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ブラジル戦。プレッシング合戦で敗れれば大敗必至。カギを握るダニ・アウベス対南野拓実

杉山茂樹スポーツライター
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 日本がパラグアイに4-1で大勝した6月2日、韓国はブラジルに1-5で敗れた。このうち2失点はPKによるものだが、GKキム・スンギュが超美技で2点ほど救っているので、このスコアは妥当な結果と言うべきだろう。文字通りの大敗を喫した韓国だが、だからといって悪いサッカーをしたわけではない。守勢一方ではなかった。随所に光るプレーを見せた。

 前半31分、ファン・ヒチャンの縦パスを受けたファン・ウィジョが、チアゴ・シウヴァのマークを背負いながらも叩き込んだ反転シュートなどは、日本がブラジル相手には、とてもできそうにない高等なプレーだった。

 スコアを別にして試合を眺めれば、韓国はよくやった。善戦したといっても言い過ぎではない。だが、存分に力を発揮したにもかかわらず大敗した。そこに今回のブラジルの強さを垣間見ることができる。

 6日に行われる試合で、日本がよいプレーを見せれば見せるほど、ブラジルはやる気を出す。それをモチベーションによりよいプレーを繰り出そうとする。日本がよほど手応えのないプレーをしない限り、ブラジルが手を抜くことはないだろう。

 4日に国立競技場で行われた、ブラジルの公式練習の風景からも、やる気のほどがひしひしと伝わって来た。

写真:ロイター/アフロ

 相手ボールを追い込むプレッシングの練習になると、チッチ監督の指導は俄然、熱を帯びた。ピッチに4-4-2の並びで構える各選手それぞれに、どう動くべきか、肩に手を掛け、引っ張り回すような、ともすると手荒に見えるアクションを交えながら、まさに手取り足取り丁寧な指導をしたのだ。

 韓国戦でもブラジルのプレッシングは光った。高い位置でボールを奪い相手の守備態勢が整う前に攻めきろうとするサッカーを実践した。

 1980年代終盤、イタリア人指導者アリゴ・サッキによって提唱されたこの戦術。誕生の背景にあったのは、ブラジルへの対抗意識に燃える欧州人気質だ。足技に優れたブラジル人をどう止めるか。その答えがプレッシングだったのだ。

 そのアリゴ・サッキが率いたイタリアとブラジルは、94年アメリカW杯決勝で対戦。延長PK戦に及ぶ熱闘の末、勝利したのはブラジルだったが、プレッシングの流れは生き続けた。1990年代後半、欧州が守備的サッカーから攻撃的サッカーに転じると、それを支えるツールとしてスタンダードな戦術になっていった。

 2002年日韓共催W杯でブラジルは通算5度目の優勝を飾っているが、それが最後の優勝になっている事実と、プレッシングの興隆は密接に関係する。

 過去4大会の成績は以下の通り。

 2006年ドイツW杯ベスト8、2010年南アフリカW杯ベスト8、2014年自国開催のW杯ベスト4、2018年ロシアW杯ベスト8。

写真:ロイター/アフロ

 ブラジルは年々、弱体化している印象だ。今回、その流れに歯止めを掛けることができるか。プレッシングが復活のカギを握っていることは言うまでもない。打倒ブラジルをテーマに誕生したプレッシングを、ブラジルが打倒欧州のために使用する。ブラジル人の個人技が欧州人の個人技に勝るとすれば、ブラジルにとってプレッシングは鬼に金棒。絶対的な武器を手に入れたことになる。チッチ監督のプレッシング指導に熱がこもるのは、当然といえば当然だ。

 ブラジルは今回のW杯南米予選を首位通過。FIFAランキングでも現在、首位を行く。カタールW杯の優勝予想でも、ブックマーカー各社から本命に挙げられている。実際、先の韓国戦に照らすと、その予想は概ね正しいように見える。

 ブラジル戦で、森保ジャパンが高い位置からプレッシングを浴びることは必至だ。日本が技巧的なプレーをするほど、彼らはプレッシングの鬼となることが予想される。

 日本に問われるのは左右のバランスだ。相手に正しくプレッシングを掛けることが、過度なプレッシングを浴びずに済む最善の方法なのである。

 南野拓実が左ウイングとして先発するならば危ない。プレッシングの餌食になると考える。

 3トップに左から三笘薫、浅野拓磨、堂安律が並んだ先のパラグアイ戦は、そうした意味で完璧だった。水も漏らさぬ布陣と言えば大袈裟な表現になるが、相手の侵入を許しにくいバランスが保たれた配置だった。だが、この3人が中3日でブラジル戦にスタメン出場する可能性は、コンディション的に見て低い。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 想像するに、南野、浅野拓磨、伊東純也が並んだ3戦前のオーストラリア戦(3月24日)に近い顔ぶれになるだろう。浅野が4日の練習で別メニューをこなしていたとの情報があるので、1トップは前田大然か古橋亨梧のいずれかになりそうだが、どちらにしても、これでは左右のバランスは大きく崩れる。左サイドをカバーせず、真ん中に入り込もうとする南野が穴になる可能性は高い。

 スピード系のアタッカー前田(古橋)と伊東が近い距離で構える姿も、バランス的に問題がある。左から前田(古橋)、南野、伊東ならともかく、森保監督が従来の価値観に基づく選択をした場合は危ない。

 ブラジルは日本の左サイドを突こうとするだろう。南野の下で構える左SB長友佑都には南野の穴を埋めるだけの推進力はもはやない。いま、長友を右SBとして使うプランが浮上しているのは、そのためかもしれないが、代わって左SBに中山雄太が先発しても、根本的な問題に変わりはない。

 ブラジル代表の右SBダニエル・アウベス対南野。歴戦の勇士である老練な右SBに、南野の癖を見抜かれると、日本はプレス合戦で敗れ、プレスを掛ける側から、浴びる側に陥るだろう。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 そのしわ寄せが来るのが守備的MF。4-3-3で言うならアンカーだ。遠藤航にこの事態を耐えることはできるか。火だるまになりやしないか。不動のスタメン選手がここで自信をなくすと、チームは危ない方向に傾いていく。

 それはその下で構える吉田麻也にも少なからず関係する。大量失点を喫した場合、その代償は大きいとみる。W杯本番のドイツ戦、スペイン戦に向け、立て直しが利かなくなる可能性がある。

 欧州で活躍するブラジルのトップ選手が、しゃかりきに束になって仕掛けてくるプレッシングを、日本はどう回避するか。バランスを保つことしか方法はない。プレッシングなしにドイツ、スペインと好試合を演じることも難しい。日本にはまだまだプレッシングの気質が不足しているとは筆者の実感だ。結果はいかに。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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