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流動的な動きはなぜ横移動に限られるのか。縦方向の流動性に欠ける日本サッカーの問題

杉山茂樹スポーツライター
縦方向の流動性を武器にアテネ五輪を制したビエルサ率いるアルゼンチン(写真:ロイター/アフロ)

 一般的に観戦チケットの値段が一番高いのはメインスタンド。次にバックスタンド、そしてゴール裏の順となる。メインとバックはスタンドの傾斜角、ピッチまでの距離が同じであれば、見やすさにおいて大きな差はない。バックにはメインスタンド前で行われるセレモニーが見にくかったり、午後、逆光になりやすかったり、屋根のないスタジアムでは雨に濡れやすかったりという難もあるが、値段を分けるポイントはその程度に限られる。

 視覚的に大差があるのはゴール裏だ。メインとバックが105mというピッチの縦の距離感を実感しやすいのに対し、目の前に68mの横幅が広がるゴール裏はそれができない。横幅の中で起きた出来事は実感しやすいが、縦幅の中で起きたことは実感しにくい。

 さらに、正面スタンド、あるいはバックスタンドは、その高い位置から俯瞰すれば、弱みである横幅のイメージもなんとか描くことができる。観戦のベストポイントと言いたくなる所以だ。それはともかく、前置きが長くなったが、このピッチを巡る縦と横の関係。サッカーを語る際にも意識する必要があると思う。

 たとえばスピード感、躍動感は、ゴール裏席より、メインとバックの方が、実感しやすい。流動性もそうであるはずだが、日本のサッカー界でよく使われるこの言葉はなぜか、縦ではなく横へ移動する場合に使用される。具体的には、ウイングやサイドハーフが真ん中に入る動きを流動的な動きと称している。実際にその流動性を実感することはできにくいはずだが、そう呼ばれている。一目でわかりやすいはずの縦の流動性について、言及する人はほとんどない。流動性と言えば横と相場が決まっている。

 その影響が、森保ジャパンにも現れている。顕著なのは南野拓実が真ん中に移動する動きで、後方の選手が前方の選手とポジションを入れ替える動き、すなわち追い越して行く動きが不足している。

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スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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