<ガンバ大阪・定期便95>福岡将太のJ1初ゴールと、山下諒也の移籍後初アシスト。
■苦しんだ前半を引き分けに持ち込み、後半息を吹き返す。
立ち上がりから相手の攻撃を受けに回る時間が続き、明らかに劣勢の戦いを強いられたJ1リーグ第15節・川崎フロンターレ戦。その流れから26分には、4試合ぶりに先制点を許してしまう。それでも、2分後の28分には宇佐美貴史のフリーキックに中谷進之介が頭で合わせて同点に。最初のシュートをゴールに繋げて試合を振り出しに戻し、1-1で前半を折り返した。
その後半。ガンバが流れを掴むきっかけになったのは、立ち上がりの2つのプレーだったのではないだろうか。
1つ目は、48分に黒川圭介がこの日初めて、敵陣深くまで侵入したシーンだ。宇佐美の縦パスはやや長くなったものの、ペナルティエリア内、ゴールライン際で懸命に足を伸ばした黒川は、ギリギリのところで左足で折り返す。そのクロスボールはバーを叩いて味方には渡らなかったものの、前半にはなかった縦、裏への意識は停滞していた空気を一変させた。
「前半はチームとして消極的というか、アグレッシブさを出せない45分間でリズムをつかめないまま終わったので、後半はそれを絶対に覆そうと思っていました。自分自身も前半はなかなか前に行けなかったけど、背後にボールが出てくるようになれば、もう少し攻撃に絡んでいけるだろうなと思っていました。特に、前半終了間際に、相手の右サイドでメンバー交代があったので、絶対に守備の綻びが出てくると予想していたし、立ち上がりのあのシーンも、そこを積極的に突いていこうという狙いがありました。ああいったランニングは今後も続けたいです(黒川)」
2つ目は、51分。DFラインでのパス交換から、一森純がピッチ中央のスペースを目掛けて縦パスを送り込んだシーンだ。これもフィニッシュにこそつながらなかったものの、宇佐美を経由して左サイドで展開された縦に速い攻撃は、相手のDFラインのミスを誘い、この日最初のコーナーキックのチャンスを作り出す。そのプレーの切れ間に、宇佐美は後方を振り返りながら親指を立てて一森に「いいぞ」と合図を送った。
「前半の戦いを踏まえて、ボールを入れたあたりが空くなという感覚はあった中で、あの1本のパスを通せたことでチームがグッと前向きになれた気がしています。自分自身も『ああ、こういうことやな』って思ったし、ああいった1本のパスで流れを変えられるのも自分の役割というか。1本のセービングもそうですけど、改めて“1本”の大切さを感じました(一森)」
実際、この2つのシーンは、味方に対して何が効果的で、どうすれば揺さぶりをかけられるのかというスイッチになり、ガンバの攻撃は息を吹き返す。それは、前半は常に前に向けられていた川崎の矢印を、後ろ向きにすることにも繋がった。
そうして流れを引き寄せる中で、待望の逆転弾が生まれたのは70分だ。宇佐美がピンポイントで送り込んだ右コーナーキックにニアサイドで福岡将太が頭で合わせてゴールをこじ開けると、81分にはペナルティエリア内に侵入した山下諒也から丁寧に送り込まれたボールを途中出場の倉田秋が右足で合わせて、川崎を突き放す。
「諒也(山下)に出してくれと思いながら入っていったし、(ボールも)呼んでいました。よく見てくれていました。フリーすぎる状況だったけど、落ち着いて決められた。後半はいい流れができていたし、途中出場する時に自分が仕留めきれれば試合を終わらせられると思っていたし、ここ数試合、チャンスで外してしまっていたので今日は一発で決められてよかった(倉田)」
終わってみれば3-1。ガンバは今シーズン2度目となる逆転勝ちで勝ち点3を積み上げた。
■ガンバでの3シーズン目に生まれた、福岡将太のJ1リーグ初ゴール。
川崎戦を迎えるにあたり福岡将太は、2つの責任を自分に向けていた。
1つ目は、単純にホームの地でサポーターに勝利を届けること。
「今は、ここ数年サポーターの皆さんを喜ばせられなかった借りを返している最中。その数はまだまだ足りていないからこそ、今日もしっかり勝ち切って、みんなで喜びたい」
そしてもう1つは、手術に向かう三浦弦太を勇気づける勝利を届けることだ。
