「草の根で実習生を支える」(4)「私たちは差別されている」、“希望の日本”に不信感募らせる実習生

ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。筆者撮影。

「憧れの日本」にせっかくきたのに、技能実習生は差別されている――。

技能実習生についてはこれまで、賃金や就労時間など処遇に関する課題が注目されてきたが、「日本語学習機会の不足」や「人間関係の乏しさ」といった問題もある。そんな中、地域のボランティア日本語教室が技能実習生を日本語教育の面から支援している。

一方、私が話を聞いたベトナム出身の技能実習生の女性、ヒエンさん(仮名)は就労しつつボランティア日本語教室で学んでいるが、日々の仕事と暮らしの中で「憧れの日本」への不信感を募らせていた。

私は「『草の根で実習生を支える』(1)ボランティア日本語教室が学びの場に、就業後や休日に日本語学ぶ実習生」「『草の根で実習生を支える』(2)無償で授業する日本語教師が”かろうじて”補う実習生の日本語学習」で、名古屋市のボランティア日本語教室で技能実習生が学んでいる様子を伝えたほか、「「草の根で実習生を支える」(3)裏切られた”憧れのニッポン”行き、「それでも私は日本語を学ぶ」」ではヒエンさんの来日までの背景と来日後の暮らしや仕事について説明した。

今回は、様々な課題を抱えながらも日本語を学ぶヒエンさんの「日本に対する思い」の変化について伝えたい。

◆「私たちは差別されています」、日本人より劣る待遇に不信感

ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。筆者撮影。
ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。筆者撮影。

ヒエンさんが来日後にショックを受け、日本への思いを変化させていくきっかけになったのは、技能実習生の処遇が日本人の社員と大きく異なることだった。

ヒエンさんは「私たちはボーナスがありませんし、給料も日本人よりも少ないです。でも日本人と同じ仕事をしています」と、思い詰めた表情で語った。

私が日本人だからか、それまで日本についてあまり直接的な批判をしなかったヒエンさんだったが、日本での仕事や生活に対する不満や落胆をずっと心のうちにため込んでいたのだろう。

ヒエンさんはため込んでいた思いを吐露したことで、なにかふっきれたのかもしれない。話をきくうちに、彼女は真剣な表情で、「私たちは差別されています」と、言い切った。

◆「憧れ」と「希望」を抱くからこそ背負った借金、日本・ベトナム間の移住制度の課題

ヒエンさんはベトナムでは、北部の農村で生まれ育ち、地元の男性との結婚した後、出産し、子どもを育てながら、働いてきた。そんな中、家庭の経済状況を改善し、子どもに教育を受けさせるため、彼女は100万円を超える渡航前費用を借金により工面して送り出し機関に支払い来日した。

ベトナム政府はかねてより自国民の海外出稼ぎを推奨する政策を打ち出し、これに伴い、ベトナムでは送り出し機関が日本への技能実習生の送り出しを積極的に展開してきた。

送り出し機関はベトナム政府の認可を受けて送り出し事業を行っているが、実質的には営利目的の企業だ。

ベトナムから日本へ技能実習生としてわたるには、ベトナムの送り出し機関に高額の渡航前費用を支払うことが求められる。高い渡航前費用を支払うために技能実習生の多くは借金を背負っており、来日後は借金を返済しながら就労する。ベトナムと日本との間の移住労働制度ではこうしたあり方が構築されており、時に100万円を超えるほど高額の渡航前費用を送り出し機関に支払って来日することが一般的になっている。

日本との経済格差を抱えるベトナム出身の技能実習生がこれほどの大金を支払ってでも日本に来るのは、送り出し機関が「日本は稼げる」と盛んに喧伝している上、ベトナムでは医療や教育などの社会インフラの整備が道半ばの一方で、市場経済の浸透に伴い現金を必要とする社会に変容していることがあるだろう。

また、技能実習生の中には農村出身者が多いが、農村出身者がより待遇の仕事に就くことは難しい。ベトナム出身の技能実習生は家族と自身の人生を変え、よりよいものにしようと、大きな決断をし、高額の渡航間支払うという多大なリスクを背負ってでも日本に来るのだ。

◆「借金漬け」の状態で就労する実習生、働いても働いても貯金できない

ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。筆者撮影。
ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。筆者撮影。

「借金漬け」の状態で日本にやってきたヒエンさんは、名古屋市内に立地する日本企業で週に5日、フルタイムで就労する。しかし、日本人の社員とは賃金体系が異なり、彼女の月給は14万円で、税金や家賃などが引かれると、手取りは9万円だけ。ボーナスもない。

「技能実習生」は、現行では3年という限られた期間しか就労できない上、転職の自由もないという状況にあり、さまざまな権利が制度的に制限されている。このような制度的に構築された諸権利の制限を受け、技能実習生は「差別」的に扱われ、脆弱性を高めていく。

