2021年7月17日、シリアではバッシャール・アサド大統領の4期目就任に際しての宣誓式が行われた。アサド大統領がシリアの政界や社会的要人数百人を前に演説をしたこと自体ニュースなのだが、これと同じ日に中国の王毅外相がシリアを訪問し、アサド大統領やミクダード外相と会談・協議をしたことがより注目すべき点と言えるだろう。これまで、中国はシリア紛争に際し「内政不干渉」やシリアに対する諸般の援助の提供といった立場で関与する一方、イランやロシアのように自国の存亡の問題としてシリア紛争に関与する諸国の陰に隠れるかのようにしてこの問題で欧米諸国との対立が顕在化するのを避けてきた。ここから、少なくとも国連安保理におけるシリア紛争への対応で中国をロシアから引き離そうと試みられたこともあったのだが、今般の王外相の来訪はこれが文字通り幻想に過ぎなかったこと明らかにするものだった。

王外相は、ミクダード外相との協議の場でシリア紛争の解決に関し4点の原則を含む提案をしたそうだ。それによると、提案は以下の通りである。

  1. シリアの主権と領土の統一が必須である。中国は、シリア人民の選択を尊重するとともに体制転換という幻想を棄てるよう呼びかける。
  2. シリア人民の快適な暮らしを第一とすべきであり、シリアの復興を急がなくてはならない。中国は、シリアの人道危機の解消の主要な道はあらゆる一方的な制裁と経済封鎖を直ちに解除することであると考える。シリアへの国際的支援の充足は、シリアの主権の尊重とシリア政府との協議に基づかなくてはならない。国境を超えた支援の提供の透明性を増すとともに、シリアの主権と領土の統一を擁護しなくてはならない。
  3. テロ対策での断固たる立場を支持しなくてはならない。中国は、国連安保理で指定されたテロ組織への対策の必要性と、二重基準を拒否することを確認する。同様に、シリア領内でのテロ対策におけるシリア政府の先駆的役割を尊重しなくてはならない。テロ対策でシリアが払った犠牲を認めるべきだ。中国はシリアのテロ対策での立場を支持し、テロ対策での世界的協力強化でシリアとともに取り組む。
  4. シリア問題の包括的な政治解決を支持すべきだ。中国は、シリア問題をシリア人主導で政治的に調停するよう呼びかける。そして、対話を通じてシリアの全ての派閥間の相違を狭めるよう呼びかける。国際社会は、シリアへの建設的な支援をするべきだ。仲介の主要な経路として、国連が役割を果たすことを支持する。

 さらに興味深いことは、アサド大統領と王外相との会談の際、シリアが中国が唱道する「一帯一路」構想に参加する件が議題となり、王外相はシリアが同構想に参加することに関心を示し、「シリア人民がテロリズムと闘い非人道的な封鎖と制裁に対抗することへの支援を継続し、今後もシリア人民の内政干渉に反対する」と表明したことであろう。同構想がシルクロードを念頭に置いた経済圏ならば、陸・海の両方でシリアの参加は構想実現に不可欠なものではある、ただ、現実の問題として「一帯一路構想」への関与の在り方が「アメリカをとるか、中国をとるか」という二択の問題になると、これまで同構想に迎合してきた諸国から脱落する国が出かねないため、中国としてはシリアが同構想に参加することをさほど熱心に推進する環境にはないだろう。また、そこまでしなくともシリアの貿易や経済の面で、中国は最重要の物資や資本の提供者の一つであることは動かしようのない事実でもある。実際、17日に行われた双方の協議でも、中国による大規模な援助や支援に関する合意の類が締結されたわけではない。これには、すでにロシアやイランのような「既得権益者」が元々さほど大きいわけではないシリアの経済的権益を「とりつくした」状態にあることも関係しているだろう。

 中国がシリア紛争の主要な当事者として参加するまでには、「既得権益者」との調整が必要不可欠である。また、ウイグル人によるイスラーム過激派組織でシリア領内に安住の地を見出したトルキスタン・イスラーム党の殲滅に中国が本格的に関与するためには、同派とその仲間たちを支援してきたトルコのような諸国との関係の調整も必要となるだろう。これらのような課題を解決するには、まだ時間がかかるようにも思われる。しかし、中国が一見同国が掲げる外交上の原則の繰り返しのような立場表明をするためにわざわざシリアに外相を派遣したことは、同国なりの情勢分析と意思決定を経たものとみるべきで、シリア紛争は「どこかから正義の味方が現れて悪の独裁政権を打倒してくれる」と夢想することはもちろん、「シリア人民の生活水準を下げ続ければ体制が崩壊する」といった筋書きも全く現実的ではない局面にあることだけは確かだろう。