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後半の追加タイムが18分超に及んだ東京対神戸。VAR判定に手間取る審判団に赤紙を翳したくなった

杉山茂樹スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

 主審の判定は正しかったのか。判定への関心はVAR導入を機に増している。現在でこそジャッジリプレイ(DAZN)という番組が注目を集めているが、それ以前には判定を検証する番組は存在しなかった。中継でも実況アナ氏と解説者は、判定についての言及を避けていた。「微妙ですね」の一言で済まそうとした。

 スポーツニュースしかり。テレビから問題のシーンが、しつこいほど繰り返し流れてくる欧州から帰国すれば、日本の後進性は一目瞭然となった。かつての日本には「ひとたび下された判定には口を挟むべきではない」という、非サッカー的な事なかれ主義が常識として蔓延していた。

 監督采配についてもそれは言えた。メディアが批判することに慣れていないため、監督は批判されることに慣れていなかった。審判と監督とはそうした意味で共通する。両者は守られていた。ぬるま湯に浸かっていた。審判のレベル、監督のレベルが上がらない1番の理由になる。

 VARの採用を機に、判定についてはオープンに議論されることになった。少なくともファンの目、その観戦のレベルはワンランク上昇した。だが審判はどうだろうか。レベルは上がっているだろうか。

 先の土曜日、国立競技場で行われたFC東京対ヴィッセル神戸戦ではノーファウルの判定がVARを経て、PK判定に一変する事件が起きた。

 後半42分、ペナルティエリア内に進出した神戸FWジェアン・パトリッキを、東京GK野澤大志ブラインドと同CB木村誠二が2人がかりで止めに入ったプレーだ。どう見てもPKに見えたが、中村太主審は笛を鳴らさなかった。数十秒後、プレーが止まったところでVARが介入。オンフィールドレビューとなり、判定は覆されたわけだが、その模様を現場で見ていて感じたことは“遅さ”である。VARが介入したのは後半41分27秒で、オンフィールドレビューに入ったのが42分53秒だ。その間、1分26秒も費やしている。VAR室のスタッフと主審は延々、何について交信していたのか。

 オンフィールドレビューが終わり、判定がPKに覆ったのが後半45分40秒。さらに2分47秒も費やしている。

 反則が起きた瞬間から大迫勇也がPKを蹴るまでに費やした、トータルの時間は6分弱。欧州ではいまどきあり得ない長さである。その半分でも長いと感じられるほどだ。日本は決定までに費やす時間が概して遅い。

 この試合、表示されたアディショナルはなんと13分。その間に2ゴールが生まれ、山口蛍が決めた神戸の同点ゴールにはVARが入った。オフサイドがあったか否かについて、中村主審とVAR室はおよそ2分50秒も交信した。タイムアップの笛が鳴ったのは後半63分9秒。後半のアディショナルタイムはその結果18分11秒に及んだ。

 これまで筆者にとって、お茶の間観戦を含めたアディショナルタイムの最長記録は、カタールW杯のイングランド対イラン戦の前半14分だったと記憶する。18分強は記憶にない。日本では審判団がメディアの取材に応じることはない。世界的に見て保護された状態にある。しかしサッカーゲームについて報道しようとしたとき、今回の東京対神戸戦のように審判の声が不可欠となる場合がある。なぜ18分強も費やしたのか。パトリッキ、野澤、木村の3人が交錯したとき、VAR室と中村主審との交信が、なぜトータルで6分近く掛かったのか。判定を下す上で、何が難しかったのか。その程度の説明はされるべきだと考える。

 審判団は相変わらず、守られた環境に身を置いている。メディアの前に現れることはない。これではそのレベルは上がらない。ファンのサッカーへの造詣も深まらない。普及、発展の足を引っ張ることになる。数年前、VARに移行する直前に、協会審判部首脳に話を聞けば審判員への誹謗中傷を恐れていた。ネット社会につきもののネガティブな書き込みである。欧州人に話を聞けば、確かに日本人さらには韓国人の書き込みは酷いと言っていた。世界的に見ても陰湿さが目立つと。

 サッカーの審判が難しい立場に置かれていることは確かである。だが、そうした日本人の気質の根源を探れば、冒頭で述べた「ひとたび下された判定には口を挟むべきではない」に辿り着く。教育的でどこか上意下達な空気に支配される中、無理矢理納得させられてきたその反動だと考える。

 神戸と主審の判定で想起するのは、前節の柏レイソル戦だ。MF斎藤美月が全治1年という重傷を負ったにも関わらず、主審が笛を吹かなかったという一件である。協会は後日、謝罪に追い込まれたわけだが、続く対東京戦を担当する中村主審及びVARチームが必要以上に慎重になった、これこそが1番の理由ではないか。18分強に及んだ後半のアディショナルタイムは、「我々はしっかりチェックしています」というアリバイ作りだったと捉えるのが自然だ。

 何か言われるのを恐れた結果だとすれば、審判団は自らメディアの前に立ち、発言すればと提言したくなる。自ら発信すれば、受け手の思い違いは少なからず減る。

 18分強に及んだ後半のアディショナルタイムについて、もう一言加えれば、この前代未聞の異常事態が素通りされることになればサッカーはサッカーでなくなる。終了時間を読むことができるという競技の魅力は失われる。これはイエローカードでは済まされないレッドカードものである。審判団は自分たちの試合捌きについてどうジャッジするのか、聞いてみたいものである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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