奇妙奇天烈!2000万円の被害者に、なぜ、詐欺師は警察への通報をさせたのか?ドタバタ劇の真相とは
「『警察に通報しましたか』連絡を急ぐように言ってきました。お金をだましとっているはずの詐欺師が、なんで私にこんな指示をしてきたのか、よくわかりません」
国際ロマンス詐欺の手口で2000万円近い被害にあった40代女性は、当時を振り返り、首を傾げます。
なぜ、詐欺をしている人間が、このような奇妙奇天烈な指示をしてきたのでしょうか。
この理由については、後にお話します。
出会いはマッチングアプリから
まずは彼女の被害経緯を見ていきます。
11月に、40代女性がマッチングアプリに登録していると、30代の中国人男性から「いいね」をもらいました。彼女も「いいね」を返してカップリングとなりました。その後、LINEでのやりとりを始めます。
男は日本に住んでいて貿易関係の仕事をしており、その傍ら投資もしているといいます。
男の印象については「ルックスがよく、かっこよかった」と、彼女は一目ぼれをしてしまいました。
「しかし後に、モデルをしているアジア人男性の写真を勝手に使っていたことがわかりました。かっこいいのも当然です」とがっくりとした様子で語ります。
最初のうちは、趣味や食べ物、仕事などの話で盛り上がります。さらに将来の結婚や家庭像も話し、男は彼女のことを「愛妻」と言い始めます。そして「自分のことをしっかりつかまえていて、離さないで」という愛の言葉もささやきます。
どんどん心の距離が縮まるなかで「あなたと結婚して、家を建てるために一緒に投資をしてお金を増やしたい。投資の方法を教えるから、投資サイトの体験をしてみよう」と誘われます。
「ここの運営は、ニューヨーク証券取引所、米国及び欧州の先物取引所の運営をするところが行っていて、安心な投資サイトなんだ」と男は言います。
彼女は、男のIDとパスワードでサイトに入室します。
ここでは、レーシングカーのサイトで10台の車の内、どれが1位になるかを予想して賭ける形になっています。つまり、カジノサイトなのですが、彼女は投資サイトとの彼の言葉を信じ切っていました。そして彼の投資データに基づいてベットすると、次々に1位の車を当ててきます。
彼女は素直に「すごい!」と思います。
その後、サイトへの登録をします。
この時、身分証明証の提示を求められて、写真に撮り送りました。これにより、詐欺師に本名や住所などを知られてしまいます。
「1000ドル(当時のレート110円)から始めよう!」
彼は国内の仮想通貨交換所に登録を指示しますが、彼女がうまくできずにいると「銀行への振り込みでもよい」と言ってきます。
彼から伝えられたのが、Aという中国人の個人口座で、彼女は疑問を覚えます。
「会社ではなく、なぜ個人名義の口座に振り込むのか?」
男に尋ねてもはっきりとした答えは返ってきません。あまりにしつこく聞いて彼との関係が壊れることを恐れた彼女は、それ以上突っ込めませんでした。
彼女が11万円を振り込むと、サイトに約1000ドルが表示されます。そして男の指示で、レースにベットすると1万5千円ほど増えます。
すると、男は「全額の出金」の指示をしてきます。その通りに手続きをすると、彼女の口座に約12万5千円が戻ります。お金が増えて戻ったことで、いつしか個人口座へ振り込みへの彼女の不信感は消えてしまいました。
「次は、3000ドルで行おう!」
翌日約60万円を振り込みます。レースにベットすることで、サイト内のお金は増えていきます。
さらに「4万ドルに増やせば、さらに儲かる」と言われて、A氏の口座に約450万円を振り込みました。
予想外の事件勃発!?
ここで事件が起きます!
これまで通り、お金を振り込んだことをサイトのカスタマーセンター(以下センター)に伝えると、奇妙な返事がきます。
「銀行に行って、送金のキャンセルをしてください」
急いで彼女が銀行に連絡をとると「相手の口座にすでにお金は振り込まれているので、それはできない」と言われます。その回答をセンターに伝えると「カード主と連絡が取れないので、銀行口座を凍結した」「この件を警察にも通報する」と言い出します。
しばらくすると、彼女にも「警察に通報しましたか」と催促する連絡まできます。
警察沙汰になっている?
彼女も慌てて警察に行き「違う口座に振り込んでしまったので、返金してほしい」とセンターの言葉をそのまま伝えました。しかし警察からは「こちらに言われても困ります。銀行にお伝えください」と追い返されます。
当たり前ですが、送金ミスは刑事事件ではないので、とりあってもらえるはずがありません。
警察の対応を伝えると、センターは「本当にあなたは、お金を振り込んだのですか」と彼女を疑い始めます。もはや、ドタバタ劇です。
その後、銀行から彼女に連絡があり、詐欺との連絡を受けて凍結された口座のお金はすでに引き出されており、1000円ほどしか残っていないとのことでした。
これはどういうことでしょうか?
