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日本の敵基地攻撃能力保有、7つの課題

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
アメリカ海軍のミサイル駆逐艦「ポーター」から発射された巡航ミサイル「トマホーク」(提供:U.S. Navy/ロイター/アフロ)

安倍首相は6月18日の記者会見で、新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画の停止を受け、敵のミサイル基地を破壊できる「敵基地攻撃能力」の保有を検討していく考えを示した。

北朝鮮の核ミサイルの脅威や中国の海洋進出の動きが強まり、東アジアの安全保障環境が一段と厳しさを増すなか、日本の敵基地攻撃能力の保有を求める意見は今後も増えてくるとみられる。この拙稿では、その保有に向けた7つの課題を示したい。

1.  日米の「盾と矛」の役割分担をどうするのか

敵基地攻撃能力の保有について、日本政府はこれまで「誘導弾などによる攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能だ」との見解を示してきた。

ここで問題となるのが「他に手段がない」場合が実際にあるのかどうかだ。なぜなら、日本の安全保障をめぐっては、米軍が日米安保条約に基づき、日本の防衛義務を負っているからだ。よくたとえられるように、日米同盟は戦後、在日米軍が攻撃力を担う「矛」、自衛隊が守りに徹する「盾」の役割を担ってきた。日本が「敵基地攻撃能力」という「矛」を保有すれば、この戦後の日米の役割分担が崩れることにもなりかねない。

菅官房長官も6月19日の記者会見で、「敵基地攻撃能力」について「米国に依存するという日米間の役割分担は変更しないとしてきた政府の立場は変わったのか」と問われたのに対し、「その立場を変えたわけではない」と述べたばかりだ。敵基地攻撃能力の保有と日米の「盾と矛」の整合性をどう保つのか。

2.  「攻撃的兵器」の保有はどこまで?

政府は、憲法9条第2項が禁じている「戦力」とは、「自衛のための必要最小限度を超えるもの」との統一見解を示してきた。そして、「攻撃的兵器の保有は自衛のための最小限度を超える」と説明し、「大陸間弾道ミサイル、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母はいかなる場合も保有は許されない」との政策判断を示してきた。

しかし、実際には、ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」に、最新鋭ステルス戦闘機F35Bを搭載するための改修費用の31億円を今年度予算に計上した。「いずも」と「かが」は2020年代後半にはF35Bを搭載した立派な「攻撃型空母」になり得るだろう。

(参考記事:護衛艦「いずも」、正真正銘の空母へ。F35Bの発着艦に必要な改修費31億円を計上

また、航空自衛隊では既に長射程巡航ミサイルの導入を進めている。空自のF15戦闘機に搭載する空対艦ミサイル「LRASM」と空対地ミサイル「JASSM-ER」(いずれも最大射程926キロ)を米国から、F35A戦闘機搭載の対艦・対地用ミサイル「JSM」(同約500キロ)をノルウェーからそれぞれ調達する。射程900キロ超のミサイルがあれば、朝鮮半島に接近しなくても、日本領空から北朝鮮の核ミサイルの開発拠点や基地を攻撃することも可能となる。中国とロシアの一部も射程範囲に入る。

また、防衛省は既に2019年度予算で、「島嶼(とうしょ)防衛用」を前面にアピールしながら、将来の敵基地攻撃能力にもなりうる日本独自のミサイル開発のための研究費を盛り込んだ。対地攻撃用の「高速滑空弾」(予算計上額139億円)の研究開発だ。これはロケットモーターで飛び、高速で滑空しながら目標を狙う。

さらに、今年度予算では、射程400キロ以上の射程延伸型で、超音速飛翔の対艦誘導弾ASM-3(改)を新たに開発するため、103憶円を計上。レーダーに映りにくいステルス化が施され、米国の巡航ミサイル「トマホーク」と同じように翼とエンジンを備える。

これらのミサイルの長射程化は、敵のミサイル基地をたたく敵基地攻撃に使用可能だ。「自衛のための必要最小限の実力」の線引きがますますあやふやになっている。

3.  ISR能力を整備できるか

敵基地攻撃能力をめぐっては、日本版トマホークを槍(やり)のように何発か保有しただけでは何の役にも立たない。トータルな防衛装備システムが整備できていなくてはならない。

特に北朝鮮が移動式発射台(TEL)を増勢するなか、ミサイル発射地点や攻撃着手を見極めることが難しくなっている。

このため、敵基地の所在や敵の攻撃着手を確認するために、情報収集・監視・偵察(ISR)能力の向上が必要となる。日本独自の早期警戒衛星(SEW)の導入や電子偵察機の増勢、統合監視目標攻撃レーダー・システム(JSTARS)の整備が欠かせない。インテリジェンスも必要不可欠となり、自前の対外情報機関の設立も求められるだろう。

4.  敵の防空能力の無力化

敵基地を攻撃するためには、敵の防空能力を無力化させなくてはならない。そのためには、相手国のレーダー網を破壊する電子戦機、敵防空網制圧(SEAD)と敵防空網破壊(DEAD)任務機などが必要になる。

5.  十分な打撃力の確保

敵基地を破壊するためには、十分な打撃力がなくてはならない。戦闘爆撃機やトマホークなどの艦対地ミサイル、遠隔地から攻撃するスタンドオフの空対地長射程ミサイルをはじめ、戦闘機を領空領海外に越えさせる空中給油機などの十分な整備が必要になる。

6.  十分な防御力の確保

敵の基地を自衛的に先制攻撃しても、敵から圧倒的な反撃が来た場合に、それに対応できる防御能力を持つことが必要になる。単に槍を持って相手のランチャーをいくつか破壊するだけではなく、反撃された際にきちんと対応できるトータルな防衛システムの構築が求められる。

7.  本来は憲法9条の改正が望ましくないか

筆者は、東アジアの厳しい安全保障環境を踏まえれば、敵基地攻撃能力の保有は必要だと思っている。

しかし、その能力の保有は、戦後日本の国防政策の基本の「専守防衛」に、先制的自衛(preemptive self‐defense)や攻撃防御(offensive defense)を加えようとするもの。これまで打撃力を米国に委ね、自らの安全保障を米国に大きく依存してきた戦後の日本の在り方を変える大きな転換になりうる。本来はやはり法治国家であるならば、「戦力」の拡大解釈ではなく、きちんと憲法9条を改正した方が望ましいだろう。

(参考記事)

イージス・アショアが事実上の白紙撤回――「ミサイル迎撃は常に不利」米軍幹部が警告

「北朝鮮、弾道ミサイル防衛網突破の核ミサイル製造に躍起」米議会調査局が報告書

米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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