「この試合が弦太くん(三浦)の手術前ということでは最後の試合になる。弦太くんを勇気づけると言ったら変だけど、勝って安心材料を1つ増やしてあげたいなって思っています。前から言っているように僕は弦太くんの代わりではないし、自分にできることを精一杯でやることしかできないけど、同じ守備陣として切磋琢磨してきた仲間の分も、失点を減らすという目標はこれからも継続していきたいです」
さらに言えば、この日は、東京に住む妻の祖母が来阪し、観戦してくれていたことや試合前、息子に「パパは、いつ点を決めるのかな」と言われたことにも背中を押されたという。福岡によれば最近は「サッカーに対する息子の熱の上がり方が半端ない!」そうだ。
「シーズンの序盤、なかなかメンバーに絡めずにメンタル的にキツかった時も、子供の顔を見たら吹き飛んだというか。最近は僕がサッカー選手だと分かるようになって、僕がテレビに映ると『パパ、パパ』と喜ぶし、『パパ、サッカー選手』と言われることも増えた。そういう姿を見るたびに息子にケツを引っ叩かれているような感覚になるというか。息子に格好悪い姿を見せられないし、しっかり準備して出番を待とうという気持ちにもなりますしね。それに試合に出ていないと『どうして、パパはいないの?』と聞かれちゃうので、いつも試合に出ているパパを目指さなきゃいけないと思っています」
家族想いの福岡らしいエピソードだ。ちなみにこの日のゴールパフォーマンスは、かつて義母がベストボディジャパンに出場した時のポージングを真似たもの。家で息子とサッカーをする際、ゴールが決まるたびに必ず息子がするポーズを、この日は家族が見守る目の前で、福岡自身がやってのけた。川崎のエリソンの前に体をねじ込んで決めた、嬉しいJ1初ゴールだった。
「貴史くん(宇佐美)がコーナーを蹴る前に陸(半田)とどっちがニアに入っていくか、って話をしていて。いつもなら陸が一番前に入っていくことが多いんですけど、あの時は僕がニアに入る形になった。マークにつかれていた佐々木旭選手を陸がどうにかしてくれて、あそこに動けた。もちろん、貴史くんのボールも抜群でした。そういう意味ではチームが取らせてくれた点だったと思っています。サガン鳥栖戦(第8節)でも似たようなシーンでバーに当ててしまったことがあって。その時と頭を伸ばしてねじ込む感覚はすごく似ていたし、今回はアウトスイングのボールですごく勢いがあったことにも助けられてうまく合わせられた。後半、ホームサポーターの皆さんの目の前で点を取れたのもすごく嬉しかった。何より試合前に話していた勝利を届けるという約束を実現できてよかったです」
表情を綻ばせた一方で、川崎に与えた失点シーンを真摯に振り返ることも忘れなかった。
「試合前からゴミス選手は相手のDFに背負われた状態の方がいいパフォーマンスをするということをチームのスカウティングとしても言われていたので、腕一本分、敢えて距離をとった守備を心掛けていたんですけど、失点シーンは少し僕がゴミス選手に張り付きすぎてしまって。結果、僕の目の前のスペースでやられてしまった。そのシーンを含めて、実は前半の僕の守備について、ハーフタイムにダニ(ポヤトス監督)にめちゃめちゃ怒られて(苦笑)。それで自分としてはスイッチが入りました。実際、後半はゴミス選手にヘディングで競り勝つシーンもあったし、最初から彼につくというより、入ってきたところにしっかりアタックする守備もできた。そのこぼれ球をみんなで拾うというシーンも増えたと思います。そういう意味では僕への喝を通して、チームにも喝が入ったと思うし、みんなが僕への指摘を自分のこととして受け止めて一緒に改善してくれた。そこは、僕は一人じゃないな、みんなで戦ってるなと感じたところでした」
余談だが、今シーズンは再三にわたってセットプレーで惜しいシーンを見出してきた福岡。鳥栖戦に限らず、浦和レッズ戦等でクロスバーに嫌われたシーンも記憶に新しい。その流れがあったからだろう。素晴らしい精度のボールでお膳立てした宇佐美は、冗談めかして彼の初ゴールを祝った。
