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<ガンバ大阪・定期便93>スピードに乗って前へ、前へ。走れ、ウェルトン。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
左右両サイドからのスピードに乗った仕掛けで攻撃を加速する。写真提供/ガンバ大阪

■泥臭く、最後まで。「10回中、9回は勝てる自信がある」というマインドが表現されたアシスト。

 その仕掛けは、スピードと鋭さ、強さをもって表現された。

 J1リーグ第10節・鹿島アントラーズ戦。1点のビハインドを追いかける展開の中、39分に坂本一彩が挙げた同点ゴールは、右サイドを駆け上がったウェルトンが相手DFの対応にあいながらも泥臭く粘ったシーンから生まれた。

「僕のプレースタイルは最後まで戦い切る、プレーを続けること。倒されても体がオートマチックに反応し、そのままプレーを継続した中で一彩(坂本)が自分のことを信じてあそこに入ってきてくれた。それが得点につながったのは…あのプレーだけを切り取れば、すごく嬉しいシーンでした(ウェルトン)」

 その言葉通り、一旦は相手DFに体をぶつけられ、バランスを崩して倒れ込んだが、すぐさま起き上がり、ゴールライン際にこぼれたボールを拾って折り返す。目線の先には坂本を捉えていた。

「僕が日本に来てプレーさせてもらっているからこそ、まずは僕自身が日本のサッカー、スタイルに自分をアダプトさせていくことを考えていかなければいけないと思っています。それを意識した上で一彩とは練習中にもあのゴールシーンのように自分がサイドでボールを持った時には…10回そういう状況があれば9回は勝てる自信があるということを冗談交じりで伝えていました。だから一彩も僕のことを信じて、次のプレーに繋がるようなポジション取りをして欲しい、と。その言葉を信じて、彼もあそこに顔を出してくれたんだと思っています(ウェルトン)」

 センターサークル付近からニアサイドに詰めていた坂本もその言葉を信じていた。

「ウェルトンは毎回、仕掛けて行き切ったあと、そこで奪われるかなと思っても、もう一踏ん張り粘ってくれる。あのシーンでも最後まで出てくるだろうと信じて走り込んでいました。僕は本当に流し込むだけだったのでウェルトンに感謝したいと思います(坂本)

■なぜ彼はアジアでのプレーを選んだのか。「今年のガンバはまた違ったシーズンになる」。

 J1リーグでのデビュー戦となった、第2節・アルビレックス新潟戦からそのプレースタイルはわかりやすく表現された。8分と表示された後半アディショナルタイム。90+1分にピッチに立つと、短い時間の中でも持ち味であるスピードとドリブルでサイドを彩る。1点のリードを奪って試合の最終盤を迎えていた時間だったこともあり、敢えて前がかりになりすぎないように自身の勢いをコントロールしていたようにも見えたが、ボールを持った際の機動力は明らかで、チームに加わった新しい風に期待は募った。

 それを歓喜に繋げたのが、初先発から2試合目となる第5節・サンフレッチェ広島戦だ。スコアレスで試合が進んだ76分。坂本のシュートを相手GKが弾いたこぼれ球に反応し、右足でJリーグ初ゴールを奪う。

「みんなが日々ハードな練習に向き合ってきた結果として奪えたゴール。チームメイトに感謝したい」

 ピッチ上で見せる猛々しいプレースタイルとは一転、ピッチ外ではどちらかというとシャイで、物静かな印象もあるウェルトンはこの日も真摯に、謙虚に喜びを口にした。

広島戦でのJ初ゴール後、胸のエンブレムを叩き、サポーターに笑顔を向けた。写真提供/ガンバ大阪
広島戦でのJ初ゴール後、胸のエンブレムを叩き、サポーターに笑顔を向けた。写真提供/ガンバ大阪

 子供の頃から憧れた「ヨーロッパでのプレー」をブルガリア1部リーグ、レフスキ・ソフィアで実現した彼が、次なる新天地に選んだのはアジア、日本でのプレーだった。他国リーグからの誘いもあったが「自分の夢を叶えられるチャンス」だと決断したという。

「正直、他のリーグ、クラブからのオファーはありましたが、自分が描いていた2つの夢のうち、ヨーロッパでプレーすることはブルガリアで実現できたので、今回はもう1つの夢だった『アジアでのプレー』を叶えようと思いました。もちろん、チームを選択する上ではいろんな情報を得ましたし、自分なりにチームのことを(インターネットで)検索してみたりもしました。その中で、ガンバのサッカーはもちろん、サポーターの皆さんの雰囲気もすごく気に入りましたし、ガンバのスタイルに自分のプレースタイルがうまく噛み合うんじゃないかとも考えました」

 もっとも、好きなスタイルを尋ねると「勝てるチームが好き」だとウェルトン。その言葉に照らし合わせるなら、昨年、残留争いに巻き込まれたガンバ大阪はその好みとはかけ離れた結果に終わったことになる。そのことは決断に際して気にならなかったのかと尋ねると、それもわかった上でここにいると言葉を続けた。

