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サウジ戦でガタガタ。本田圭佑の去就より深刻な、 ハリルJのボランチ問題

杉山茂樹スポーツライター
(写真:田村翔/アフロスポーツ)

 オーストラリアに勝っておいてよかった――サウジアラビア戦を見た後の率直な感想だ。勝利が不可欠な試合でなくて助かった。

 6勝2分2敗(勝ち点20)で、日本はこのグループを首位で通過したが、2位サウジアラビア(19)、3位オーストラリア(19)との勝ち点差はわずか1。大接戦をきわどく制した格好だ。4位に終わったUAE(13)も実力的には3チームと紙一重。5位のイラクにも、日本はホーム戦、アウェー戦ともに接戦を強いられた。

 今回は、2006年ドイツW杯以降に行なわれた過去3回の予選より、苦戦したと言える。首位通過とはいえ、喜びより心配の方が勝る終わり方だった。

 強いチームには見えない。W杯本番で番狂わせを起こし、ダークホースとして快進撃を続ける姿を、ハリルジャパンにイメージすることはできないのだ。

 なによりサッカーそのものがよくない。バタついていて落ち着きがない。従来のサッカーとの違いは、これまでにも述べてきたので、詳しい言及は避けるが、ハリルが唱える「縦に速いサッカー」に、可能性を抱くことができないのだ。

 メンバー構成の悪さも輪を掛ける。中心選手不在。ハリルホジッチのサッカーは、それ以前とかなり違うので、そのサッカーを理解し、リードする人物が不可欠になる。その特異なサッカーを実践しようとすれば、ピッチで監督に代わって音頭を取る監督的な選手が必要になる。リズム、テンポ、行くべきか、自重すべきか、を決定する選手だ。

 ポジション的には、この日、長谷部誠に代わり4-3-3のアンカーの位置に入った山口蛍がその役になる。だが、彼には長谷部のようなキャプテンシーが欠けている。技術もそれなりに高く、ボールを奪う力もあるが、中心選手に不可欠なメッセージ性の高いプレーができない。存在感、スケール感に乏しいのだ。

 もっとも、長谷部が出場していれば解決した問題でもない。何を隠そう、8月31日のオーストラリア戦で、プレーそのものが最も不安定だった選手が長谷部だった。ノーミスで通すことが求められるポジションで、ミスを繰り返した。

 問題ありだった選手が、チームを離れたそのわずか5日後、今度は、復帰が待たれる選手に一変した。笑えない話とはこのことだ。

 長谷部、山口が、それぞれオーストラリア戦、サウジアラビア戦で任されたアンカーは、いわばチームの心臓部だ。そこが頼りなければ、ゲーム運びに味が出ない。落ち着きも生まれない。好チームの定義から外れることになる。

 ハリルホジッチは自らが提唱したサッカーが、就任して2年数か月の間にチームに浸透したと思っているのだろうか。このサッカーでいけると確信を得ているのだろうか。筆者はノーだと思う。

「今日はサウジアラビアを讃えたい」と、ハリルホジッチは試合後、祝福の言葉を送ったそうだが、客観的に見て、サウジアラビアはさして強い相手ではなかった。負けてはいけない相手に負けた。攻撃は展開力に乏しく貧弱。短いパスを同じリズムで繋ぐのみ。サイドも有効に使えず、攻撃は真ん中に偏った。後半18分、日本の失点シーンはまさにその結果だった。

 特段鋭くないサウジアラビアの真ん中を突く攻撃に、日本はズルズルと後退。最後は完璧に崩され、交代で入ったフハド・アルムワラドに、強いシュートを突き刺された。あってはならない話だ。日本が今まで以上に弱く見える、レベルダウンを象徴するような情けない失点だった。

 この試合の注目はスタメンだった。本番まで残り9カ月とはいえ、例えば4年前は、W杯イヤーに入ってから、現地に出発するまで、わずか2試合しか戦っていない。「国際Aマッチデーが、それしかなかった」とは、当時、専務理事だった原博実氏の弁だが、それに従えばハリルジャパンの残る試合数も、せいぜい7、8試合程度に限られるだろう。今回のサウジアラビアとの真剣勝負(しかもアウェー戦)は、そうした意味でとても貴重だったのだ。まさにムダにできない試合に、ハリルホジッチは本田圭佑を先発で起用した。

「45分限定で使った。トップコンディションでないことは分かっていた」と、述べたらしいが、では、なぜ使ったのか。本田を特別扱いしていることを証明する台詞である。トップコンディションの本田を見たのはいつ以来か。こちらの記憶が曖昧なほど昔だというのに、ハリルホジッチは本田は復活するものと信じている。

 残り試合を考えると、この45分が実にもったいなく見える。他の選手に出場機会を与えた方が得策。これが常識的な判断だ。見切りをつけるべき時は迫っている。

 本田の方は代わりがいる。本田が去っても、商業的にはいざ知らず、サッカー的には痛手はない。だが、長谷部の場合は現状、山口蛍しか代わりがいない。

 サッカーの中身にも直結する問題だ。本田より深刻なのは長谷部のポジション。長谷部では危ない。山口蛍では心許ない。バルサで言うところの「4番」のポジションを誰に任せるのか。ハリルホジッチの縦に速い抑揚のないサッカーそのものの問題を別にすれば、最大の改善ポイントはここだと思う。  

(集英社 Web Sportiva9月6日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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