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森保J。W杯本大会でベスト8を狙うなら「伊東純也」を計4人揃えたい

杉山茂樹スポーツライター
サウジアラビア戦で2点目を挙げた伊東(写真:岸本勉/PICSPORT)

 サウジアラビア戦で1ゴール、1アシストの大活躍を演じた伊東純也。言わずと知れた右利きの右ウイングである。左足はほとんど使わない。右の足先でボールを突きながら前進するドリブルで、縦突破を試みる。

 しかし、このスタイルのドリブルで相手DFを抜き去ることは簡単ではない。スピードに乗りにくいというか、左利きの右ウイングに比べ、相手とのタイミングを縦方向にずらしにくいのだ。

 左利きの右ウイングは、タッチラインを半分背にする開き気味の体勢から、遅れて出る左足(利き足)で、ボールを押すように運び、瞬間的に前方向に勢いをつけて縦突破を図る。右利きよりそうしたボール操作をスムーズにこなせるのでスピードに乗りやすい。ダッシュ力を活かした縦に抜くドリブルが可能なのだ。

 抜きに掛かる瞬間、踏み出す一歩が広くなるので、タイミングを外せば、特段スピードがなくても抜けてしまう。欧州でこのドリブルに秀でた代表的な選手を挙げるなら、リバプールの右ウイング、モハメド・サラーになる。

 日本人では家長昭博、坂元達裕、日本代表では右ウイングで起用された時の久保建英、さらには堂安律もその1人になる。しかし、伊東は彼らより速い。狭くなりがちな歩幅でも抜きに掛かる瞬間、トップスピードに速く乗ることができる、驚異的なダッシュ力を備えている。

 日本人で縦に抜いて出る右利きの右ウイングは、最近でこそ、一昨季のJリーグ年間MVPに輝いた仲川輝人をはじめ、ちらほら目に付くようになったが、日本代表で活躍した選手となると、ドーハの悲劇で知られる1994年アメリカW杯アジア最終予選当時の長谷川健太、福田正博まで遡る。ウイングというポジションを採用しないサッカーが日本で永らく続いたことも輪をかけるが、世界を見渡してもそう多く存在しない稀な選手であることも事実だ。

 2018年ロシアW杯に臨んだ西野ジャパンでは、原口元気が右ウイングを務めた。右利きの右ウイングである。左の方が適性はありそうに見えたが、そこには乾貴士がいたため、右に回った格好だ。

 左右のバランスは取れていた。相手ボールに転じても穴はできなかった。西野ジャパンがベスト16入りした原因を語ろうとした時、これは外せない要素になる。決勝トーナメント1回戦対ベルギー戦では、実際にこの両ウイングが活躍。後半3分と7分にそれぞれ鮮やかなゴールを決めている。2-0とリードしたことで、日本に番狂わせの期待感が膨らむことになった。

 だが、1試合に何本もマイナスの折り返しが返ってきそうな雰囲気はなかった。ロシアW杯では原口、乾以外にも、宇佐美貴史(左)、岡崎慎司、本田圭佑、酒井高徳(右)の4人がウイングとしてプレーしているが、ポジションを埋めるに止まったという印象だ。伊東は存在しなかったのである。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 それから4年。伊東におんぶに抱っこの状態にある。左の南野拓実からはマイナスの折り返しが返ってくる気配がまったくない。森保ジャパンはつまり、左右非対称の状態にある。

 改善される見込みはある。オマーン戦で代表デビューした三笘薫が定位置を掴めば、状況は一変する可能性が高い。オマーン戦の後半、交代出場した三笘は、その後半35分、伊東がマークした決勝ゴールに、マイナスの折り返しを送りアシスト役を果たしている。ウイングが折り返して、ウイングが決めるという図を描いた。

 ウイングの基本的な立ち位置はサイドだ。ゴール前ではない。タッチライン際でドリブルが光る選手の得点力は、概して低くなりがちだが、伊東のみならず三笘も高い得点力を誇る。サイドにポジションを取りながら、センスよくゴール前に現れる。三笘の折り返しを伊東が決めたオマーン戦の決勝ゴールは模範的な得点であり、さらに言えば、何年か前までウイング不在、ドリブラー不在といわれた日本サッカーにとって、画期的な得点と言えた。

 三笘も伊東同様、外せない選手と見るが、心配になるのは森保監督の三笘に対する低評価だ。2020年、2021年のJリーグで、そのドリブル力をいかんなく発揮したにもかかわらず、代表チームはもとより、五輪チームのメンバーにさえなかなか招集されないという有様だった。なんとか東京五輪本大会を戦う22人のメンバーに加えられたものの、実際に出場した時間は、アタッカー陣の中で最も短かった。代表デビューも、先述のオマーン戦にズレ込んだ。

 次戦、難敵オーストラリアとのアウェー戦では、三笘と伊東が、両翼を張るスタイルを筆者は切望する。マイナスの折り返しこそが得点の最短ルートだと確信するからである。それがゴールから近距離であるほど、得点の期待は膨らむ。

 伊東と三笘の両ウイングは、前回の乾、原口より2レベル上の関係に見える。W杯ベスト8を狙うには欠かせない選択と言いたいところだが、前回ロシア大会を振り返れば判ることだが、この2人だけでは絶対数は足りないのである。

 グループリーグの1戦目、2戦目それぞれ後半30分まで出場したとすれば、3戦目は先発が難しくなる。5試合戦おうとするなら、両サイドもう1人ずつ、三笘、伊東と同レベルの選手が必要になる。

 前回は本職を揃えることができなかった。これから本番に向け、伊東、三笘に肉迫するウイングの候補を探すことができるか。サウジアラビア戦のように、伊東をフル出場させるべきではない理由はそこにある。他の可能性を探るための選手交代を、試合の行方がほぼ決した後半30分ぐらいの段で、行う必要があった。

 左利きの久保、堂安、右利きの前田大然、浅野拓磨、古橋亨梧らが、現在の有力候補になるが、問題は布陣の中にキチッと収まるかどうかだ。マイナスの折り返しが意図的にどれほどの確率で狙えるかがカギになる。

 そのためには、両ウイングを下支えする両サイドバック(SB)と良好なコンビネーションを構築する必要がある。

 サウジアラビア戦の伊東は、右SB酒井宏樹との関係も良好だった。南野の先制点は、まさに酒井と伊東のコンビネーションプレーがもたらした産物だった。

伊東と良好な関係を築いた酒井宏樹(写真:岸本勉/PICSPORT)
伊東と良好な関係を築いた酒井宏樹(写真:岸本勉/PICSPORT)

 長友問題も、彼個人の出来もさることながら、その前で構えるウイングとの関係性で語られる必要がある。南野と長友の連係はどうだったのか。長友にとって辛いのは、南野が左サイドで長友と積極的に協力関係を築こうとしない点だ。ライン際に構える機会が少ないので、長友は単独プレーを強いられる傾向が強い。

 タッチライン際はピッチの廊下と言われる特殊エリアだ。そこをカバーするサイドアタッカー(SBとウイング)のコンビネーションがよければ、その滑りも良好になる。縦方向へとベクトルが伸びる。

 サイドを制するものは試合を制する。森保ジャパンはなによりこの大前提を忘れている。伊東の個人プレー頼みという現状から脱却し、サイド攻撃そのものを豊かにしていかない限り、W杯ベスト8は見えてこない。伊東を両サイド各2人、計4人揃えることができるか。彼らが左右の両SBとよい関係を築き、マイナスの折り返しを1試合に何本狙うことができるか。目を凝らしたい。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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