「いろんな情報を集める中では、昨年のガンバがいい成績を残せなかったことは僕自身も把握しています。ただ、昨年は昨年、今年は今年です。このチームが備えるポテンシャルを考えれば、今年は昨年とはまた違ったシーズンになると思っていますし、勝つために僕自身も精一杯のサポートをしながら、強いメンタリティを持って今シーズンに臨みたいと思っています。シーズン前のキャンプをみんなと共に過ごすことができなかったのは残念でしたが、チームにはうまく解け込むことはできていますし、この先、時差ボケなどが解消されてトレーニングにしっかり取り組むことができるようになれば、自分の強みであるスピードやドリブルは表現できると思っています。ただ、チームにフィットしないと自分の良さを出せないということはわかっているので、まずはそこにチャレンジすることを第一に考え、日々のトレーニングに向き合おうと思います」

■チームメイトを活かし、活かされながら常に「自分の武器で勝負する」。サッカーができる幸せとともに。

 チーム合流から約2ヶ月。その言葉どおり、戦術への適応やチームメイトのプレースタイルへの理解を深めながら持ち味で勝負することを心がけてきた。

「ピッチで仮に相手にハードなマークをされたとしても、その場面、場面で、自分にできる最良の選択、パフォーマンスをできるのが僕の強み。ガンバが歩んできた歴史にふさわしいポジションに戻れるように、自分がやるべき仕事をきっちりと実行し、チームメイトのサポートを最大限にできれば、未来のことは神様が決めてくれる。だからこそ、僕は今をしっかり戦うことだけを考えて仕事をしようと思います」

 広島戦以降、ほとんどの試合で先発のピッチを預かる中では試合状況や先発メンバーの顔ぶれに応じて右に、左にポジションを変えながら、その持ち味が余すことなく表現されている印象だ。チームメイトも彼への理解を深めるにつれ、チームとして『スピードに乗ったドリブル』というウェルトンの特徴をスムーズに発揮させるようなポジショニング、ボールの動かし方を意識しているのが見て取れる。あとはそこにフィニッシュの精度が伴ってくれば、より相手にとって怖い存在になっていくことだろう。

 加えていうならば、今後、彼の特徴を踏まえて相手チームにもより策を講じられてくることが予想される中でいかにそれを上回るパフォーマンスを示せるかも肝になっていくはずだ。もっとも、冒頭に書いた鹿島戦のように、相手選手の激しいマークに晒されようとも突破を繰り返している姿を見ていれば、心配はしていないが。

「この先も相手選手が2人、3人とマークを増やしてきたとしてもドリブルでの仕掛け、という自分のスタイルは貫いて、きっちり前に出ていこうと思っています。そこは必ず継続します」

 自身のパフォーマンスをチームの勝利に繋げるためにも。

「いつも言っているように、僕がここにいるのは、ガンバのために自分のできうる最大限のパフォーマンスを発揮するためです。鹿島戦で自分たちが望んでいた結果を掴めなかったのはすごく残念ですが、下を向いている時間はない。次に向かってきっちりと準備をしていこうと思います」

 ウェルトンをピッチ内外でサポートする木村正樹通訳は、彼の素顔について「ゲーム中、勝っていても、負けていたとしても、状況に揺り動かされることなく冷静にプレーできるのが彼の良さ。もちろん感情を露わにする時もありますが、彼の場合は喜ぶのも一瞬だし、悔しがるのも一瞬。すぐに次に目を向けています」と話す。その言葉はおそらく、チームスタッフから聞いた「気分の浮き沈みがなく、どんな時もサッカーをプレーすることを楽しんでいるように見える」という言葉にも通じるものだろう。

「それは自分のキャラクターだと思っています。小さい頃からサッカー選手になる夢を実現できた今、僕は練習も、試合も、好きなサッカーを毎日、プレーできることをとても幸せに感じています。サッカー選手として長くプレーし続けることもこの先の夢の1つに描いている中で、今こうしてガンバでプレーできていることが素直に嬉しいし、それが自然と笑顔として表れているのかなと思います」

 彼が感じているその幸せは、観ているものにサッカーの楽しさとワクワクを与えてくれるもの。ここ数試合、彼がボールを持つたびに湧き上がるスタンドの歓声にも背中を押され、ウェルトンはこの先も前へ、前へとゴールを目指す。

背番号は97。これまでのキャリアでは17をつけることが多かったが「ガンバでは17が埋まっていたこともあり、生まれ年の97を選んだ」。写真提供/ガンバ大阪
背番号は97。これまでのキャリアでは17をつけることが多かったが「ガンバでは17が埋まっていたこともあり、生まれ年の97を選んだ」。写真提供/ガンバ大阪

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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