフラテス川を飲料水の主な水源としている。ダイル・ザウル県の病院でコレラの疑いがある患者たちは、ユーフラテス川から直接くみ上げた水を、ろ過も浄化もしないまま飲用している。このような、コレラが蔓延する主要な原因への抜本的対策は取られていない。地元の農民は、カブ類、キャベツ、ホウレンソウ、ゴマなどの作物の灌漑にユーフラテス川の水を利用しているが、これが収穫物の汚染の原因となっている。この農民は、「現地には消毒用の塩素がなく、水が汚染されバクテリア類に満ちているのだが、我々はそれを飲んでおり、(安全は)神頼みである」と述べた。

 国連によると、シリア紛争の結果、浄水場の3分の2、取水施設の半分、貯水施設の3分の1が破壊された。コレラの蔓延を抑制するには、上下水道の整備や灌漑用水の汚染の回避が必要なようだが、シリアでの社会基盤の復旧・復興はほとんど進んでおらず、今後も同種の伝染病の発生を抑える根本的な措置は取りにくいだろう。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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