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「死にたい」「消えたい」宗教2世の苦しみに気づける社会に すぐ傍にいても気づけないのが、宗教的虐待

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

一般社団法人スノードロップが設立されて、6月3日に宗教2世問題に関するシンポジウムが行われました。元エホバの証人3世である夏野ななさん(仮名)が同団体の代表を務めます。

理念として「あの頃の私たちに寄り添いたい」を掲げて「私たちは宗教の家庭に生まれ人知れず苦しんできました。誰かに助けることを求めることなんか考えもしなかった」として、夏野さんは「苦しみに気づける社会を築きたい」と話します。

シンポジウムでは、カルト団体や宗教2世の問題に詳しい大学教授や、長くカルト問題の支援に取り組んできた牧師や社会福祉士、心理カウンセラー、被害救済に取り組む弁護士らから、今後の課題や支援の現状や展望が語られて、医師・ジャーナリストからは、輸血拒否問題における諸外国の実情も話されました。

特に今回は、宗教的虐待を受けてきた当事者と、それに接してきた友人らの声を通じて、宗教2世の置かれている実情について深く知ることができる場となりました。

「死にたい」「消えたい」の気持ちにとらわれる2世たち

エホバの証人の2世として育った団作さん(仮名)は「生まれながらに、親や教団から(示される)正しい生き方を強制されることで、窒息しそうな息苦しさ、閉塞感、無力感、人生そのものへの破壊と搾取を感じていた」と話します。

「エホバの証人は宗教活動に専念させて、信者以外の交流を避けます。(2世には)家庭と宗教団体以外に居場所は存在しません。非常に狭い空間のなかで、中高生が閉塞感、無力感から逃れる手段は、一つしかないと考えてしまう。それは、死んでしまうこと。『死にたい』『消えたい』『楽になりたい』そんな気持ちにとらわれたエホバの証人の2世は少なくないと思います」(団作さん)

信仰の強制による虐待は、本当に宗教2世らの心の成長に深刻な影響を与えています。苦悶する彼らに「死にたい」「消えたい」という道を選ばせるのではなく、その思いに気づき、救いを求めてくれれば、しっかりとその手を握り返すことのできる、もう一つの選択肢を与えることこそが、今の社会には必要です。

虐待であると気づけない子供たち

旧統一教会の元2世信者である田中悟さん(仮名)は「宗教を理由に子供たちが受ける人権侵害や児童虐待の深刻さを多くの人に知ってもらいたい」と話します。

「親は虐待を善なる行為と思っていて、一方で子供も自分が受けているものが、虐待であると気づけないところがあり、宗教による児童虐待を防止するためには、周囲の人が気づいてあげることが必要」との認識を示します。

田中さん自身も親から「神様が準備している人がいて、それまで他の女性を好きになってはいけない」と、純潔思想を幼少期から刷り込まれました。

「自由恋愛やフリーセックス、不倫などという言葉を子供のころから嫌というほど聞かされて育ってきました。幼少期からの純潔教育は、時に行き過ぎた性的虐待にエスカレートする場合もあります。教団の発行する書籍には、年齢に見合わない言葉が出てきています」(田中さん)

さらに「私の年代では、中学生や高校生の時期に祝福(合同結婚式)の相手を決めてしまうことが多くあり、祝福前には、それまでの自分の罪を書き出して、教団に見せる『告白文』が存在していて、それまでの異性交際の経験や自慰行為などを罪として、書かなければならず、これは未成年に対する性的虐待です」と指摘します。

「宗教2世は様々な絵本や歌などの作品で慰められてきました。そうした実体験をもとに、役立つ作品を展示会で紹介する取り組みを、ネットを通じたバーチャル展示会などで行っていく」とのことです。

これは大事な取り組みだと思います。

元信者である私自身も、旧統一教会の教えから離れるうえで、歌や書籍など、教団の考えとは全く違うものに触れることで、少しずつ目が開かれていきました。

宗教2世らの心にどんなものが響くのかを社会の人たちが知ることで、見守る側も宗教的虐待を受けている子供たちにどのような接し方をすればよいのかを知る大事な一歩となると思います。

自分で考えることを子供にさせてこなかった、1世信者の後悔

エホバの証人の1世信者として約30年間の信仰をして教団を離れた、さといもさん(仮名)からの話もありました。

「聖書では(世の)終わりが近いといわれて、子供が生き残るためにと信じて、みんなで競いあうように鞭で叩いていました。叩かずにいると『なぜ、叩かないのか?』と周りの信者からいわれます。子供が(教団の指示に)従わないと、鞭で叩いて強制していました。子供に思いを自由に発言することをさせてこなかった。自分で考えることをさせてこなかった」と、取り返しがつかないことを子供にしてしまった後悔を口にします。

