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「“世界各地”から来て共に生きていた人たちが犠牲に」、警察がトロント車暴走事件の死亡者の氏名を公表

巣内尚子研究者、ジャーナリスト
犠牲者を追悼する式典に集まったトロント市民(写真:ロイター/アフロ)

 カナダのトロント警察は4月27日(現地時間)、記者会見を行い、同月23日にトロント市内で発生した車暴走事件で命を落とした10人の氏名と年齢を公表した。移民国家カナダの中でも特に移民の多いトロント市で起きた今回の事件。犠牲者の中には様々な国からカナダへやってきた人々が含まれている。

 トロント警察の声明によれば、亡くなった10人のうち女性が8人、男性は2人で、年齢は22歳から94歳。また同警察は今回の発表で、この事件の負傷者の数を16人に修正したと明らかにしている。

■7歳の息子を残して亡くなったスリランカ出身女性

 犠牲者の女性の1人は移民であり、シングルマザーとして子どもを育てつつ、仕事をし、カナダで生活の場所を築こうとしていた。4月25日付グローブ・アンド・メイルや同月26日付トロント・スターによると、スリランカ出身のベティス・レヌカ・アマラシンハさん(45)は7歳になる息子とトロント東部のスカーバローで暮らしながら、片道1時間かけて職場である高校のカフェテリアに通う日々を送っていた。そんな毎日の中でスリランカに暮らす母も支えていたという。23日はカフェテリアでの仕事を終えた後、地下鉄に乗ろうと歩いているところを事件に遭遇し、帰らぬ人となった。

 アマラシンハさんは、カナダではスリランカ出身者が集まる仏教寺院のメンバーだった。事件のために、アマラシンハさんの息子を学校に迎えに来る人が誰もいなかったことなどから、寺院の他のメンバーが心配して病院を訪れたところ、アマラシンハさんが犠牲になったことが分かったようだ。その後、他のメンバーらは協力し、アマラシンハさんの息子のためにインターネット上のファンドライジングサイト「GoFundMe」で資金集めを開始した。この試みは多数の賛同者を集め、4月29日午後11時(現地時間)時点で、33万ドルを超える資金が集まっている。

■韓国やヨルダンの出身者も

 男性の犠牲者、チュル・ミン・カンさん(45)は数年前に韓国からカナダに移り住んだ。トロントでは人気ブラジリアン・ステーキハウスでシェフとして勤務していた。

 さらに女性の犠牲者の1人、ジ・フン・キムさん(22)もカンさんと同じく韓国出身で、学生だ。(4月27日付グローバル・ニュース)

 同様に、22歳の女性、ソ・ヘ・チュンさんも韓国の出身。トロント大学の学生新聞「The Varsity」は、チュンさんは分子生物学を専攻する同大の学生で、学内の韓国人学生協会のメンバーだったと報じている。トロント大学の声明で、同大のメリック・ガートラー学長は「私たちのコミュニティーの一員がこの恐ろしい事件の結果、亡くなり、私たちは非常に心を痛めている」と述べている。

 同胞の悲劇を受け、在カナダ韓国人団体「コリアン・カナディアン・カルチュラル・アソシエーション」はホームページに声明を出し、犠牲者とその家族を支援すると表明している。

 また、イギリスのスコットランド出身の女性、メアリー・エリザベス・フォーサイスさんは犠牲者の中で最高齢の94歳。高齢にもかかわらず活動的で、歩いて図書館などに行くこともあった。「明るい性格で笑顔が絶えず、いつも友人に囲まれていた」と、友人は証言している。(4月25日付グローブ・アンド・メイル)

 もう1人の男性犠牲者、ムニル・アブド・ハビビ・ナジャルさん(85)はヨルダン人。家族に会うためにトロントを訪問していたところ、事件に巻き込まれた。在カナダ・ヨルダン人組織「 Jordanian Canadian Society (JCS)」のフェイスブック・ページには、犠牲者を追悼する言葉がシェアされている。(了)

研究者、ジャーナリスト

東京学芸大学非常勤講師。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程に在籍。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。

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