「金メダル!」に重みなし。五輪男子サッカー。優先権が海外組より国内組にある本来の理由

(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 日本がグループリーグで最下位に終わったU-23選手権は東京五輪の予選を兼ねた大会だ。出場権が与えられるのは上位3チーム。これに開催国の日本を加えた4チームが、アジア勢として東京五輪本大会を戦う。

 本大会出場チームは16。アジア勢はその4分の1を占めることになる。一方、32チームで争われるW杯本大会の枠は4.5だ。前回2018年ロシア大会では、アジア5位のオーストラリアが、大陸間プレーオフで北中米カリブ4位のホンジュラスに勝利。アジア勢は計5チームが本大会に駒を進めた。

 それでも全体に占める割合は32分の5に過ぎない。アジア勢の五輪出場枠(16分の4、つまり32分の8)は、W杯の出場枠と比較すれば広き門となる。

 一方、欧州勢の五輪本大会枠もアジアと同数の4(16分の4)だ。ロシアW杯の本大会出場枠が14(13+1=開催国ロシア/32分の14)だったので、その割合を五輪本大会に適用すれば、妥当な枠は7になる。W杯と比較して狭き門であることが一目瞭然となる。

 同様に、アジアの五輪出場枠をW杯の関係に当てはめれば2.25だ。その欧州対アジアの関係は7対2.25となる。それが五輪ではどうして4対4と対等な関係になってしまうのか。

 日本と欧州の力関係を正しく反映したものはどちらになるかと言えばW杯の枠(7対2.25)だ。実際の力関係はそれ以上だろう。日本が欧州予選を戦えば、98年フランス大会以降、6大会連続でW杯本大会出場を果たすことはなかったに違いない。

 南米の五輪枠はもっと悲惨だ。4.5枠(W杯)が五輪ではわずか2枠に激減する。昨年11月、日本がホームで0-2と完敗したコロンビアでさえ、予選突破が危ぶまれている。

 アジアよりレベルが低いオセアニア地区に至っては、五輪の方が拡大する。W杯が0.5(1位チームは南米5位とプレーオフ)であるのに対し、五輪は1。プレーオフなしでストレートインできる。

 欧州で五輪サッカーへの関心が薄くなるのは当然だ。欧州、南米併せた枠はわずか6。欧州枠のみならず、長年のライバルである南米の枠も少ない。五輪のサッカーが彼らにとって関心の低いイベントになりがちな理由だ。

 サッカー先進地域に厳しく、後進地域に甘い。五輪サッカーの出場枠はなぜ、このような設定になっているのか。一番のコンセプトがサッカーの普及発展にあるからだ。これはU-23で争われる五輪に限った話ではない。年代別の大会すべてに共通するコンセプトだ。

 クラブサッカーが浸透している欧州や南米は、クラブに選手を育てる力がある。よい選手が昇りの階段を進んでいく仕組みが出来上がっている。育成の環境が十分に整っていない後進地域のために枠を削っても支障をきたさない背景的な余裕がある。

 年代別の大会のコンセプトは、W杯とは異なる。五輪も例外ではない。U-23の世界一決定戦と言い切ることはできない。それにオーバーエイジ枠という様子が加わると、大会の定義はいっそう難しくなる。金メダルの定義も同様だ。少なくともその重みは、その他多くの競技に比べて思い切り軽い。

 森保監督は金メダルを目標に掲げるが、成績より注目すべきはサッカーの中身だろう。W杯の下稽古という見方もできる。当然、W杯本大会に出場するメンバーは、それとは違ったものになるはずだ。それが5割なのか、7割なのか、なんとも言えないところだが、監督は一緒だ。W杯は森保監督で大丈夫なのかというその可能性を探るには申し分のないイベントとなる。

 そのことは今回のU-23アジア選手権にもあてはまった。五輪本大会と同じ方式で行われたこの大会は、五輪本番における森保采配の可能性を占う絶好の機会でもあったのだ。

 その2ヶ月ほど前、森保監督は「金メダル!」を目標に掲げ、選手たちと共有を図ったとされる。選手たちのモチベーションを高める狙いからだと思われるが、それは自らに跳ね返る言葉でもあった。森保監督自身の采配も金メダル級でなければならないからだ。

 2敗1分け。グループリーグ最下位というU-23アジア選手権の結果はだからこそ重くのしかかる。末期的な症状に見えてしまう理由だ。

 世の中には、それでも敗因は監督ではなく選手にありとする声が根強くある。欧州組を呼ぶことができれば結果は違っていた、と。しかし、こちらが探っているのは五輪本大会の可能性だ。選手が揃っても、采配が金メダル級でなければ、金メダルは望めない。W杯本大会での好結果も望めない。

 サッカーの普及発展という五輪サッカーのコンセプトに基づくと、欧州組を招集すること自体に違和感を覚える。欧州組はサッカー先進国でプレーしている選手たちである。五輪出場の優先順位は、そこに身を置くことができていない後進国の選手にある。欧州組と国内組にはそうした立場の違いがあるのだ。五輪本大会の経験は国内組にこそ与えられるべきものではないか。選手を発掘する行為は、裾野が広がることを意味する。普及発展に貢献することになる。メンバーが欧州組で占められれば、国内組から多くの落選者が生まれる。彼らの出場機会を奪うことは、五輪からアジア枠が減ることと同じ意味合いになる。

 五輪のサッカー報道に欠けている視点だと思う。オーバーエイジ枠についても本来、使うか否かから議論すべきテーマなのである。

 中田英寿はなぜ29歳で引退に追い込まれたか。その躓いたきっかけを考えたとき、主因として浮上するのはシドニー五輪への出場になる。小野伸二が負った致命的なダメージも、A代表のコパアメリカ遠征をキャンセルして出場した五輪予選対フィリピン戦だった。小倉隆史が五輪チームのマレーシア遠征で負った大怪我も、五輪至上主義が生んだ産物といっても言いすぎではない。

 五輪でもし「金メダル!」を獲得すれば、それはこの上なく喜ばしい話になるが、その背景には大なり小なりリスクを孕んでいることも知る必要がある。手続きは一つひとつ慎重に進めたいものである。東京五輪はあくまでカタールW杯の下稽古に過ぎない。改めてそう言いたくなる。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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