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「北朝鮮、ミサイル防衛突破の核ミサイル製造に躍起」米議会調査局が報告書

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
「KN-23」のコード名で知られる北朝鮮の新型短距離弾道ミサイル(KCNA)

北朝鮮による近年のミサイル発射実験は、域内の弾道ミサイル防衛(BMD)システムを突破し、核弾頭が搭載可能なミサイルの製造に躍起になっていることを示している――。米議会調査局(CRS)が7月14日に公表した報告書はこう指摘した。

「北朝鮮の核兵器とミサイル計画」と題されたこの報告書は、「北朝鮮の弾道ミサイル実験における最近の進展は、この地域に配備されたミサイル防衛の有効性を打ち破ったり、低下させたりするための能力を開発するために企図されているとみられる」と述べた。

その北朝鮮が突破を目指すミサイル防衛としては、地対空誘導弾パトリオットミサイル、イージスBMD、地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の3つを列挙した。

さらに、報告書は「北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイルの進化は、THAADレーダーの覆域外となる洋上から発射し、地上配備のTHAADに対抗する試みを示唆している。その一方、域内のイージスBMDシステムは依然、これらの潜水艦発射弾道ミサイルを追跡できる可能性がある」と述べた。

報告書は、特に北朝鮮が近年、発射実験を行った3つの新型ミサイルに注目している。それは、米軍と韓国軍のコード名で言うところのKN-23とKN-24、そしてKN-25だ。

●KN-23

KN-23は、ロシアの新型の地対地ミサイルシステム、9K720「イスカンデルM」「イスカンデルE」をベースにした短距離弾道ミサイル(SRBM)とみられている。イスカンデルMはロシア連邦軍用、イスカンデルEは輸出用だ。

「KN-23」のコード名で知られる北朝鮮の新型短距離弾道ミサイル(KCNA)
「KN-23」のコード名で知られる北朝鮮の新型短距離弾道ミサイル(KCNA)

KN-23について、報告書は北朝鮮の小型兵器の中で最も顕著な進化を見せる具体例になったと指摘。2019年5月に行われた2回のKN-23の発射実験によって、「不規則的な軌道をとり、従来の弾道ミサイルより地上にかなり近い高さで飛翔したことを明らかにした」と述べた。

さらに、KN-23がターゲットに近づく終末段階において、急上昇する「プルアップ機動」を行い、目標への攻撃の速度と角度を高めることで、地上配備の迎撃ミサイルによる撃墜を困難にしていると指摘した。

報告書は「KN-23は朝鮮半島のいかなる場所も、通常弾頭や核弾頭のいずれかのペイロードで攻撃することができる」と述べた。

米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は、KN-23の最大射程距離が690キロで、500キロのペイロードを搭載できるとみている。

●KN-24

同じくSRBMのKN-24について、米議会調査局の報告書は「移動式発射台、固体燃料、そして比較的大きなペイロードを兼ね備えた戦術システム」と指摘。「(KN-24は)精密照準爆撃を行うための誘導システムと飛行中の操縦性を証明している。外部専門家は、北朝鮮が最終的にKN-24に核弾頭と通常弾頭の双方を搭載可能のデュアルシステムを担わせようとしている可能性があると評価している」と記述した。KN-24は、米陸軍の戦術地対地ミサイル(ATACMS)と外見が類似している。

「KN-24」のコード名で知られる北朝鮮の新型短距離弾道ミサイル(KCNA)
「KN-24」のコード名で知られる北朝鮮の新型短距離弾道ミサイル(KCNA)

●KN-25

超大型多連装ロケット砲であるKN-25について、報告書は「ロケットとミサイルの境界線をあいまいにしている」と指摘。「先進アビオニクスと慣性衛星誘導システム、空気力学的な構造により、精密攻撃で破壊的な効果をもたらし、従来の短距離ミサイルと同じ効果をあげる」と述べた。「最大380キロの通常弾頭のペイロードを搭載し、韓国全域への攻撃を可能にしている」とも指摘した。

「KN-25」のコード名で知られる北朝鮮の超大型多連装ロケット砲(KCNA)
「KN-25」のコード名で知られる北朝鮮の超大型多連装ロケット砲(KCNA)

報告書は、「新たに開発されたKN-24とKN-25が韓国と在韓米軍のアセット(装備品等)への重大な脅威を与えている」と警鐘を鳴らしている。

●防衛白書「北朝鮮、日本を核攻撃できる能力を既に保有」

北朝鮮の核ミサイル開発をめぐっては、防衛省が7月14日に公表した2020年版の防衛白書も「北朝鮮は、極めて速いスピードで弾道ミサイル開発を継続的に進めてきており、わが国を射程に収めるノドンやスカッドERといった弾道ミサイルに核兵器を搭載してわが国を攻撃する能力を既に保有しているとみられる」と記述した。白書は昨年までも、日本を奇襲的に弾道ミサイルで攻撃できる能力などに言及していたが、日本を核攻撃できるミサイル能力について指摘したのは初めてだ。

また、白書は「近年、北朝鮮はミサイル関連技術の高度化を図ってきており、2019年5月以降、発射を繰り返している新型と推定される3種類の短距離弾道ミサイルは、固体燃料を使用して通常の弾道ミサイルよりも低空で飛翔するといった特徴があり、発射の兆候把握や早期探知を困難にさせることなどを通じて、ミサイル防衛網を突破することを企図していると考えられる。このような高度化された技術がより射程の長いミサイルに応用されることも懸念される」と指摘した。3種類の短距離弾道ミサイルとは、前述のKN-23、KN-24、KN-25を指す。

防衛白書は「北朝鮮の軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」と述べている。

(参考記事)

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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