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ゼンノロブロイ、22歳で亡くなる/ウマ娘のモチーフ馬の訃報が続く理由

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
2004年ジャパンカップを制したゼンノロブロイ(写真:ロイター/アフロ)

22歳、眠るように亡くなったゼンノロブロイ

 9月2日、2004年のJRA賞年度代表馬だったゼンノロブロイが亡くなった。22歳。2021年より北海道・新冠の村上欽哉さんの牧場でプライベート種牡馬として暮らしていたが、今年8月から腰を傷めるなど体調を崩し、眠るように亡くなったという。

 2日の朝、ゼンノロブロイは起き上がることができなかったそうだ。

 馬は立てなくなったら死を覚悟しなければならない。

 ゼンノロブロイは現役時は500キロ前後だったが、種牡馬となればさらに体重を増やしていただろう。馬が腸が長いため、寝たきりでは腸の蠕動運動が低下して腸ねん転を起こしかねないし、寝たきりになれば身体の重みで下になる部分は床ズレを起こしてしまうからだ。

 馬の22歳は人間でいえば中年の域を超え、熟年、老年になった年域といえる。

 中には30歳以上長生きする馬もいるが、それは長寿の域。ゼンノロブロイにとってはこれが天寿だったのではないかと察する。

キャリア5戦目で日本ダービー2着、その粘りは強烈!

 ゼンノロブロイは先日引退した藤沢和雄厩舎を盛り立てた1頭だ。

 3歳2月にデビューし、青葉賞(GII)を勝って日本ダービーへの出走権を獲得。ネオユニヴァースが勝った日本ダービーの2着馬だが、キャリア5戦目で果敢に2番手で先行しながら東京の長い直線を粘り抜きいた。最後の直線、後続から抜け出したネオユニヴァースと併せるようにゴールに向けて上がっていくのだが、ネオユニヴァースはゼンノロブロイを突き放せない。前を行っていたゼンノロブロイが同じ脚色、いやゴールが近づくにつれジワジワと着差を詰めていく。その粘りはゼンノロブロイのタフな地力の高さの何よりの証明だった。

■2003年日本ダービー(GI) 優勝馬 ネオユニヴァース(2着 ゼンノロブロイ)

キャリアの真骨頂は2004年秋、古馬秋のGI三冠達成!

 3歳秋の神戸新聞杯を勝つも、しばらくは善戦を繰り返す。

 そのポテンシャルを爆発させたのは、2004年の秋のこと。短期免許を取得したフランスのオリビエ・ペリエ騎手を背に天皇賞(秋)、ジャパンカップ、有馬記念と秋のGIを3連勝、古馬秋のGI三冠を達成したのだ。

 特に有馬記念の勝ち時計2分29秒5はレースレコードであり、未だ破られてはいない。

■2004年天皇賞(秋)(GI) 優勝馬 ゼンノロブロイ

■2004年ジャパンカップ(GI) 優勝馬 ゼンノロブロイ

■2004年有馬記念(GI) 優勝馬 ゼンノロブロイ

 ゼンノロブロイはこの2004年、JRA賞年度代表馬に選出され、サンデーサイレンス産駒としてはじめてこの賞を受賞した。

種牡馬としてはオークス馬サンテミリオンを輩出

 ゼンノロブロイは種牡馬としても結果を出している。2007年より繋養されているが、初年度産駒106頭の中からオークスを制したサンテミリオンを送り出している。

 他にはペルーサ、アニメイトバイオ、トレイルブレイザー、ルルーシュ、マグニフィカ、リアファル、タンタアレグリア、サングレアルなどが活躍。

 社台スタリオンステーション時代はオセアニアにシャトル種牡馬として出向いたし、2015年からはブリーダーズ・スタリオン・ステーションに移動し日高の馬産にも貢献した。

■2010年オークス(GI) 優勝馬 アパパネ、サンテミリオン(同着)

ウマ娘のキャラクターのモチーフ馬が続けて亡くなる理由

 ゼンノロブロイは、近年、人気アプリ「ウマ娘 プリティーダービー」に登場するキャラクターのモチーフ馬にもなっている。

 現在、人気ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」のキャラクターのモチーフとして発表されている馬は84頭いるが、現役馬はデアリングタクト1頭だけで、それ以外の馬たちは競走を引退している。世代の違うマルゼンスキーと地方競馬で未勝利のまま引退したハルウララを除き、多くのウマ娘たちは1980年代後半からの競馬ブーム以降に出走している。

 馬の年齢を人間にたとえるとき、若いころは年齢に4を掛け、年を取ったら掛ける数を減らす感覚で勘定する。したがって、22歳のゼンノロブロイは、人間でいう還暦くらいの感覚だろう。

 つい先日、ゼンノロブロイと同じ藤原和雄厩舎の管理馬であり「ウマ娘 プリティーダービー」のキャラクターとしても愛されているタイキシャトルが28歳で老衰のため亡くなった。

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タイキシャトルがジャック・ル・マロワ賞を制した日

タイキシャトルを偲ぶ 当時の現地取得の資料からウマ娘、献花台まで/ウマ娘史実シリーズ

 このように、競馬ブーム以降に登場した馬たちが順に老馬となり亡くなっていくのは、応援する人間の感情的にはつらいものがあるが時の流れの中では"自然なお迎え"と言えるのではないか。

 まして、馬は一般的に暑さは得意ではない。寒いのは得意で雪の中でも駆け回るが、暑いと熱中症になるなど体調を崩しやすいのだ。特に今年の夏は多くの馬たちが過ごす北海道・日高地方は暑かったという。

 毎年、この時期に亡くなる老齢馬は少なくない。ビワハヤヒデは2020年7月に30歳で同じく老衰で亡くなっている。レガシーワールドが亡くなったのもこの季節だ。

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30歳老衰で天寿全う、GI3勝のビワハヤヒデが教えてくれたこと/ウマ娘史実シリーズ

32歳、GI馬レガシーワールド亡くなる 相棒と暮らした穏やかな余生

 そして、今もなお元気なのは、1990年生まれのウイニングチケットは御年32歳だ。かつて競馬を盛り上げ、いまは中にはウマ娘として愛されているスターホースたち。せちがない世の中だが、少しでも元気に過ごしてくれたら、と思う。

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「生きているうちに逢いたかった」ウイニングチケット、愛称の名付け親との再会/ウマ娘史実シリーズ

スターロッチと義理人情が繋いだウイニングチケットのダービー制覇

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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