彼女のお金は口座から引き出されているのに、サイト側にはお金が渡っていないようなのです。
これは裏の世界でよくありがちなお金の奪い合いで、口座の名義貸しをした人物がお金を横取りした結果だと考えてよいでしょう。
詐欺などのブラックな形で得た金は、奪われたとしても警察に被害届は出せません。それを狙って、こうした事態がこります。実際に、今回のセンターの対応でも、警察に通報させる時、彼女に「送金のミス」としての指示しかできていません。
国際的な犯罪では、国内の詐欺組織はお金の引き出しなどを行いますが、実際に詐欺サイトを運営しているのは海外です。両者の間でいざこざが起こったと考えるのが筋でしょう。
詐欺師の演出ではないかと思う方もいるかもしれませんが、彼女に疑わせることなくここまで順調に数百万円を入金させているのですから、その流れをわざわざ自作自演で止める必要はないからです。
しばらく、サイト側は彼女を怪しんでいましたが、彼女が入金した事実を伝え続けると、ようやく「こちらの手違いで迷惑をかけた」といって、入金した約4万ドルがようやくサイト上に反映されました。
ここから送金ラッシュが始まる。
奪われたお金以上の金額を彼女から取ろうとしたのでしょう。海外の詐欺グループは詐欺のラッシュを仕掛けてきました。
男からの指示で11月末日に300万円、10日後に200万円を振り込みます。数日後にも、同額を振り込み、1週間後にも約250万円と、次々に彼女は送金します。
これだけのお金を振り込んだのには、理由があります。
それは、ボーナス手法でした。
すでに、「6000万円の被害も!偽投資サイト詐欺に潜むボーナス手法。マッチングアプリに詐欺師、大量出現中!」 でも述べたように、サイト上では年末イベントとして、30万ドルを達成すると、3万ドル(330万円)のボーナスがつくようになっていました。
「男からのプッシュがものすごかったです」と彼女は言います。
年末、30万ドルの目標達成まで、あと7万ドルに迫った時でした。もう彼女にはお金がありません。
「もうこれ以上は無理です」と彼に伝えると「あと少しだ。頑張るんだ。じゃあ自分が6万5千ドル(715万円)を出してあげるから、君もなんとか、頑張ってくれないか」と言われます。
「あと、5千ドルで、なんとかなる」
鞭を入れられた彼女は、彼との結婚を心に抱きながら、必死にお金の工面をします。そして、なんとか約5千ドル(50万円)を送金します。
カスタマーセンターからは「30万ドルの達成です」とのメッセージが届き、3万ドル(330万円)のボーナスがサイトの上に反映されました。
このお金をもとに、彼の指示でベットしていくと、サイトのお金は、一気に45万ドル(約5000万円)を超えるまでになりました。
彼女はこの時「普段では感じられない、何か、やりきったという達成感を覚えました」と語ります。しかしこの時点で、彼女の送金した金額は約2000万円になっていました。
キャンペーン達成の翌日に、とんでもないことが。
「よし、もっと増やそう!」と彼から発破をかけられて、10台の車のうち「3番の車は統計上、絶対にこないから、他の車にベットして」と指示されます。
そこで彼女は「3番」を除いた9台にベットします。
しかし、なんとこのレースでは3番が1着になりました。彼女のお金は目減りします。
しかし彼は動揺した様子もなく「こういうことはたまにある。次は大丈夫」と励まします。
翌日も「今日こそは、3番はこない」そう言われて、他の9台にベットすると、3番がまたもや、1着になります。サイトのお金は一気に約29万ドル(約3000万円)になり、彼自身も「負けた」と言います。
「次こそは、絶対に3番はこないから、他の9台にベットして」と言われますが、またもや「3番」がきます。
ついに、サイト上のお金は約30ドル(3300円)になってしまいました。
完全な詐欺グループの出来レースに彼女は引っ掛かり、多額のお金を失ったのです。
この現実を前に、ようやく目が覚めて、疑問が一気に噴き出します。
「銀行口座の名義が中国人だったことに加えて、彼とビデオ通話をしたいと言っても、スマホのカメラが壊れていると拒否してきました。彼は日本のホテルに滞在していると言いながら、そのホテルを絶対に教えません。今、考えればおかしいことだらけでした」
しかし相手に好意を抱いていたために、信じたい気持ちが先にたち、その疑いを心のなかで打ち消してしまっていたのです。
彼の顔写真をネットで調べると、有名な中国人のモデルであることがわかり、問い詰めると、あっさりと嘘を認めました。しかし彼からは、逆襲を受けます。
「お前の写真と個人情報をSNS上にばらまくぞ!」
彼女は脅しを受けて、今も戦々恐々とした日々を送っています。
「多田さん マッチングアプリに登録していましたか?」
取材の最後に彼女は「多田さんは、Mという婚活アプリを利用されていましたか?」と尋ねます。
私自身、離婚を契機にコロナ禍での出会いを求めて、数か月間、マッチングアプリのプロフィールにジャーナリストとの職業を記して、顔写真をアップしてました。
「はい、登録していました」
「実は、多田さんから『いいね』をもっらっていたんです。ですが、もしかしてなりすました人物ではないかと疑って『いいね』を返しませんでした。もしあの時『いいね』を押していけば、これだけのお金を失うことはなかったかもしれませんね」と苦笑いを浮かべます。
私をなりすましと思い、逆になりすましたアジア人を実在の人物だと思ってしまう。ネットでは、なかなかその辺りの見極めは難しいものです。