「欧州から最も離れた国で行われる世界一緩いW杯予選」。日本代表監督に問われる世界観とは

写真:岸本勉/PICSPORT(本文中も)

 少々ザックリ言えば、日本は本場欧州から最も離れた場所にある国だ。一方、アジア2次予選は、世界で最も緩い戦いである。

 つまり欧州のクラブは「本場欧州から最も離れた日本」に「世界で最も緩い予選」を戦わせるために所属選手を送り出していることになる。

 選手は各クラブから支払われるギャラで生きている。一方、協会が代表選手に支払うギャラは、聞くと仰反るくらい微々たるものだ。

 6-0で日本が大勝した先のモンゴル戦を見た、欧州の各クラブの関係者はどう思うだろうか。ボローニャの関係者は、所属選手である冨安健洋が、この試合で左足の腿裏という筋肉系の部位を損傷し、戦線離脱を余儀なくされたことをどう思っているか。

得点力が欲しい南野拓実
得点力が欲しい南野拓実

 6-0で勝利した10日のモンゴル戦は8-0、9-0で勝ってもおかしくない一方的すぎる試合だった。モンゴルがボールを保持しながら日本陣内に攻め入ったのはほんの数回。大勝してうれしくない人はいないと思うが、勝利からしばらく時間が経過したいまなお感激、感動に浸っている人はそういないだろう。順当すぎる勝利。勝負としての魅力はほぼゼロに近い、スリルに乏しい、ある意味で退屈な試合だった。

 2000年シドニー五輪アジア1次予選で対戦したフィリピンに第1戦13-0、第2戦11-0、通算スコア24-0で日本は勝利を飾っているが、モンゴル戦はそれに近い差を抱えた一戦だった。

 初戦のミャンマー戦はアウェーで2-0。これも実力差を考えれば、4-0程度は十分望めそうな試合だった。次戦はタジキスタン戦(15日)。馴染みの薄い小国とのアウェー戦だ。ピッチは日本人選手が慣れていない人工芝。それを心配する報道もあるが、両者の間には前2戦同様、如何ともしがたい実力差がある。タジキスタンに日本が番狂わせを許すことは、サッカー史に刻まれるべき事件に値する。

 選挙にたとえるなら無風区だ。100%近い確率で突破が見えている、まさに世界で最も緩い場所に身を置いている日本は、この現実とどう向き合うべきか。これは組分けを見た瞬間から、投げかけられていたテーマだった。

 モンゴルのレベルは、日本の大学選抜というより、高校選抜に近い。ベストメンバーを出動させなくても十分勝てる相手である。U-22で構成される東京五輪を目指すチームが出て行っても心配はいらない。逆に強化にはその方がうってつけだ。

伊東純也と酒井宏樹。コンビが光った
伊東純也と酒井宏樹。コンビが光った

 だが森保監督はミャンマー戦に続き、モンゴル戦もベストメンバーを招集。弱者相手に全力投球した。ミャンマー戦で4人だった国内組は、さらに1人減り3人となった。

 ベストメンバーのほとんどは欧州組。このことに異議を唱えるつもりはない。この欧州組の選手なら、この国内組の方がいいんじゃないと思うケースはないわけではないが、せいぜい数人の話だ。ベストメンバーの大半が、海外組で占められることを特別、問題視しているわけではない。

 いまこの段階から、ベストメンバーを出動させる必要があるか、という話だ。ミャンマー戦はアウェー戦だったが、その直前に国内でパラグアイと親善マッチをした流れで、現地に向かっているので、ベストメンバーをこの間、欧州から立て続けに日本に呼び寄せたことになる。

 前回は、日本でパラグアイ戦を戦った後ミャンマーに行き、そして今回は、日本でモンゴル戦を戦った後、タジキスタンへ向かった。ベストメンバーは、所属チームをそれぞれ2週間近く離れる大旅行を強いられることになった。

 彼らが森保監督にとっての「ベストメンバー」でいられる理由は、欧州の所属クラブでスタメンを確保し、活躍しているからに他ならない。

 だが、所属クラブを1ヶ月間隔で2週間近く、連続して離れればポジションは危うくなる。来月11月も大阪で親善試合が組まれている。これにも出場すれば、その危険はさらに増す。その結果、所属チームでポジションを失えば、今度はベストメンバーから除外される運命が待ち構える。理不尽とはこのことだ。ベストメンバーの中には毎度、招集して欲しくないと思っている選手がいたとしても不思議はない。

世界観、世界性が問われる森保一監督
世界観、世界性が問われる森保一監督

 ベストメンバーは無駄に消費されている。弱者を相手に贅沢すぎるメンバーで戦い過ぎている。監督には選手起用の荒さが目立つ。モンゴルに8-0、9-0も行けたんじゃないかと思われる6-0で勝利する必要など全くない。勝ち点3を獲れば十分な試合に、ベストメンバーを送り込もうとする采配に、代表監督が権限を行使し過ぎているのではないかと疑問を呈したくなる。

 その結果、冨安健洋選手は負傷。左太腿の裏をやってしまった。筋肉系と思われるので簡単には復帰できないだろう。本人にとっても、所属クラブ(ボローニャ)にとっても痛すぎる話だ。森保監督に罪悪感はないのだろうか。

