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絶対に負けられない中国戦。TV解説者、評論家は森保采配をキチッと批判できるか

杉山茂樹スポーツライター
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 2022年カタールW杯アジア最終予選。日本が所属するB組は以下のようなシード順になっている。

 日本、オーストラリア、サウジアラビア、中国、オマーン、ベトナム。

 0-1で日本が敗れたオマーン戦は、シード順にしたがうと1位対5位の対戦だった。しかもホームは日本。これは番狂わせが起きたことを意味する。だがこの試合の問題は、試合内容に目を凝らした時、オマーンの勝利、日本の敗戦に特段、違和感を覚えない点にある。アンラッキーな要素が少ない、必然性の高い番狂わせ。偶発的な事件ではないところに、問題の深刻さが垣間見える。

 合格点を出したくなる選手は誰もいなかった。しかし、彼らは自分の意思でピッチに立っているわけではない。監督に招集され、スタメンとして、交代選手としてピッチに送り込まれる。Jリーグで首位を争う川崎フロンターレ、横浜F・マリノスの選手をもっと加えてもいいのではないかなど、様々な意見、選択肢がある中で、森保一監督は現行のメンバーを選出した。布陣も同様。数通りある中から4-2-3-1を選んでいる。

 選手の選択、布陣の選択が、時の監督の意思、感覚に委ねられるのがサッカー競技の特性だとすれば、結果に対する責任を誰よりも負うべき人物も監督になる。監督を選んだ人たち、すなわち協会会長や技術委員長の責任が、それ以上に重いことは言うまでもない。

 得点が決まらないと、中には原因を選手の決定力不足のせいにする監督もいる。その監督の声を、そのまま紹介してしまうメディアも多い。責任は選手にありとする声を耳にするたびに、それはサッカー的な解釈ではない。だまされてはいけないと忠告したくなるが、何事もまず問われるべきは、サッカーの質になる。

 オマーン戦。日本の攻撃はチームとして機能していたのか。相手に個人能力で上回りながら、機能していなかったとすれば、原因は8割方監督にある。これはサッカーでは常識的な考え方になる。

 サッカーほど、大きな権限が監督に与えられている競技も珍しい。それは言い換えれば、他の競技より監督は更迭されやすい宿命を抱えている。だが、大手メディアは、その事実を直視しようとしない。日本において、テレビの解説者、評論家が、監督采配に疑問を呈すような場面に、お目に掛かることはほとんどない。

 代表監督はもちろんJリーグの監督に対してさえ、意見することを固く控えている。不自然とはこのことだ。実況アナウンサーとの掛け合いの中で、解説の中で、もっとこうした方がいいと指摘するケースはないわけではない。だが、その指摘は選手に向きがちだ。原因は監督にあるはずなのに。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 先の東京五輪のある試合に、こんなケースがあった。実況アナの某氏は、日本が攻めあぐむとたまらず、傍らの解説者にこう問いかけた。「日本はここでどうするべきでしょうか」。すると解説者はこう答えた。「相手の3バックの両側にスペースができるので、そこを突いていくべきです」

 的確な答えに、その通りと頷いたが、このやりとりに瞬間、違和感を覚えることになった。その「べき」は、誰に向けての注文なのか。選手なのか。監督なのか。3バックの両側にできるスペースを突けない日本の現実は、誰に最も責任があるのか。

「日本はここでどうするべきでしょうか」という実況アナの問いかけは「あなた(解説者)が監督なら、どんな指示を出しますか」と、同じだ。それは選手間で共有できていないと実行不可能なチーム戦術である。2人のやりとりは事実上、監督への注文であり、指摘であり、批判だ。筆者なら、相手の3バックの両側を突こうとしない日本のベンチワークをストレートに批判するが、テレビの中継では、監督批判はまずしない。そこが浮き彫りにならないように取り繕うとする。

 オマーンに0-1で敗れた一戦も、例外ではなかった。地上波、DAZNの中継に出演した解説者、評論家の中で、森保一監督の采配に厳しい注文をつけた人は誰もいなかった。

 いまはネットの時代。一般のファンがヤフーのコメント欄などに、自由に書き込める時代になっている。そこで大勢を占めている声をナチュラルとすれば、実況と解説者、評論家のやりとりはアンナチュラルだ。4年前、8年前に比べると、不自然さは際立つばかりである。

 筆者は4年前、あるテレビ局から、ハリルホジッチ解任すべしのスタンスで、コメントを求められていた。しかしその局は、解説者、評論家として、契約している元選手を何人も抱えていた。なぜコメントを、彼らではなく、部外者の筆者にわざわざ求めたのか。声を挙げたくない解説者、評論家が多いということだ。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 続く中国戦は、先述のシード順で言えば、1位対4位の関係にあたる。オマーン同様、負けられない相手になる。中国は日本のライバル、オーストラリアと初戦で対戦。0-3で完敗している。中国戦は日本の力を推し量るバロメーターになる試合でもある。

 日本も3-0ぐらいで勝たないと、オマーンに敗れたショックを引き摺りながら、3戦目以降の戦いに臨むことになる。引き分けたり、敗れたりすれば大ピンチだ。本大会出場の可能性は減る。森保監督を続投させることも難しくなる。まさに監督交代のタイミングだ。中国戦はそうした意味で目の離せない一戦だ。好むと好まざるとにかかわらず、厳しい目を向ける必要がある。

 サッカーは監督力が結果に占める割合が著しく高い競技である。テレビ解説者、評論家には、そのサッカーならではの特性を視聴者に伝える義務がある。この点をキチッと謳っておかないと、優秀な監督は生まれてこない。

 中国との大一番。中継はDAZNのみだそうだが、我々は解説者、評論家対森保監督の関係にも目を光らせたい。彼らは時の代表監督をキチンと批判することができるか。テレビ解説者、評論家の優秀度を推し量るバロメーターでもあると考える。

 すなわち、その国の解説者、評論家のレベルは、その国の監督のレベルに比例する。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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