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6000万円の被害も!偽投資サイト詐欺に潜むボーナス手法。マッチングアプリに詐欺師、大量出現中!

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:PantherMedia/イメージマート)

まじめだったからこそ、だまされた。

大事なものを人質に取られていたからこそ、6000万円もの被害に遭った。

私は、そう考えています。

前回、3500万円以上をビットコインで送金して、だましとられた女性(Aさん)の被害の実態を紹介しましたが、ちょうど同じ頃、多額の借金をして、Aさんを超える被害に遭っていた女性もいました。

(被害者提供写真)投資サイトには、1億5千万円以上もあるけれど・・・。
(被害者提供写真)投資サイトには、1億5千万円以上もあるけれど・・・。

「人生を一緒に歩んでくれるパートナーを探しています。家族がお金に困らないように投資をして稼いでいますが、未来のパートナーにはそれを理解してもらい、協力して欲しいのです」と、外国人の男は話してきたと言います。

「その一言が、私の人生を大きく狂わせました」

悔しそうな表情で話すのは、大手企業に勤める英語が堪能な40代の女性です。話す口調もしっかりしており、頭脳も明晰そうで、とても詐欺にひっかかりそうにはみえません。

なぜ、だまされてしまったのでしょうか。

彼女は日本人男性とお付き合いをしていましたが、彼は結婚に躊躇しており、「他に誰か良い方がいたら結婚したいな」という軽い気持ちで、マッチングアプリを始めました。

11月中旬、ポルトガル人男性と知り合いました。その後、LINEを通じて、英語でのやりとりをしていると、男は「ビットコインへの投資をして儲けている」と話し出して、彼女に「ビットコインのダイナミックインベストメントのサイトがある」と紹介してきました。

「どのようなサイトですか」と尋ねると、「仮想通貨を使った、秘密の投資プロジェクトなのだ」と答えます。

本当は、ここはカーレースで1位になる車を当てて儲けるカジノサイトなのですが、男からは「ギャンブル」などの言葉が一切なかったため、彼女は投資サイトだと思い登録します。この時、サイトを運営するカスタマーセンターともLINEでつながります。

第一のトラップ。それは、儲けたお金を口座に戻させる。

12月初めに彼女は450ドル(約4万7千円)をビットコインで送金して、男の指示する車に繰り返しベットすると、1万3千円ほどの儲けが出て、約580ドルになります。

すると男は「全額引き出してもいいよ」と言ってきます。そこでカスタマーセンターに出金依頼の手続きをすると、実際にお金が彼女の口座に戻ります。

翌日も約1万9千ドル(200万)を送金して指示された車にベットすると、2万2千ドル(約236万円)となり、再び、自分の口座に戻しました。

これは、Aさんの時に使われたのと同じ手法で、自分の口座にお金を戻すことを2回ほど見せて、いつでも出金できることを信じさせる手です。

相手の性格を見抜いて、だまし方を変える。

詐欺では、相手の状況を見ながら、アプローチ方法を変えてきます。

Aさんの時には、詐欺師の男は彼女の悩みや愚痴を聞いてあげて、心によりそう形でだましましたが、彼女の場合は、全く違いました。

そもそも彼女は男性に頼るタイプではなく、一度も会ったことのない男から「お金を貯めて、一緒に旅をしよう」という、表面的なラブアプローチをうけても、たいした反応は返しませんでした。

しかし彼女は、男性の「パートナーと一緒に、将来のためにお金を貯める」というところに共感しており、「投資で稼いで、自分が家族を支えている」「エール大学を卒業して統計学を極めたので、その投資法を教えてあげる」といった、仕事のできる、優秀な男だというメッセージに少しずつ惹かれていきます。

「この人にふさわしいパートナーになるためには、自分も彼の言葉に沿った行動をしなければならない。いつしか、そう思うようになっていたように感じます。それで、彼からの厳しい命令や指示があっても、それに答えようと、必死になってお金を出していきました」

