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”甲子園連覇”ホークス島袋の今。育成降格も復肩に自信「良かった頃に戻りつつある」

田尻耕太郎スポーツライター
バットを使いながら投球フォーム固め(筆者撮影)

背番号39→143で迎えたプロ4年目

 この春。甲子園が生んだ怪物、松坂大輔が、新天地の中日ドラゴンズで元気な姿を見せているニュースがメディアを賑わせている。

 聖地で春夏連覇のかつての熱狂は、時を経てもなお、野球ファンの心の奥に息づいているのだ。

 その松坂と同じ偉業を成し遂げた左腕。福岡ソフトバンクホークスの島袋洋奨も昨シーズン終了後に苦境に立たされていた。プロ3年目を終えて一軍登板はルーキーイヤーの2試合のみ。昨年は8月に左肘のクリーニング手術も行い、チームの日本一奪回をリハビリの中で迎えた。そしてその舞台裏で、次シーズンの戦力構想から外れていることを告げられた。何とか育成選手として再契約をしてチームに残ることは出来たが、背番号は「39」から「143」とかなり大きくなってしまった。

 春の宮崎キャンプ。昨年はA組でスタートしたが、今季は当然B組だ。

右手で大きく円を描く

悔しさをバネに(筆者撮影)
悔しさをバネに(筆者撮影)

 しかし、ブルペンでのピッチングを見て驚いた。

 躍動感がありながら、かつスムーズなフォームで、力強いストレートを投げ込んでいたのだ。

 左腕の表情ももちろん明るい。

「自分でも手応えを感じていますし、周りからも良くなっていると言ってもらえます。肘も全く問題ありません。去年、和田(毅)さんは3カ月で復帰して投げていた。僕は(手術が)8月だったので十分時間をかけてリハビリを行ってきたので、変な感触もありません」

 肘が良くなったから球がいいというわけではない。投球フォームがいい方向に変わっている。

「グラブをはめている右手の使い方を変えました。昨年までは投げに行く際に背中の方に引くような使い方をしていました。そのことで体が横振りになってしまい、バランスを崩していました。

 今は捕手方向へ大きく円を描くようなイメージです。体を縦に回るように使いたかった。そこに辿り着いたのはリリースポイントを意識してから。リハビリ期間中に斉藤学コーチに『オマエの投げやすい位置はどこだ?』と言われて、体の使い方を改めて勉強し直したんです」

 体重移動する際の右手の位置が昨年までとは違う。以前はグラブが顔の高さほどまで上がっており、極端に言えば、上を向いて投げているように見えた。しかし、今年は捕手のミットにめがけて一本のラインが通っており、その上を体が滑っているように映る。独特のトルネード投法ではあるが、動きに無理がない。

怖さがなくなった

 プロに入ってからは聞かれなかった言葉も発せられた。

「キャッチボールから感覚が違う。だからコントロールに不安がない。昨年までは過去に制球難に苦しんだ自分がずっと心のどこかにいて、その恐怖心に勝つために、投げる時にはフォームのことをとにかく考えて、余計なことを考えまいと必死でした。だけど、今はそれがない。キャッチボールが良いから、マウンドでも自信を持って投げられているんです。自分が良かったと思う頃に近づいている感覚があります」

 8日には打撃投手に登板する予定。アピールの場だ。

「ファンの方からサインをお願いされる時、『あれ、自分の背番号何番だったっけ?』となる時があります。もちろん悔しいです。だけど、気持ちの整理は出来ています。とにかく早く、背番号2桁に戻したい」

 苦難は過去にも経験した。それを乗り越えたから今がある。島袋は強い男だ。この厳しい道のりにも、この左腕は必ず勝つはずだ。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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