「続投」はイエローカードと同義語。森保監督がレッドカードの提示を免れる方法とは

(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 日本サッカー協会の技術委員会は先日、森保一監督の続投を正式に決定した。そこでどんな議論が繰り広げられたのか、その中身について関塚隆技術委員長は、もう少し詳細を語るべきだと言いたくなるが、それはともかく、この決定に、とても信任の意味が込められているようには思えない。

 就任後わずか1年半。続投か否かがこれほど早く技術委員会で議論されること事態が異例だ。森保監督は、次に議題に上る時は解任もあり得る、まさに後がない状態にあると見る。これは事実上の「警告」だろう。いきなりレッドカードでは厳しいので、今回はイエローカードとして処理しておこうーーが、技術委員会内に漂う実際の空気ではないか。

 カタールW杯本番を迎える2022年11月まで、森保監督は待ったが効かないこのリーチが掛かった逆境を耐えることができるか。常識的に考えれば、続投か否かが次に議論されるのは東京五輪後だ。森保ジャパンの行く末は、そこでの結果に委ねられている。

 合否のラインはどのあたりか。金メダルを目標に掲げる森保監督だが、それが達成されれば、逆に驚愕すべき事件になる。目標というより半分、夢。この「金メダル!」宣言には、具体的な目標を掲げ、それを合否のラインに設定されることを嫌う森保監督の胸の内が透けて見えるとは、歪んだ見方だろうか。

 現実的な合格ラインはどれほどか。五輪開催国の恩恵で、グループリーグで日本は楽な組に入ることが予想される。ナイジェリア、コロンビア、スウェーデンと同組になった前回2016年リオ五輪のような激戦区に組み込まれることはないはずだ。

 グループリーグを突破しベスト8入りすることができなければ森保監督の続投は難しい。決勝トーナメントの階段をどこまで昇ることができるか。合否のラインはベスト4。銅メダル以上なら続投は確実になる。

 サッカー界の本番はW杯。五輪は2年後のW杯を見据えた大会に過ぎない。問われるのは結果より内容。森保監督で2年後のW杯は大丈夫そうか。五輪はその可能性を探る大会だ。運に左右される結果より、真実はサッカーの中身にあり。結果ばかりに目を向けるのはナンセンス。個人的には、たとえベスト8で沈んでも、監督采配に大きな可能性を感じたなら続投だと言いたくなる。

 では可能性とは、具体的には何なのか。解りやすいのは選手交代だ。カタールW杯でベスト8以上を狙おうとするなら、それは5試合以上を戦う余力が必要になる。限られた選手をやりくりする力。使い回す力。これこそが日本代表監督に求められる資質となる。

 W杯のような短期集中トーナメントでは、試合間隔の平均は中3日だ。このペースで5試合連続スタメンを張り、常に控えの選手を上回るパフォーマンスを発揮できる選手はそういない。自軍の戦力を分析し、ベスト8を目標に据えるなら、5試合目となる準々決勝を想定し、そこから逆算してメンバーをやりくりするマネージメント能力が不可欠になる。4試合目、5試合目の相手は強敵だ。初戦からそこを視野に入れた戦いができるか。

 ロシアW杯を戦った西野朗監督は、その点に大きな問題を抱えていた。急遽誕生した経緯から、その頭に5試合目は最初からなかったのかもしれないが、いずれにせよ4試合目(決勝トーナメント1回戦)のベルギー戦が限界点に見えた。

 そのベルギー戦で西野監督はメンバーを2人(山口蛍イン/柴崎岳アウト、本田圭佑イン/原口元気アウト)しか代えていない。しかもそれは2枚同時替えで、後半36分という遅さだった。あのロスタイムに3人目の交代を行っていれば、ラストワンプレーでベルギーに逆転弾を叩き込まれることはなかったーーとは、現地で観戦していた実感だ。

 なぜ交代のタイミングが遅れたのか。3人目を代えられなかったのか。理由は交代のアイディアが乏しかったからだと思う。

 西野監督は1戦目(コロンビア戦)と2戦目(セネガル戦)をまったく同じスタメンで戦っている。初めてスタメンをいじったのは3戦目(ポーランド戦)。しかもそこで6人を一気に入れ替える唐突感を覚える采配だった。同じスタメンで戦えば、パフォーマンスが低下すると判断したのだろう。しかし、このポーランド戦はグループリーグ突破を懸けた大一番。初出場3人を含むまったく新たなスタメンで臨んだこの選択は、博打的な判断と言わざるを得なかった。

 ご承知の通り、試合には0-1で敗れたがフェアプレーポイントでセネガルを上回り、日本は幸運にもグループリーグ突破を果たすことができた。しかしこれは結果オーライの産物そのものになる。

 この第3戦からどういじるのか。A(第1戦)、A(第2戦)、B(第3戦)ときた4戦目(ベルギー戦)のスタメンに注目すれば、答えはプランAだった。言い方を変えれば、プランはAとBしか用意されていなかったことになる。選手交代の選択肢もそれに準じていた。交代で投入する選手は本田、山口の他には、岡崎ぐらいしか思い浮かばなかった。しかし、その時の戦況は、センターフォワードを投入している状態ではなかった。