「いつもあそこに蹴っているんですけど、これまでは『ああ、いいところに蹴れたな』と思っても人がいない、合わないってことも結構多かったので。でも自分は同じ場所に蹴り続けようと思っていたし、いい加減早く決めてくれとも思っていたので、遅いくらいじゃないですか(笑)? 将太もシン(中谷)も…。いや、シンのは、あれ、ほんまに触ってんの? 触ってなくない!? まじで、そこはJリーグの人に解析をお願いしたい。でもまぁ、アシスト2はついたので…いや、多分アシスト2か。普通ならこれまでの試合で5〜6本はついていたはずなんですけど(笑)、今日やっと二人が2つつけてくれたということで、はい、感謝しています(宇佐美)」
試合後、ミックスゾーンに現れた福岡の手には『初ゴール』の選手に贈られる、この日の試合球が。「てか、誰のサインも入っていないんだけど!」とツッコんでいたが、最後は「いいんです、息子に渡します」と表情を緩ませた。
■ケガを乗り越えて。繰り返し前線を駆け抜けた、山下諒也の移籍後初先発と初アシスト。
今シーズン初先発となった川崎戦に、山下諒也は「走るぞ、と自分に誓って」臨んでいた。その言葉通り、85分間の出場で走った距離は9.642キロ。フル出場した選手の数字こそ上回れなかったものの、特にチームがギアを上げた後半は、その決意がそのままプレーとなって表現された。
「前半は守備の部分で相手をリスペクトしすぎてしまい、ボールを持たれてしまったので、後半は、僕らも積極的にボールを奪いに行って、流れを変えていこう、強気にサッカーをしようと臨みました。その中で前からのプレッシャーがしっかりかかる中でボールが取れて、そこから雰囲気をガラリと変えられたのはよかったと思っています。せっかく先発のチャンスをもらったのに、自分の持ち味を発揮しないと自分がピッチに立っている意味がないと思っていたし、監督が僕に求めているのもスプリント、走力だからこそ、そこだけはやりきろうと思っていました」
今シーズン、横浜FCから加入したものの、シーズン序盤はケガで出遅れた。横浜FC時代の昨年10月にオペをした左足の腓骨腱筋周りの筋肉が固まってアキレス腱痛を発症し、思ったより時間がかかってしまったという。
「オフシーズンの間に痛みが取れるだろうと思っていたら、予想以上に長引いてしまった。特に朝が一番痛くて。一度寝て(筋肉が)固まったら、次に立つ時は必ず激痛が走るし、その度に『あ〜今日も治ってないのかよ』ってストレスばかりが溜まっていく感じでした。でも、ガンバに来て同じケガを経験した貴史くんに共感してもらって『ああ、みんなそうなのか』とすごく気持ちが楽になったし、毎朝ちゃんとお風呂で足を温めたり、治療の機械を当てたりしながらちょっとずつ良くなっていく感じもあったので、我慢強く向き合ってきました。結果的に半年以上かかったのは誤算だったし、ましてや移籍した年にいきなりケガで離脱するのはメンタル的にもキツかったです。みんなと話していてもどこかチームに溶け込めていない感もあり…。サッカーをできるようになってようやくガンバの一員になれた気がしました。ガンバのトレーナー陣にも色々とわがままを言って迷惑をかけたし、横浜FCのトレーナー陣にも迷惑かけたので、皆さんに感謝しかないです」
その苦しい経験はプレーできる喜びを再確認する時間になったのだろう。今、ピッチを縦横無尽に走り回る山下はとても楽しそうだ。そして、そのスピードはガンバを加速させる武器になりつつある。
それを確信したのは、J1リーグでは4試合目の出場となった『大阪ダービー』だ。79分からピッチに立った山下は、直後のファーストプレーでスピードを活かしたチェイシングで相手の攻撃の芽を摘み取り、気迫のガッツポーズを見せる。以降も随所で、持ち味であるスピードで攻撃を加速しながら、負けん気の強さを炸裂させてチームに熱を与えた。