男は2週間ほどのメッセージのやりとりから、こうした彼女の心理を読み取ったのでしょう。その後、「ハニー」などの愛の言葉は一切使わず、「これをしろ」「あれをしろ」といった、より強い口調の指示をしてくるようになりました。

ここにはロマンスはなく、もはや国際ロマンス詐欺から派生してきた、偽投資サイト詐欺というべき手口です。

2000万円をビットコインで送金

12月中旬、男から「2000万円を投資するように!」と言われます。

そこで彼女は貯金を崩して、約1300万円を2回にわけて送金します。しかし男は「それでは700万円以上足りない!統計学上、2000万円の入金で大きく儲かるんだ!」と強い口調で言います。

彼女は2日後に約750万円を送金します。そしてレースに指示通りにベットしていくと、100万円ほど増えて約20万5千ドル(約2150万円)になります。

男からは「もっと儲けるには、まだまだ足りない!」と繰り返し言われますが、さすがに彼女も「これ以上の送金はできない」と拒みます。

すると、男は新たな手を講じてきたのです。これこそが、ボーナス手法でした。

多額の金を出させる第二のトラップ。それは、ボーナス手法。

男は言います。

「サイトで、年末キャンペーンが行われるので、カスタマーセンターに問い合わせてほしい」

彼女がこの件を尋ねると、カスタマーセンターから連絡がきます。

「サイト内の金額が30万ドル(約3150万円)になると、3万5千ドル(約367万円)のボーナスが加えられ、50万ドル(約5250万円)になると、8万8千ドル(約924万円)が加えられる、年末のキャンペーンです」

被害者からの提供写真
被害者からの提供写真

それを男に伝えると「参加して資産を増やそう!君の将来のためでもあるんだ」と強く勧めます。

彼女は応じます。カスタマーセンターからは「キャンペーンに参加するには、身分証の提示が必要」と言われていたので、パスポートを写メして送ります。

パスポートの写真を送らせる。

これは、彼女の個人情報を取得する目的もありますが、キャンペーンへの参加の意思を表明させることで、目標にまい進させ、後戻りさせない狙いもあります。

このキャンペーンを契機に、男はますます強い口調で発破をかけてきます。

「30万ドルをなんとしても達成しろ!」

彼女がいくら「お金がない」と答えても「ローンを組んでもお金を借るんだ!」と言ってきます。

すると、男は国内の消費者金融のサイトアドレスを次々に送ってきます。

「ここで、どんどん借りてこい!」

これまでの彼とのやりとりのなかで、彼女は室内の写真も送っており、そこには、ブランド品のバッグが写っていました。

「お前のところには、高級ブランドバッグがある。それを売ってこい!」とまで言います。

さらに「お金はどうなった」「引き出せたのか!」と、朝から、晩まで男の送金の催促は止まりません。ずっとこうしたメッセージが送られてきて、プレッシャーを掛けられる中で、彼女は借金をし続けます。

