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ハリル的サッカーのベルギー。もし日本と決勝トーナメントで戦うと?

杉山茂樹スポーツライター
ベルギー 5‐2 チュニジア(写真:ロイター/アフロ)

 チュニジア戦。開始6分、ベルギーはいきなりPKをゲットした。しかし、ペナルティエリア右サイドから進入しようとしたエデン・アザールが、チュニジアのディフェンダー、シアム・ベンユセフに倒された場所は、微妙ではあるがラインの外側だった。開始間もないという時間帯を考えれば、FKとして処理されるのが一般的だろう。

 ところがアメリカ人のジャイル・マルーフォ主審は強気にもPKスポットを指さした。前日のブラジル対コスタリカ戦では、VAR判定でPKは取り消されることになったが、この日はそうならなかった。

 強者と目されている側にあっさりPKが与えられると、試合への興味は失われる。第三者にとって、この判定は歓迎できなかった。ベルギーはアザール自ら難なく蹴り込み、先制点をゲットした。

 チュニジアはこのPKのシーンの前にも、ディフェンス陣がバタつくシーンがあった。落ち着きのない立ち上がりをしていたのだ。それはアザールとロメル・ルカクを意識していたからに違いない。

 ベルギーの布陣は3-4-3。左からアザール、ルカク、そしてドリス・メルテンスが並ぶが、3人の関係は若干いびつだ。アザールは左サイドというよりも、ルカクと近い位置で、2トップに近い関係で構えることが多い。開いてウイング然と構えるメルテンスとは対照的だ。

 アザールとルカク。2トップに見える2人で攻め込んでいける力がベルギーにはある。チュニジアは、能力の高い2人の2トップ的な動きに戸惑い、警戒し、平常心を失ったという印象だ。

前半16分には、メルテンスの右からのボールをルカクが合わせて2点目をゲット。ベルギーはこの上ない楽勝ムードに包まれた。

 ところが、すぐに失点を許してしまう。18分、ワフビ・ハズリのFKをディラン・ブロンが頭で合わせて1点差とする。試合はここから大いに盛り上がった。ベルギーに追加点が決まったのは前半終了間際の45分だったので、1点差(2-1)の時間は27分間も続いた。

 チュニジアで光ったのは右からの攻め。つまりベルギーは左サイドで後手を踏んだ。3-4-3の左サイドは、アザールが真ん中付近で構えるため、ヤニク・カラスコが1人になることが多かった。メルテンスとトーマス・ムニエが2人がかりで構える右サイドとは対照的だった。

 31分には、交代で入った右サイドバック、ハムディ・ナゲスのセンタリングから、エリス・スキリが惜しいシュートを放つなど、一触即発のムードに包まれていた。

 ベルギーの苦しい状況を救ったのは、右サイドでメルテンスとコンビを組むムニエだった。前半終了間際、ゴール前に進出すると、ルカクにスルーパスを送り、ダメ押しとなる3点目のゴールをアシストしたのだ。

 試合は前半終了の笛とともに、事実上、終わったも同然になった。後半、時間の経過とともに、チュニジアは攻守に雑なプレーが目立つようになった。

 ベルギーは59分にルカク、68分にアザールを下げると、布陣を3-4-3から5-3-2同然の3-5-2に変化させた。

 前評判では第2グループに位置していた。ドイツ、フランス、スペイン、ブラジルに次ぐ評価を得ていたが、ベルギーとそれらの国との違いは、中盤でボールを支配するサッカーではないことだ。守備的とは言わないが、攻撃的ではない。

 奪ったら、縦に速いサッカーを仕掛けようとする。ロベルト・マルティネス監督のサッカーは、ある意味でハリル的なのだ。ハリルジャパンがそうだったように、実際、ボール支配率は高くない。この試合でも、ベルギーの支配率は、チュニジアの50.4%に対し、49.6%にとどまっている。時間をかけずに攻めていることがよくわかる。後半は、チュニジアの攻撃が雑になるところを、引っかけて速攻を繰り出すパターンが目立った。

 最終スコアは5-2。初戦のパナマ戦が3-0だったので、勝ち点を6に伸ばしたベルギーの総得点は8。得失点差は+6だ。この組のライバル、イングランドに、勝ち点以外の要素では大きなリードを奪っている。G組の首位通過は見えた状態にある。

 そうなると、決勝トーナメント1回戦の相手は、ご承知のように日本が属するH組の2位チームだ。先の話をするのは気が引けるが、日本がそこでベルギーと対戦する可能性は少なくない。

 もしそれが現実となれば、日本にとって悪い話ではない。高い位置からプレスをかけてくるチームではないので、ボールを回すことはできる。引っかけられる心配は、他の強豪チームに比べて少ない。

 一方、アザールが真ん中に入る癖があるので、右サイドで数的優位に立てる可能がある。酒井宏樹、原口元気がカラスコを抑えることができれば面白い。チュニジアの戦い方を見ながら、気がつけば日本代表の戦いを重ね合わせていた。

 チームでヘソの役をこなす選手が見当たらないことも、ベルギーの弱みだ。ゲームをコントロールする力がベルギーには欠けている。

 このチュニジア戦、ベルギーの勝ちっぷりは派手だった。ルカク、アザールの両エースも活躍した。強豪チームに見えたが、“穴”とまでは言わないまでも、“狙い目”を見て取ることもできたのだった。今後の展開が見ものである。

(集英社 webSportiva6月24日 掲載原稿に一部加筆)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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