アジア杯で森保采配に問われる「7試合を戦う力」。初戦をこの11人で戦うと危ない

ユーロ2016を制したポルトガル代表のF・サントス監督(左)とC・ロナウド(写真:ロイター/アフロ)

 正月空け早々に始まるアジアカップ。舞台となるのはUAE(アラブ首長国連邦)で、1996年以来の開催となる。23年前は、加茂ジャパンの時代であり、悲願のW杯初出場を懸けた98年フランス大会の予選を直後に控えた時だった。

 96年大会のさらにひとつ前に広島で開催された92年大会で、日本代表(オフトジャパン)は初優勝を遂げていた。それから、ドーハの悲劇を経て迎えたのが23年前のアジアカップ。「ドーハ」と「ジョホールバル」の中間に当たる、まさに日本のサッカー熱が急上昇する最中に行われた大会だった。

 結果はベスト8。グループリーグを首位で通過したものの、準々決勝でクウェートに敗れ、舞台を後にした。

 アジアカップで日本人監督が指揮を執るのは、その96年大会以来のことになる。森保監督は会見で「7試合戦うつもりだ」と述べた。7試合目とは決勝戦。日本代表にとっては当然の目標ながら、日本人監督には未知の領域になる。経験値として心配したくなるのは、選手より監督の方。日本人選手と日本人監督、レベルが高いのはどっちと、それぞれを分解してレベルを比較すれば、旗色が悪いのは日本人監督になる。

 2010年南アW杯に臨んだ岡田武史監督と2018年ロシアW杯に臨んだ西野監督。W杯本大会を戦った2人の日本人監督は、4試合目で敗れた。決勝トーナメント1回戦。つまり、代表チームの「短期集中トーナメント」で、5試合以上戦ったことのある日本人監督は過去に1人もいないことになる。7試合を戦うことは、アンダー世代の大会を除き、短期集中トーナメントにおける代表監督の記録更新を意味する。

 日本人監督の経験値の低さを物語るデータだ。短期集中トーナメントの戦い方を、日本人監督が熟知しているようには見えない。少なくとも文化として浸透しているようには見えない。

 前回(「ロストフの14秒」を見て想う。森保ジャパンへの不安。サッカーは監督で決まる)前々回(「ロストフの14秒」を見て想う。西野さんはなぜ3人目の選手交代を怠ったのか)の原稿でも触れたが、ロシアW杯の戦いにも、それは端的に現れていた。

 目の前の試合に全力投球するか。目標とする試合数をあらかじめ設定し、そこから逆算して、試合毎にメンバーを調整しながら合理的に戦うか。

 グループリーグの3試合以降のことを考えずに戦うか。決勝トーナメントの戦いを少なからず見越して戦うか。もちろん戦力との兼ね合いにもなるが、この目論見は、代表監督に課せられた賭けでもある。

 西野采配は、4試合目(ベルギー戦)でエネルギー切れを起こした。それが「ロストフの14秒」を招く主因となった。もし延長に持ち込み、ベルギーに勝利することができても、西野ジャパンには、次の5試合目=準々決勝(ブラジル戦)を満足に戦うだけの余力がなかった。選手選択のアイディアは尽きた状態にあった。

 アジアカップに臨む森保監督はどうなのか。西野さん的だったとすれば、仮に成績が出たとしても喜ぶことはできない。それではW杯本大会への期待は抱きにくい。監督交代を叫ばざるを得なくなる。

 7試合目になっても余力はあるか。選択肢は残されているか。試合展開に応じたバラエティに富むメンバー交代は可能か。チェックすべき重要なポイントだ。

 今大会からアジアカップは本大会の出場チームが16から24に増えている。それは、グループリーグで4チーム中3位に入っても、なお、6チームある3位チームのうち4チームにベスト16入の可能性があることを意味する。

 グループリーグを、トルクメニスタン、オマーン、ウズベキスタンと同じ組で戦う日本。初戦で、最弱国とおぼしきトルクメニスタンに、万が一敗れてもチャンスはあるーーと、考えるのか、絶対に負けられない戦いとばかり、ガチガチのメンバーで100%の戦いをしてしまうのか。

 日本にはサッカー界に限らず、一戦必勝の気質が強く残る。敗戦を怖がる文化だ。敗戦は確かに怖い。しかしサッカーには、サッカーのコンセプトがある。短期集中トーナメントの勝ち負けについても同様。独自の世界観がある。それは日本に不足しがちな文化であり気質だと見る。

 ロシアW杯を西野さんで戦い、次回カタールW杯を森保監督で臨もうとしているいま、世の中には、代表監督は日本人でもオッケー的な雰囲気が漂っているかに見える。しかし、サッカーのコンセプトに適合しているように見える日本人監督の数はまだ少ない。田嶋幸三会長は森保監督について「申し分のない実績」と評したが、どうだろうか。今回のアジアカップこそが、それが事実かどうか確認する絶好の機会になる。

 見物は初戦のトルクメニスタン戦のスタメンだ。GK東口、DF長友、槙野、吉田、酒井、MF遠藤、柴崎、FW中島、南野、堂安、大迫。最も勝利が期待できそうな、ベストとおぼしきこの11人が、初っ端からスタメンに並ぶようだと危ない。

 ベンチ入りのメンバー23人、フィールドプレーヤー20人をどうやりくりしながら7試合目に備えるか。その結果、6試合目で敗れる可能性もある。5試合目の準々決勝あたりから延長PKに及ぶ危険も上昇する。7試合目から逆算する思考法には、勇気が不可欠になる。

 想起するのは、2年前にフランスで開催されたアジアカップの欧州版、ユーロ2016だ。優勝を飾ったのは、決勝で開催国フランスを下したポルトガルだったが、グループリーグを終えた段階で、その優勝を予想した人はどれほどいただろうか。

 決勝トーナメント1回戦に出場する16チームは、アジア大会同様グループリーグの1、2位チーム計12チームと、3位チームの中で成績がよい4チーム。ポルトガルはそこでグループリーグ3位に終わった。その6チーム中3位の成績(全体の15番目の成績)で、辛うじて決勝トーナメント進出をはたしたのだった。

 その一方で、クリスティアーノ・ロナウドなど、ごく一部の選手を除き、メンバーの入れ替えは毎試合、行われた。フェルナンド・サントス監督は、グループリーグの3試合でフィールドプレーヤー20人中16人を起用。決勝トーナメントに入ってもその流れは維持された。4試合目(決勝トーナメント1回戦)で19人、そして6試合目(準決勝)で、ついにフィールドプレーヤー全員となる20人目の選手が起用された。

 ポルトガルはチームのムードを高めながら、そして選手起用の可能性を広げながら、強敵フランスとの決勝戦に臨んだ。

 舞台はスタッド・ドゥ・フランス。まさに完全アウェーの中、ポルトガルには更なる試練が待ち構えていた。前半のなかば、大エース、C・ロナウドが負傷。ベンチに下がったのだ。

 ポルトガルは絶体絶命のピンチに陥りながら、そこから決勝ゴールをもぎ取り、1-0で勝利した。番狂わせを演じたその陰に、フェルナンド・サントス監督の選手起用法あり。チームとしての総合的な体力を7試合目で開花させた、まさに短期集中トーナメントの戦い方のお手本を見るような監督采配だった。

 アジアカップに臨む日本は優勝候補だ。ユーロ2016に臨んだポルトガルより、戦力的に有利な立場にある。森保監督には、当時のフェルナンド・サントスより余裕がある。期待したい。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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