「もちろん先発で出たい気持ちはあるけど、スタートから出ても途中から出ても自分の持ち味が変わるわけではないので。時間帯に応じてチームのために必要なプレーをしよう、自分が出ることで少しでもチームにエネルギーを与えられたらいいなと思っていました。途中から出る以上、チームの雰囲気をガラリと変えるようなプレーを見せなきゃ、という思いもありました。サッカーでは90分間、ずっと理想的に進められることばかりではないし、勝っていても負けていても苦しい時間は絶対にあるけど、そこでチームのギアを上げたり、プラスの力を与えられるプレーができるのは僕の特徴でもある。短い時間で一気にパワーを上げるのは当然キツいし、いろんな怖さも伴うけど、そこをやらなきゃ自分じゃない。それにガンバサポーターの皆さんは、いつもそういった力を出せるような応援をしてくれているので。ダービーも、あのパナスタの雰囲気を感じて、より強くスイッチが入ったし、魂を込めてプレーしようって思いにさせられました」
それは移籍後、初先発を飾った川崎戦も然りだ。疲れがのしかかる後半も、山下はホームサポーターのいるゴール裏に向かって繰り返し、目を見張るスピードでゴール前まで走り込んだ。残念ながら長い距離を駆け抜けた69分も、73分のシーンも、山下にボールは渡らなかったが、その姿は間違いなく敵を威圧し、味方の攻撃を前に進め、スタジアムを沸かせた。
「73分のシーンは、試合後、一彩(坂本)に欲しかったな、ってちゃんと言っておきました。見えていなかったみたいです(苦笑)。でも、ああやって繰り返し走っていたらいつかはパスがくると思うので続けたいです」
そして極め付けは、81分に倉田が決めた3点目の『アシスト』だ。川崎のビルドアップのボールをダワンが奪い、前線にスルーパス。それに反応した坂本一彩が右から上がってきた山下にパスを送る。相手の守備陣との距離感を考えても自ら打てる状況にあったが、山下は倉田へのパスを選択した。
「ボールが自分のところに来る前に秋くんの位置がわかっていたので、より可能性が高い方を選択しました。正直、打ちたかったです(笑)。打ちたかったけど、秋くんの方が絶対に確率が高かったし、あそこで2点差をつけられたらチームにとってもかなりデカい得点になると思ってあの選択をしたまでです。1つ、アシストがついたのはホッとしているけど、僕としてはやっぱりゴールという結果の方が本当は嬉しいかな。また次、頑張ります」
そういえば大阪ダービーの後には「今の自分は、これまでにないくらい自信を持ってサッカーができている」とも話していた山下。リハビリに向き合った時間を含めて、自身が積み上げてきた経験が力になっている実感もあるそうだ。
「変な言い方ですけど、僕としてはどこかで一回、足を攣りたいというか。過去の経験からも、そのくらいまで走ることで体が慣れていくし、強くなっていくというか、肺とかも大きくなっていく気がするので。実際、60〜70分まで走り切った次の試合は90分間が楽になるという感覚もある。そういう意味では、早く足が攣るところまで行きたいし、そのくらい走れなきゃダメだと思っています。もちろん、攣ること自体は誇れることではないんですけど(笑)。でも、そのくらいチームのために走れたと思えることが僕にとっての幸せなので。まだまだ走りますよ」
その言葉に照らし合わせるなら、この日、足を攣ることなく85分を戦い終えた山下にはまだまだ余力が残されていたということだろう。それを踏まえても、彼への期待をより膨らませる85分間だった。
最後に、心温まるエピソードを1つ。この試合の前には、今週、右膝の手術に臨む三浦から、チームに動画のメッセージが届くサプライズがあったという。福岡によれば、スタジアム入りする前のホテルでのミーティングの際に、その映像が流れたそうだ。
「弦太くんもきっと不安もある中でメッセージをくれたのは僕たちの勇気に変わりました。ただメッセージの声が小さすぎたのか、音量の問題か、僕の座っていたところまで全然声が届かなくて。めちゃめちゃ神経を研ぎ澄ませて聞いたんですけど、後ろで小野(優)通訳が外国籍選手に訳している声にかき消されて、全部は聞き取れなかったんです。むしろ、小野通訳はなんで聞き取れるの?! って感じでした(笑)。でも、弦太くんがチームのためを思ってやってくれたことは嬉しかったし、唯一『来年のACLに行きたい』っていうところだけはちゃんと聞こえたので、僕たちはその思いが叶えられるように、残りの試合もがむしゃらに、1つになって戦いたいと思います(福岡)」
それを受けて、三浦。
「え? 撮り損(笑)?」
そんなことはない。三浦の想いもしっかり注がれた川崎戦だった。