 4戦目のベルギーにもし勝利したら、準々決勝はどのプランで戦うつもりでいたのか。Aのみしか浮かばない。しかしそうなれば、選手のパフォーマンスに問題が生じる。かといってプランBでは博打的だ。アイディアは手詰まりの状態にあった。

 五輪はW杯より試合間隔が短い。グループリーグは中2日で行われる。さらにフィールド選手の人数は、W杯より4人少ない16人だ。この条件下で6試合を戦おうとすれば、プランがAとBしか存在しなかった(つまりサブの存在を明確にした)西野式では準々決勝に到達するのが精一杯だ。続投の条件になりそうなベスト4以上は狙えない。

 求められているのは一戦一戦、スタメンを徐々にいじっていく方法だ。AかBの2択ではなく、1戦から6戦までグラデーションをかけるように1戦1戦、関連性を持たせながら戦う必要がある。

 森保監督は西野ジャパンではコーチを務めていた。西野監督の采配を傍らで眺めていたはずだ。そこで学習を積むことはできなかったのかーーとは、昨年UAEで開催されたアジアカップにおける采配を見ながら抱いた感想だ。

 目標値は決勝戦までの7試合。W杯より遙かに長い道のりにもかかわらず、この大会における森保監督のスタメンの起用法は、西野式そのものだった。

 1戦目(トルクメニスタン)と2戦目(オマーン)で入れ替えた選手は2人。そこには大迫勇也の怪我が絡んでいたので実質的には1人。プランAを2試合続けたといっても過言ではなかった。

 3戦目のウズベキスタン戦も西野式と瓜二つだった。ロシアW杯のポーランド戦以上と言ってもいい。2戦目と重なったのは、その試合で大迫に代わって出場した北川航也のみ。10人を入れ替えるバリバリのプランBで、この3戦目に臨んだのだ。長丁場に備え「主力」を休ませようとした。

 そして4戦目(サウジアラビア戦)で、再びスタメンを主力組に戻すと、森保監督は、ほぼこのスタメンで残りの試合を戦った。しかし7戦目の決勝戦(カタール戦)になると、4連戦目となる主力組は、疲労が限界に達したのか、パフォーマンスが急降下。そこで喫した1対3の敗戦は、チームを主力組と控え組に真っ二つに分け、可能な限り主力組で押し通そうとした、その采配に起因していたと言っていい。

 主力組と控え組に分けるのではなく、各選手の出場時間ができるだけ均等になるように、1戦ごとに何人かを混ぜ合わせるようにスタメンを組まなければ、チームとしてのパフォーマンスをコンスタントに維持することはできない。途中で息切れが起きる。この現実に気付けない代表監督では、短期集中型のトーナメントを勝ち上がっていくことはできないのだ。

 そもそも控え組で戦う試合を、その中に設けようとすることに問題がある。ロシアW杯ではラッキーに恵まれ、アジアカップでは相手の低レベルに救われた格好だが、東京五輪で再びこの手法が通じるとは思えない。控え組で臨み、試合に敗れる姿ほど無残なものはない。

 五輪で6試合を戦おうとするならば、1戦目と2戦目を同じメンバーで戦ってはダメなのだ。この間に、何人を入れ替えることができるか。メダルに手が届くか届かないかの分かれ目と言ってもいい。

 森保監督は、先のU-23アジア選手権では、1戦目(サウジアラビア戦)と2戦目(シリア戦)でメンバーを入れ替えた。しかし、この2試合が巧く連結したかと言えばそうではなかった。それは1戦目の選手交代に見て取れた。2人目、3人目の交代が(しかも2人同時に)行われたのはロスタイムに入った後半46分。この選手交代の遅さは、試合に敗れたこと以上に問題視したくなった。これでは1戦目と2戦目に関連性が生まれにくい。2戦目のシリア戦に1戦目の経験が活かされにくくなる。

 さらにもう一つ例を挙げるなら、昨年12月に釜山で行われたE1選手権だ。中国、香港、韓国の順で戦った3試合のスタメン起用法である。A、B、Aのパターンを描いたのだ。1戦目と3戦目が主力組で、2戦目が控え組であることは一目瞭然だった。選手交代も1、2戦は2人だけ。連結機能も満足に発揮できなかった。

 これは西野監督、森保監督に限った話ではない。日本人監督に総じて言える傾向だ。五輪監督を例に取るならば、ロンドン五輪を戦った関塚監督(現技術委員長)、リオ五輪を戦った手倉森浩監督も主力組とサブ組に境界線を設ける采配だった。繰り返すが、五輪はフィールドプレーヤーわずか16人で臨む大会だ。両者の間に境界を設ける采配では、6試合を乗り切ることはできない。

 グループリーグ突破を最大の目標とする時代は終わりを告げたはずだ。日本代表監督には、それに準じた資質が求められているにもかかわらず、森保監督の采配は、かつての域から脱していない旧態依然としたものに映る。目先の試合ばかりに目が向く傾向がある。東京五輪でメダルが欲しいのなら直ちに監督交代を叫びたくなるが、W杯を本番と捉えれば森保監督にレッドカードではなくイエローカードを翳す余裕が生まれる。この半年間に変身することはできるのか。とくと目を凝らしたい。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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