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チャットで相談可能に、男女共同参画局が多言語DV相談設置=母語で話しやすく、被害増加に懸念

巣内尚子研究者、ジャーナリスト
「DV相談+(プラス)」のホームページから。

 内閣府男女共同参画局が多言語でDVについて相談できる「DV相談+(プラス)」を始動させている。新型コロナウイルスの流行に伴い、生活不安やストレスからDVの増加や深刻化が懸念されることから、DV被害者の相談体制を強化するため「DV相談+(プラス)」を開始したという。

 男女共同参画局の担当者が5月15日、筆者の電話取材に説明したところによると、「DV相談+(プラス)」は4月20日から相談を受け付け始めた後、5月1日から多言語での相談受付を開始した。

 

 対応言語は日本語のほか、英語、タガログ語、タイ語、スペイン語、中国語、韓国語、ポルトガル語、ネパール語、ベトナム語、インドネシア語。これらの言語を用い、チャットによる相談を受け付けている。チャットで相談を受けた後、被害の状況に応じて、電話相談やメール相談などにつないでいく。

 

DV相談プラスのホームページから
DV相談プラスのホームページから

 同時に「DV相談+(プラス)」のホームページから日本語での電話(0120-279-889)での相談やメール相談も受け付けている。

 さらに、相談を受けた後は、相談内容に応じて各地の「配偶者暴力相談支援センター」などの支援組織につなぐなどし、同行支援や保護にまでつなげるなど、総合的に対応するとしている。

 5月1日に多言語での相談受付を開始して以来、すでに様々な言語での相談が来ている。その多くが女性からの相談だ。ただし、男性からの相談もあるという。

◇懸念されるDVの増加・深刻化

 この事業の背景にあるのは、新型コロナウイルスの流行を受けた外出自粛に伴いDV被害が増加したり、深刻化したりすると懸念されていることだ。

 

 筆者は拙稿「【新型コロナウイルスと増えるDV・虐待】全国女性シェルターネットが政府に要望書提出、移住女性も被害に」で、特定非営利活動法人「全国女性シェルターネット」が3月末、安倍晋三首相、橋本聖子内閣府特命担当大臣(男女共同参画)、加藤勝信厚生労働相にあて、「新型コロナウイルス対策状況下におけるDV・児童虐待防止に関する要望書」を出したことを伝えた。

 全国女性シェルターネットは要望書で、1)緊急の状況下においてもDV・虐待相談窓口の運営を継続するほか、相談・支援体制を拡充することを求めた。

 要望書によると、「夫が在宅ワークになり、子どもも休校となったため、ストレスがたまり、夫が家族に身体的な暴力を振るうようになった」「夫がテレワークで自宅にいるようになり、これまで長時間労働ですれ違っていた夫が妻に家事一切を押し付け、ことごとく文句を言うようになり、モラハラが起こってきた」といった相談が寄せられているという。(全国女性シェルターネット「新型コロナウイルス対策状況下におけるDV・児童虐待防止に関する要望書」

 「Stay Home(ステイホーム)」が呼びかけられる一方、家庭は誰にとっても安全というわけではない。感染リスクを避けるために在宅する人が増える反面、家の中で危険にさらされている人がいることを注視する必要がある。

 男女共同参画局の担当者は「新型コロナウイルスにより、在宅することが増える中、海外ではDVの被害が増えているとの報告がある。日本もDV被害の増加や深刻化が起きることが懸念されるために、相談体制を拡充した」と語る。すでにDV被害者の相談支援のため、全国に配偶者暴力相談支援センターが設置されているほか、最寄りの相談窓口につながるよう全国共通の電話相談ナビ(DV相談ナビ、0570-0-55210)が設けられているが、さらに相談しやすい体制を整備するという。

 また、日本には多数の外国籍者が暮らすが、男女共同参画局の担当者は「DV相談+(プラス)は当初から多言語対応を予定し実施してきた。被害にあった方にとって母語のほうが相談しやすいということで多言語対応を導入している」とした上で、「チャットでの相談は入り口ととらえている。相談窓口を知らない人もいることも考えられる。なんとか相談してもらい、支援につなげられるようにしたい」と強調している。

◇複合的な困難

 DVの被害をめぐっては、海外にルーツを持つ人には特有の状況が存在する。日本語を十分に使えなかったり、DV支援の情報にアクセスしにくかったりといった状況にある外国人がいるのだ。

 その上、新型コロナウイルスの流行とそれに伴う外出自粛を受け、生活状況が悪化しているDV被害者もいる。

 筆者が聞き取りをしたある海外出身の女性は配偶者により身体的・精神的な暴力を受けた後、支援者のもとに保護された。その後、安全な場所に移るとともに、仕事が見つかり、経済的に自立できた。

 しかし、新型コロナウイルス流行以降、頼みの綱の仕事が減った。そして、もともと手取りが10数万円にとどまっていたものの、さらに収入が少なくなった。また、離婚に向けて動きたいものの、外出がままならず、手続きや交渉に向けて動き出すことができなくなっている。DVの被害だけではなく、経済面や法手続きに関しても、彼女は課題に直面している。

 

 男女共同参画局の担当者はこうした事例に関し、「相談をしてくれれば、状況に応じて、福祉面を含めて様々な支援ができる。まずは相談してほしい」と話す。(了) 

研究者、ジャーナリスト

東京学芸大学非常勤講師。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程に在籍。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。

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