ヒエンさんは9万円の手取りから食費などの生活費を捻出しているが、食事はすべて自炊し、仕事のある日はお弁当をつくり職場に持っていくことにより、できるだけお金をつかわないようにしている。 

彼女がほかの技能実習生と計5人で暮らす部屋の片隅には炊飯器が2つおいてあった。朝晩だけではなく、職場に持っていくお弁当もあるため、炊飯器が2つ必要なのだ。

交通費を節約するため移動手段は自転車。名古屋市という大都市に住んでいながらも、繁華街に行くことや外食することはほとんどないなど、行動範囲は限られる。彼女にとっては、土曜日の夜に自転車で通うボランティア日本語教室が、やっと職場以外でほかの人との交流を持てる場所なのだ。

しかし、そうやって生活費を切り詰めながら働くも、高額の借金を背負った彼女は、稼ぎの大半を借金返済に向けざるを得なかった。借金返済には来日後2年もかかり、私が彼女と会った時点では、貯金はできていなかった。家族のため、子どものためだと思い、家族と離れ離れになり、借金してまでやってきた日本だったのに、彼女は借金を返すことだけのために長い時間を費やしてしまった。

ベトナム北部の農村で暮らしていたとき、ヒエンさんは子育てをしながら、二輪車の販売店で勤務していた。その販売店では日本の有名メーカーの二輪車を扱っており、彼女はそのことからも日本に対して親近感や憧れを持っていたという。

そもそも、ベトナムでは日本はまだまだ「経済大国」として羨望のまなざしを集めている。多くの技能実習生が経済的に豊かになりたいと希望を抱いて日本に来るのだ。

しかし、ヒエンさんの素朴な日本への憧れと大きな期待は、技能実習生として日本で働くうちに打ち砕かれていった。

「会社の日本人に『私たちはボーナスをもらえない』と言ったら、その人は『かわいそう。社長、悪いね』と言いました。でも、助けてはくれませんでした」

ヒエンさんはこう悲しそうにつぶやいて、顔をふせた。

◆移住制度に埋め込まれた構造的な課題、国籍による賃金格差や諸権利の制限

ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。筆者撮影。
ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。筆者撮影。

ときおり「日本人も賃金の低い人はいる」「技能実習生の給与は低いけれど、ベトナムの賃金はもっと低い」といった声を聞くこともある。

たしかに私が話を聞いた技能実習の経験者の中には、借金を背負って来日し、それを返済したのちにいくばくかの貯金をして帰国し、日本での就労経験を評価する人もいた。だが、一方でヒエンさんのように日本への不信感を募らせていた人もいた。

もし借金を背負って来日するというあり方や日本人との賃金格差がなければ、技能実習生にとって日本での就労はもっと良いものになっていないのではないだろうか。そして、不信感を募らせるようなことはなかったのではないだろうか。

ここ日本で同じように働きながら、国籍による賃金や処遇の差、諸権利の制限をなぜ正当化できるのだろう。

そして、ヒエンさんたちベトナム人技能実習生は「就労するため」に多額の渡航前費用を送り出し機関に支払い、借金を背負った上で来日するというリスクをとっているが、どうして、このことが看過されているのだろうか。

借金という大きなリスクをとってやってきた彼女たちは、低い賃金で働きつつも、結果的には製造業、農業、水産業、建設業など日本の各種産業を支えている。

一方、技能実習生を取り巻く課題は、各送り出し機関や各企業、各監理団体の個別の問題というよりも、ベトナム~日本間の移住制度に埋め込まれた構造的な課題として考えなければならないだろう。

賃金水準が低く深刻な格差や貧困の問題を抱え、かつ法整備や制度構築が遅れ、違法行為をする送り出し機関が後を絶たないベトナムという国から労働者を受け入れ、かねてより受け入れ企業による労働法規への違反行為や人権侵害が起きるなど数々の課題を抱える能実習制度のもとで就労させるという、この構造自体が問われる必要がある。

一部の企業にとっては、技能実習生はもはやなくてはならない存在だ。企業の中には、労働法規への違反行為をしたり、技能実習生への人権侵害やハラスメントをする企業がある半面、技能実習生に対して仕事を丁寧に教えたり、交流の時間をもったりしているところもあるだろう。中には、受け入れた技能実習生にほれ込んで、ベトナムに現地法人をつくり、元技能実習生を現地法人で採用するような企業もある。そうした企業の中には、ほかの企業による違反行為など技能実習生をめぐる課題を苦々しく感じているところもあるかもしれない。

技能実習生の受け入れ企業と一口にいってもその在り方は多様だが、企業関係者もこの制度の抱える構造的な課題について考えてくれないだろうか。そして、日本という国に憧れて来日したのにかかわらず日本への不信感を募らせている技能実習生のことばに耳を傾けてくれないだろうか。 (「草の根で実習生を支援する」(5)に続く)