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「無風」とナメられたH組で、日本がポーランドに番狂わせを起こすには

杉山茂樹スポーツライター
ユーロ2016準々決勝対ポルトガル戦に臨むポーランド代表(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 ロシアW杯抽選会。A組からH組までの表をパッと見渡して思うのは、「死の組」がないことだ。驚くような激戦区はない。決勝トーナメントに進出する16チームの顔ぶれは、すでに13チームぐらいは決まったも同然の状態だ。

 日本が戦うことになったH組も例外ではない。1着、2着が堅そうに見える組だ。コロンビア、ポーランド。両国の力は、少なくとも日本を上回っている。

 コロンビアはご承知のように、ブラジルW杯のグループリーグ最終戦で対戦した国だ。スコアは1-4。どんな内容だったかといえば、あと試合時間が10分あれば、さらに2点はぶち込まれていただろうと言いたくなる、終わり方の悪い大敗だった。ボール支配率で上回ったのは日本。しかし、悪いボールの奪われ方を繰り返し、そのたびにカウンターを浴び、決定的なチャンスを作られた。 

 いまの日本は、4年前とサッカーの質が異なる。ボールを回すサッカーではない。同じ試合内容にはならないだろうが、それでも日本が後手を踏むことは確実だ。両国の間に歴然とした戦力差が存在することは間違いない。

 1980年以降のW杯でブラジルとアルゼンチン以外の南米勢は、決してそれほど強くなかった。ウルグアイがベスト4に入った2010年南アW杯以前は、欧州の第2グループに位置する国々にも劣るほどだった。

 だが前回の2014年W杯。南米勢の5チームはすべてベスト16入りを果たす。南米勢に勢いがあることがそこで再確認された。決勝トーナメントでは、南米勢同士が早々に激突。ホセ・ペケルマン率いるコロンビアは準々決勝でブラジルと戦い、1-2で涙を飲んだ。しかし、そのいい流れは、いまなお健在だ。アルゼンチンが今回の予選で大苦戦した理由もそこにある。その他が強くなっているのだ。

 かつては古典的な匂いのするコテコテの南米スタイルのチームとして知られたコロンビア。それがいまや、欧州の匂いをふんだんに漂わせる今日的サッカーに大変身を遂げた。強いのに好チーム。番狂わせを食らう要素は限りなく低い。

 となると、狙い目はポーランド。そう言いたくなるところだが、こちらもかつてのポーランドとは違う。いま、欧州で最も勢いのあるチームと言えば、ベルギーを連想するが、ポーランドも負けてはいない。最新のFIFAランキングは7位。今回の抽選では堂々、第1ポットに振り分けられた実力国だ。タレントの数でこそベルギーに劣るが、チーム力ではむしろ上。こちらも番狂わせを食いにくい好チームなのだ。

 欧州予選を圧倒的な力で通過。昨年開催されたユーロ2016では、優勝したポルトガルに準々決勝で延長PK負けしたが、内容ではむしろ優勝国を上回っていた。その惜しくも敗れ去る姿には、大きな可能性を感じたものだ。「ロシアW杯、ポーランドはやりそうだ」。試合が終わるや、観戦取材ノートにそう書き記したものだが、まさかそのとき、2年後のW杯で日本と同じグループリーグを戦うことになろうとは想像だにしなかった。

 もしあのとき、ポルトガルにPK勝ちを収めていればベスト4。となれば、その瞬間、ポーランドのネームバリューはハネ上がっていたはずだ。しかしながら今回、日本で抽選会の模様を伝えていたテレビの女性キャスターが開口一番、発していた楽観的な言葉から世の中の空気を察すれば、「ポーランド与(くみ)しやすし」が一般の反応だろう。このギャップをいち早く埋めることが、日本のファンにとっては急務になる。

 看板選手であるCF、ロベルト・レバンドフスキ(バイエルン)を日本は止めることができるのか。それも確かに見どころのひとつになるが、それ以上に目を凝らすべきは、ポーランドのサッカーそのものの質だ。

 まず速い。次に大きい。ピッチを大きく使った幅広い展開から、急所にパスをグイグイと配球していくサッカーは迫力満点で、攻撃的だ。そして手堅い。大崩れしない安定した気質を備える。スウェーデン的であり、ウクライナ的でもあり、デンマーク的でもあり、ドイツ的でもある。

 巧さも兼ね備えるが、全体的なイメージは硬質だ。コロンビアとは対極に位置するサッカー。少々強引に言えば、ハリルジャパン的なところもある。ボール支配率より、縦への速さを重視するという点で、両者は一致する。

逆に言うと、ハリルジャパンは、ポーランドにとって嫌なサッカーを仕掛けてくるチームには映らない。同じタイプなら力勝負でやられる。日本がデュエルをいかに鍛えても、ポーランドにガチンコ勝負を挑んでは勝ち目がない。相手の力をいかにして削ぐか。かわし、いなすか。日本に求められているコンセプトは、まさに「柔よく剛を制す」の精神だと思う。

 先述の通り、ザックジャパンはボール支配率の高い、パスワーク重視のサッカーでブラジルW杯に臨み、グループリーグ最下位に沈んだ。コロンビアに1-4の大敗を喫し、大会を後にしたが、整備すべき箇所はハッキリと見えていた。そこを正せば、勝てたかどうかは別にして、より可能性を感じるサッカーができたと確信する。

 ポーランド戦に必要なのは、そのザックジャパン的な要素だ。アギーレジャパン的と言ってもいい。えてして硬質なチームは、巧さに弱い。縦への速さもいいが、それ以上にほしいのは巧さ。どこまで通じるか保証の限りではないが、対抗策はそれしかない。番狂わせを企てる術(すべ)は、これを機に見直した方がいい。ハリルジャパンには変化を期待したい。

 ちなみに英国の大手ブックメーカー、ウィリアムヒル社の予想によれば、H組の首位予想は、コロンビア(2.37倍)、ポーランド(2.5倍)、セネガル(6倍)、日本(9倍)の順となっている。また突破予想は、コロンビア(1.36倍)、ポーランド(1.53倍)、日本(2.37倍)、セネガル(3.5倍)の順。優勝予想では日本は、オーストラリア、コスタリカ、エジプト、アイスランドとともに22位タイにランクされている。

 コロンビア、そして特にポーランド相手に、いかにして番狂わせを起こすか。この方法論の探求こそが、いま日本に課せられている唯一にして最大のテーマなのである。

(集英社・Web Sportiva 12月2日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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