0-1でサウジアラビアに敗れ、解任すべしの声が高まる中でも、森保一監督は「方向性は間違っていない」と、強気を装った。しかし「方向性」とひとことで言っても、意味は広範囲にわたる。漠然とした具体性に欠ける言葉にしか聞こえない。そこで強気を張られても、議論は噛み合わない。独りよがりの台詞に聞こえてしまう。

 森保監督がよく口にする「臨機応変」しかり。具体的なイメージが湧いてこない、分かる人にしかわからない言葉足らずで抽象的な台詞になる。相手に何かを伝えようする意思が低い、コミュニケーションを積極的に交わしたくない人が、用いる言葉と言われても仕方がない。

 監督は、口下手には務まらない職業だ。「日本人の中でナンバーワンの実績を残した監督」とは、田嶋幸三会長が森保監督を日本代表監督に選んだ最大の理由になるが、となると田嶋会長が、かつて『「言語技術」が日本サッカーを変える』(光文社新書)なる新書を刊行した著者として、森保監督の言語技術をどう評価しているのかとの疑念も湧く。

 伝える力、発信力が弱い理由として考えられるのは自信のなさだ。何かを述べれば、この世の中、突っ込まれるのがオチ。曖昧な表現に留めて置いた方が得策と考える人が多数派だろう。そうした世の中に対し敢然と打って出るには、突っ込まれても簡単に屈しない話術、そして自信が不可欠になる。勝手に想像するに森保監督には現在の自身のサッカーに、そこまでの自信が持てないのではないか。そう考えるのが自然だ。いくら、方向性は間違っていないと語気を強めても、強気の程は伝わってこない。

 だが、サンフレッチェ広島監督時代の森保監督には、抽象的な台詞を連発するイメージはなかった。印象に残っているのは自ら採用していた3バックを肯定しようとする文脈の中で、「これからは3バックが流行ると思いますよ」と、踏み込んだ台詞を吐いていたことだ。

 その3バックとは、どんな3バックか。3バックと一口に言っても様々な種類がある。攻撃的なものもあれば、守備的なものもある。筆者はもちろんその時、そう突っ込みたくなる衝動を抑えたわけだが、当時、森保監督の口から発せられたそのハキハキした声が、いまとなっては懐かしく感じられる。