 想起するのは、先述のフィリピン戦に協会が半ば強引に出場させた小野伸二が、そこで相手の悪質なタックルを浴び、その後の選手生命に関わる大事故を負った一件だ。

 選手に怪我はつきもの。しかし問題はその場所だ。例えば、レアル・マドリー戦で負うなら納得できる。W杯本大会の大一番、前回ロシア大会のベルギー戦とかなら諦めもつくかもしれない。しかし、フィリピン戦やモンゴル戦はダメだ。怪我をする場所として相応しくない。

怪我をした冨安健洋
怪我をした冨安健洋

 世界の代表チームを見渡せば、あるレベルに達しているチームは、パッと考えて3-0で勝てそうな相手には、まず間違いなくベストメンバーを送らない。その60%~70%のメンバーで臨む。真のベストメンバーを編成するのは、予選の大一番ぐらいに限られる。それがベストメンバーの考え方だ。監督はそこから逆算して物事を考える。

 クラブチームの力が代表チームより強いこともある。冒頭で述べたとおり、選手に高額なギャラを払っているのは所属クラブ。代表チームではない。代表チームにはある種の遠慮が求められている。

 日本はその逆。日本代表至上主義がまかり通っている。選手には簡単に招集を辞退できないムードがある。日本のために戦えないのかと、非国民呼ばわりされることもある。

 しかし、今や国内組はわずか3人。怪我の冨安にかわり室屋成(FC東京)が 追加招集されたので4人になったが、価値観は従来のままだ。欧州組が劇的に増えたにもかかわらず、旧態依然とした日本的な思考法で森保監督は日本代表と向き合いベストメンバーを編成している。

 間に立たされた選手の胸の内が、こちらには透けて見える。サッカーの代表監督になにより求められるのは世界観であり世界性だ。世界の姿をきちんと捉えることができているか、だ。

 ベストメンバーが欧州組になるのはいい。ならば、代表監督もそれに相応しい、気質というか常識を備えていなくてはならない。でないと、この世界はうまく回らない。

 選手は口なしだ。森保監督に対して「欧州の事情についてもう少し敏感になってほしい」とは言えない。わだかまりを内に抱えることになる。その辺りの事情に疎いと言わざるを得ない監督へのリスペクトは、失われる可能性が高い。その手の感覚に欠ける人が、プレーや戦術面に限って高度な知識を保持しているとは思えないのだ。

 選手にとってよい監督とは、自分を使ってくれる監督を指す。選手の優劣を示すデータが極端に少ないサッカーにあって、選手のよし悪しは、監督の好みに委ねられている。代表監督が変われば、メンバーはそれに伴い何人か入れ替わる。それがサッカーの常識だ。現在の代表選手にとって、森保監督はよい監督になる。スタメン出場する選手は特にそうだ。一般論で言えば、である。

 現在のベストメンバーにとって、毎度自分を選んでくれる森保監督は、本当に歓迎すべきいい監督なのか。いまは例外を見せられている気がする。

久保建英
久保建英

 10月20日、久保建英はレアル・マドリー戦を控えている。レアル・マドリーからマヨルカにレンタル移籍中という身の上にある久保にとって、この試合はまさに大一番だ。実力を示すまたとない機会である。

 だが、10月15日にタジキスタン戦を戦う久保が、マヨルカに戻るのは最短でも試合の4日前だ。それが代表選手の宿命だと言う人はいる。森保監督もその1人。「選手たちは覚悟をもって日本に戻り、日本代表として戦っている」と述べているが、モンゴル、タジキスタン相手にその論理を振りかざすのはいかがなものか。森保監督が選手に求める覚悟には、怖さを感じずにはいられない。伸るか反るかの分かれ目にある久保に、レアル・マドリー戦をよいコンディションで戦わせてやる、いわば親心こそが、2022年カタールW杯を戦おうとしている日本代表監督に求められる資質ではないか。

 代表選手の大半が欧州のクラブでプレーしているのだから、代表監督も欧州に居続けるべきだと言いたくなる。森保監督は、欧州の視察を欧州在住のスタッフに任せ、しきりにJリーグの試合に足を運んでいるが、日本で代表選手がほとんどいないJリーグの試合を見ているより、ほぼ常時、欧州に居続けるほうが仕事として遥かに理にかなっている。スタッフに任せるべきはJリーグの視察ではないか。

 不足しがちな世界観、世界性を養う上でも森保監督は選手同様、活動の拠点を欧州に移すべきではないか。

 フース・ヒディンク監督時代の豪州代表がそうだった。欧州でプレーする選手で固められた代表と欧州人監督が、欧州を拠点に活動する姿は極めて合理的に映った。

 森保監督こそ欧州へ! と言いたくなる。

 繰り返すが、日本はW杯本大会の常連国の中で本場欧州から最も遠くに位置する国だ。常時出場を迫られるベストメンバーは、半端ではないリスクを抱え頻繁に帰国する。これは正しい姿なのか。日本代表の強化につながっているとは思えない。強化という意味では、0-6で敗れた相手のモンゴルの方が100倍、有益な試合だった。

 日本代表は考え方を改める時を迎えている。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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