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遠藤保仁、日本代表国際Aマッチ、最多出場記録更新へ。

高村美砂フリーランス・スポーツライター

■変化を楽しむ。

「ここ最近になってようやく数字を意識するようになりましたね。せっかく井原さんの記録を抜けるチャンスがあるなら…抜けたらいいな、と。だって、記録で名前を残せるチャンスなんて、そうそうないから(笑)。でも、日本代表に入った当初は全く想像していなかったですよ。毎回、ただ純粋に『日本代表に呼ばれて試合に出たい』という思いだけで、それを積み上げてここにたどり着いた。初めて数字を意識したのは『100』に達した時。そこは我ながら『すごいな』と思った(笑)。でも、これは全ては周りの人たちの支えがあったからだと思います。」

井原正巳氏が持つ、日本代表国際Aマッチ最多出場記録『122』に並ぶ10月12日のフランス代表戦を控え、遠藤保仁はこんなことを語っていた。普段からあまり数字には興味を示さない遠藤だが、さすがに日本記録となれば特別なのだろう。とはいえ「記録で名前を残せるチャンスなんて、そうそうない」といたずらっぽく笑ったあたりが、いかにも遠藤らしい。

その記録は4人の日本代表監督のもとで築き上げた。ジーコ氏、オシム氏、岡田武史氏、そして現在のザッケローニ氏。どの監督にも常に必要とされ、結果で応えてきた。それを支えてきたのは『変化させられる力』だろう。彼には、どれだけキャリアを積み上げても、その時々で新たなサッカー、スタイルを素直に受け入れ、吸収し、自らの力に変化させていく力がある。いや、むしろその『変化』楽しめるあたりに遠藤の凄さがあるのかも知れない。

「若い時から自分の考えを何がなんでも通そうという思考はなかったし、その時々で自分を変化させられてきたとは思う。監督に好かれたいという考えではサッカーはしていないけれど、結果的に、監督が変わって新しいサッカーになる度に、『これは自分の理想と違う』と思うのではなく、『ああ、こういうのもあるんだ』と素直に受け入れてきた。だって、その方が楽しいから。例えば同じ場所で、同じ山を観ていても、その山の色が変わったら? 赤い山が緑の山になったら? 『今回は違う山に来たな』って感覚を持てる。僕はそのことが一番楽しいし、そういう変化を楽しめる選手が、賢い選手なのかなとも思っている。」

■目の前の1試合を懸命に。

『変化』を楽しむ彼を如実に示したのが、オシムジャパンだ。それまでは自らのスタイルをベースに臨機応変にプレーを変化させてきた遠藤だったが、オシム氏の目指すサッカーには初めて「自分の考えとオシムさんが目指すサッカーをすり合わせることに難しさを感じた」と振り返る。

「分かりやすく言うと、本来なら10秒で終わらせられる仕事を、オシムさんのサッカーではわざわざ15秒かけてやるみたいなところがあったからね。10秒でやろうとしてミスになり20秒になるくらいなら、遠回しでも最初から15秒でやるほうがいい、みたいな。それに、とにかく運動量を増やして、走る、というのがベースにあったからね。それによって、僕としては『動かないからパスコースが生まれる』と思っているシーンで、『動いてしまうからパスコースが消えてしまう』ということもあった。ただ、オシムさんの言っていることは、頭では理解できていたし、自分とは考えが違うだけでそれも正論だと思っていたから。それを自分に取り入れられれば更に成長できると思っていた。」

その言葉とおり、彼は時間とともに確実にオシム氏の目指すサッカーを受け入れて行く。事実、オシムジャパンでは試合中、最も長い距離を走っていたのが遠藤だったというデータも。加えて、彼が常にオシムジャパンの中心選手として戦い、その後の岡田ジャパンでも、不動のボランチとして起用され続けたという事実も、彼が変化を受け入れ、自分のものにしてきた最たる証拠だろう。

それは現在のザックジャパンでも同じだ。時代の流れとともに、選手が入れ替わり、これだけ若い選手が増え、いわゆる“海外組”に日本代表枠を占領されても、遠藤が変わらず求められ、起用され続けるのは、その都度、変化を受け入れ、楽しめるから。その上で、更にパワーアップさせた自分をピッチで示し続けてきたから。

そんな遠藤がいる限り、明日16日のブラジル代表戦(@ボーランド/ヴロツワフ)で『日本代表国際Aマッチ 最多出場記録』を達成したとしても、彼はこの先も、その数字を伸ばし続けることだろう。

「先のことは何も分からないけど、14年のブラジルW杯も中心選手でやりたいという漠然とした思いはある。でも、それが最終的な目標か?と聞かれたら、そうじゃない気もするし…。結局、僕らは1試合1試合、積み重ねていくしかないんだと思う。井原さんの記録を抜いたからといって、光栄には感じるけど、何かが特別変化する訳でもないしね。あくまで数字は数字で、そこに内容が伴わなければこの先、数字を積み上げていくことはできない。だからどれだけ数字を重ねても、目の前の1試合、1試合を懸命に戦い抜くこと。それはこれから先も変わらないと思う。」

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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