キャンペーン参加から一週間後、再び借金をして、彼女は380万円を送金し、第一目標の30万ドルを超えました。

カスタマーセンターからはボーナス分の3万5千ドルが加算されます。これをも元手に車にベットすると、数日後には、約40万ドル(約4200万円)になります。

このように「年末のキャンペーンがあるので、カスタマーセンターに問い合わせてほしい」という言葉をきっかけに、彼女は多額の借金を背負うことになってしまったのです。

しかも、このボーナス手法にある罠が仕掛けられていました。

カスタマーセンターからは「目標金額を達成すれば、出金できる」と言われています。裏を返せば、目標に到達するまでは、お金は出金できないということです。

男もこの点を熟知していて「送金しないと、アカウントがフリーズされて、出金できなくなるぞ!」とも脅していました。

つまり、これまでのお金を担保に取られていたのです。サイトから出金をするために、送金をし続ける以外に道はなかったのです。

これまで一生懸命、老後の生活不安をなくすために、必死な思いで貯めてきたお金を人質に取り、詐欺師たちはさらなるお金を要求してきたのです。

まじめに生きてきた彼女ゆえに、だまされたといえるのです。

男は「よし、この調子なら、50万ドルの目標も間もなくだ。8万8千ドル(約924万円)のボーナスをもらってしまおう!」と焚きつけてきます。

彼女はさらに借金を重ねて、3回にわたり、1000万円をビットコインで送金します。一週間で、なんとか50万ドルの目標を達成しました。

すると男はこれまで叱咤の言葉から、一転して「さすが、実行力があるね」と癒しの言葉をかけてきます。

強い口調と、優しい言葉、硬軟を使い分けながら、彼女の心を誘導したのです。

カスタマーセンターからは、約束通りのボーナス分も加算されて、投資での利益も含めて彼女の表示金額は、66万ドル(約6930万円)を超えました。

この後も男からの催促の手は緩むことはなく、「年末にむけて、さらにお金は増やせるぞ!」と言われて、彼女は繰り返しお金を送ります。

こうしてキャンペーンをきっかけに2週間ほどで、彼女は約5000万円を送金してしまったのです。

2020年末には、彼女のサイトの金額はなんと150万ドル(約1億5750万円)を超えました。

しかし彼女は、目標達成の喜びとは無縁の気持ちになっていました。

「もはやお金がたまって嬉しいという気持ちはなく、あまりの要求の高さに精神的に疲れてしまって、一刻も早くここから離れてすべてを終わりにしたい」

ちょうど年末の区切りということもあり、彼女は「お金を出金したい」とカスタマーセンターに告げました。しかしここには、彼女気持ちを見透かすように、さらなる罠が待っていたのです。

第三のトラップ 出金にあたっては、税金を納めなければなりません。

カスタマーセンターからは出金するにあたり、利益の税金として、日本円で約1700万円を納めるように言われます。

Aさんは、元彼にお金を借りる相談をして、詐欺に気づきましたが、彼女は誰にも相談することなく、必死に借金をして約1100万円を送金します。しかし税金分には足りません。すると男が助け船を出します。

「これまで頑張ってきたから、今度は税金代の約600万円を僕が貸してあげるよ。もちろん、お金が下りたら返してね」

男性からは肩代わりしてお金を払ったという画面を見せられます。

彼女は「ようやく、これでお金が戻る」と思いました。

しかし一向にお金が払い戻されません。カスタマーセンターに尋ねると「さらに5000万の投資する必要がある」と言われます。

「これでは、いくら、お金を払っても出金できないではないか!」

ここで、ようやく彼女はだまされていたことに気づきました。

その後、男からは「貸した600万を返せ!」と言われています。

「お前の住所や働いている先はわかっている。金を払わないと家や職場に借金をばらすぞ!裁判を起こすぞ」と、自作自演の借金をもとに、脅されています。

彼女は脅迫されている経緯を踏まえて、警察に相談に行きましたが、いまだ被害届を受理してもらえずにいます。これだけの高額な被害に遭った上に、脅されていながらも、泣き寝入りしなければならない状況に一人苦しんでいるのです。

「誰にも相談せず、なんて馬鹿なことをしたんだろうか」

彼女は今も、過去の過ちを悔やみ、自分自身を責める日々が続いています。

多くの被害者がおり、なかには、警察に行ったものの「違法な海外カジノサイトに手を出している」との理由で「捜査できない」と言われるケースもあるようです。

しかし被害者は違法なカジノサイトにお金を出したのではなく、カジノサイトのように作られた詐欺サイトに誘導させられて、お金をだまし取られたのです。

そもそも被害者はギャンブル系のサイトとは聞かされておらず、投資サイトだと思わされて登録しています。この点をはき違えて、門前払いしてしまっては、被害者の行き場がなくなってしまうのではないでしょうか。

今なお、マッチング、婚活アプリには、続々と外国人の詐欺師が登録してきています。サイトの運営側もその都度、削除しているようですが、あまりにもその数が多く対応がまったく追いついていません。

詐欺師たちは、三つのトラップを仕掛けて、虎視眈々とコロナ禍で巣ごもる私たちのお金を狙っているのです。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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