さといもさんは、現信者らに伝えたいことを尋ねられて「親が教義を信じるのは仕方がありません。ですが子供には強制しないでほしい。(宗教2世には)自分の考える道を選んで歩んでほしい」と訴えます。

すぐ傍にいても気づけないのが、宗教的虐待

設立メンバーの一人である川崎凛さん(仮名)は子供の頃から、夏野さんの友人として接してきました。

「私は(夏野さんの)小学校時代からの友人であり、宗教2世問題を間近で見てきました。親からは『夏野さんの家は、キリスト教みたいな宗教をやっているらしい』という話は聞いていました」

川崎さんは、夏野さんの家族にも会ったことがあるといいます。

「お父さんを始めとして家族みんな優しく接してくれるので、幸せな家庭にみえていました。日常的に鞭で叩かれている印象はありませんでした」(川崎さん)

それを受けて、夏野さんは「みんなそういう反応をする(柔和に周りへ接する)ようになっているので、自分が叩かれていることを友人や親戚に相談しても無駄と思っていました」と話します。

「中三になって一緒の高校にいけると思っていたのに、頭もよかったので高校にはいかないということに驚いた」と話す川崎さんに、夏野さんも「行きたかった。悔しい気持ちがあった」と当時を振り返ります。

川崎さんは最後に「私は夏野さんの近くにいたけれど、虐待を受けていることにまったく気づけませんでした。彼女が家出をした時も反抗期のことだと思っていました。まさか、虐待が理由で家出をしているとはわかりませんでした」と、宗教的虐待にはなかなか気づけないものとしながらも「運動会や部活に参加できないなど、どこかで(子供たちから)サインが出ていますので、周りの人たちは見逃さないでほしい」と訴えます。

普通に接してくれることが救い

シンポジウムで司会を務める、エホバの証人の信者である親のもとで育った阿部真広さん(仮名)の友人の話も紹介されました。

友人宅に、阿部さんが母親に連れられて、エホバの証人の勧誘をするために訪ねてくることがあったといいます。

「その時の彼の姿は、学校にいる時の明るい彼とは、まったく別人格をみているような感覚でした。自分の母親は(エホバの証人に対して)カルト団体としての認識をもっていたようで、深く関わらずやり過ごしていました。その後も、彼とは学校ではいつもの関係に戻り、そのこと(勧誘)に対して、私も問わなければ、彼の方からも話すこともありませんでした」

しかしいつもの関係で接してくれる友人の行動が、阿部さんにとって大きな助けになっていました。

「彼(阿部さん)は当時の私たち仲間に救われていたのだと、話してくれます。怪しい宗教の活動をさせられていても、ブレることなく、ごく普通に友達として接していたことが、結果として彼にとっての救いになっていたのだ」と。

この点は宗教2世の取材をしていても、友達が怪しい宗教の家の子供であることを知っても、偏見を持つことなく、友達として普通に接してくれていたことが「本当に心の救いになった」との声は多く聞こえてきます。

今も、旧統一教会やエホバの証人などカルト団体の家に育つ宗教2世は多くいます。そうした子供たちの中には、親の信仰を強制されながら、誰にもいえず苦しい思いを抱えている子もいるはずです。そうした子供たちに対しては、周りの人たちも色眼鏡をかけることなく、いかに普通に接してあげることが大事なのかがわかります。

長く続けていくことで、一人でも多くの宗教2世が救われる道が開かれる

最後に、スノードロップの監事を務める、山口広弁護士は「今回は、すごいゲストを集めての開催でした」と総括して、長く全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)で事務局長を務めてきた経験から「忙し過ぎず、しかし上手に助けを求めながら、幅広く活動していってください。(山口広弁護士も)全国弁連を35年も続けてきました。それだけが成果でした。続けていくことに意味がありました。スノードロップも長く続けていってください」とエールを送ります。

カルトと呼ばれる団体が存在しつづける限り、親の信仰の強制などに苦しむ2世、3世たちの被害は今後も続いていくことになります。それゆえに、宗教2世の当事者団体がいかに継続して、この問題に取り組んでいけるのかが、一人でも多くの2世たちを救うカギとなります。

もちろん、この先同団体の行動に対するカルト団体の誹謗中傷などの攻撃も予想されます。それを当事者である2世だけに押し付けるのではなく、一人でも多くの社会の人たちが立ち上がっての物心両面におけるサポートも必要になってきます。

宗教2世問題は始まったばかりです。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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