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帰国困難のベトナム人が支援求める活動をスタート=失職し困窮、住まい失う人も

巣内尚子研究者、ジャーナリスト
帰国困難となっているベトナム人のグループ、「チーム320」の動画から

 新型コロナウイルスの影響を受け、帰国困難となっているベトナム人がグループを立ち上げ、在日ベトナム大使館に支援を求める運動を展開するなどしている。

 立ち上げられたグループは「チーム320(320 忘れられない日々)」。

 320の「3」は新型コロナウイルスの影響で帰国ができなくなった「3月」を、「20」は「2020年」を意味するという。

 チーム320を率いるのは滋賀県に暮らすベトナム人男性、グエン・リーさん。彼は、「2020年3月から帰国できなくなりました。そして皆が助け合うようになりました。忘れられない思い出です」と説明する。

 チーム320の目的は「この困難な時に互いに助け合うこと」(リーさん)。住まいのない人には住まいを、お金のない人には資金援助をと、チーム320のメンバーの間で提供し合う。何よりも早く帰国できるように助け合うことを目指している。

 リーさん自身も帰国困難者だ。リーさんはこれまで、日本でエンジニアとして働いていたものの、ケガで仕事を続けることができなくなった。そのため帰国を希望したものの、新型コロナウイルスの影響で、帰国できなくなった。

 

 リーさんは3月に失職して以降、新しい仕事がない。生活費を何とかねん出してきたものの、手持ちの資金は減り続け、もう数万円しかない状況だ。家賃を払うことができないので、今は住まいもなく、友達の家に身を寄せ、なんとか生活している。

 保険料を払う余裕もないため、国民健康保険に加入していない。このため病院に行けない状態だという。

 そうした中、リーさんは同じように帰国できず困窮している各地のベトナム人とインターネットでつながり、チーム320を立ち上げた。

 リーさんは「私たちのグループにはおよそ120人のベトナム人が登録しています。エンジニア、技能実習生、留学生、日本人の配偶者など様々な在留資格のベトナム人が帰国できず、仕事もなく、困窮しています。そうした苦しい生活の中で、病気になる人も多くいます。でも保険料が払えず健康保険に加入していない人が多く、病院に行けません」と説明する。

 さらに、リーさんは「私たちはみな何カ月も前からベトナム政府のチャーター便への搭乗を希望しています。でも、チャーター便は運航便数が少ないですし、多くの人が帰国を希望しているので、なかなか帰国できないのです。だから日本政府に助けてほしいです。お願いです。私たちはただ帰国したいだけなのです。日本政府助けてください」と話す。

◇在日本ベトナム大使館に支援呼びかけ

 チーム320では7月に入り、東京のベトナム大使館と大阪、福岡のベトナム総領事館前に複数で集まるなどし、ベトナム政府に帰国を支援するよう呼びかける活動を開始した。

 同時に、各地での帰国支援の呼びかけの様子を写した動画を作成し、フェイスブックでシェアするなど、インターネットを使った情報発信も実施している。

 7月11日までにリーさんたちが作成した動画は2本。それぞれ、以下のリンクから視聴できる。

 動画1

 動画2

 2本の動画には、段ボールに帰国支援を訴えるメッセージを書いた段ボール製のプラカードを抱える多数のベトナム人の姿が映し出されている。ある人は領事館の前で、ある人は自宅で、思いをつづったプラカードを抱えている。

チーム320提供
チーム320提供

 

チーム320提供
チーム320提供
チーム320提供
チーム320提供
チーム320提供
チーム320提供

 動画に映し出されたベトナム人からは、「仕事がありません。家もありません。生活費もありません」「とても大変な状態にあります。ベトナム大使館助けてください」「私たちは助けを必要としています」との悲痛な言葉が聞こえてくる。

 中には「妊娠4カ月」と書いた段ボール箱の切れ端を抱える女性もいる。妊娠中にもかかわらず困窮しているうえ、帰国できない。

チーム320提供
チーム320提供

 別のベトナム人は「4カ月間失業しています。今、家がありませんし、お金もありません。病気で、ストレスもあります。大使館、私を助けてください」と書いた段ボールの切れ端をかかげる。

 この人のように、仕事がないだけではなく、「家がない」と書いている人が多い。

 お金がないだけではなく、すでに住まいさえ失っているのだ。

◇手持ちのお金は3万5000円だけ

 技能実習生のアインさん(25歳)もチーム320のメンバーだ。帰国できず、困窮しており、手元にあるお金は3万5000円だけ。帰国のためのチケットも「友人にお金を借りて買うしかない」という。

 アインさんはもともと関西の建設会社で技能実習生として就労していた。しかし、脊髄に痛みが生じるなど体を壊し、働き続けることができなくなった。来日して数カ月しか経っていないため、来日にかかった費用のための債務は返し終えていない。けれど、痛みから働くことができない。

 しかし、帰国しようにも飛行機はない。また、ほかの帰国困難者同様、健康保険に入っていない状態だ。体の状態からきつい仕事はできず、仕事も難しい。現在、収入はゼロだ。寮で暮らしつつ、友人からお金をかりて、食費をねん出している。

 アインさんはこう語る。「私たちの仲間には同じように帰れない人がたくさんいます。私たちを助けてください」

 日本に暮らすベトナム人の数は増えてきた。法務省の3月27日付の発表によると、2019年末時点で前年から24.5%増加し、41万1968人となった。外国籍者の数自体も増加を続け、同年末には293万317人となり、過去最高となった。一方、新型コロナウイルスの流行拡大と、それに伴い各国が国境を封鎖したり、航空会社が運航をやめる中、ベトナム人にとどまらず帰国したくても帰国できない海外出身の人が多数存在する。中でも、もともと経済的に余裕のない人は、在留資格上の諸権利の制限などを受け、帰国できない中で、困窮していってしまう。(了)

研究者、ジャーナリスト

東京学芸大学非常勤講師。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程に在籍。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。

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