かつてのJリーグと似たロシア事情。 W杯開催でサッカー強国となるか

セルタ(スペイン)で活躍した元ロシア代表・モストボイとベスチャツニフ(左)(写真:ロイター/アフロ)

2018年W杯を1年後に控えたロシアで開催されているコンフェデレーションズカップ。6月17日、サンクトペテルブルクで行なわれた開幕戦で、開催国ロシアはニュージーランドに2-0で勝利した。

ロシア代表で目が引くのが、出場メンバーはもとより、23人の招集メンバーの所属クラブだ。すべての選手が自国ロシアの国内リーグ(ロシアプレミアリーグ)でプレーする「国内組」なのだ。これは、ユーロ2016、2014ブラジルW杯、さらにはもう少し前から続く傾向だ。

似ているのはメキシコリーグだ。メキシコ代表はこれまでロシア代表よりW杯でいい成績を残している中堅~強豪国ながら、欧州でプレーする選手は思いのほか少ない。欧州と距離が離れていることもあるが、自国リーグが盛況であることに大きな理由がある。自己完結できているのだ。

Jリーグもあるときまではそんな感じだった。目標は「海外でプレーすることです」。若手選手は決まってそう言ったが、実際に行く人は少なかった(技量的な問題はさておき)。逆に当時、海外からは多くの外国人選手がやってきた。96年にロベルト・カルロスに話を聞くと、「日本はスペイン、イタリア、ドイツ、イングランドに次ぐ選択肢だ」と語ったものだ。

現在のロシアプレミアリーグの状況は当時のJリーグと似ている。多くの外国人選手がせっせと集まってくる、まさに万国旗たなびく場所だ。言い換えれば買い手市場。かつてロシアリーグに、旧ソ連諸国の選手はともかく、旧西側の外国人選手を見かけることはほぼなかった。各クラブの財政が苦しく、獲得する資金がなかったからだ、

一方で質の高いロシア人選手は、中欧州のメジャー国をオートマチックに目指した。スペインリーグで活躍したアレクサンダー・モストボイ、ヴァレリー・カルピン等は、その典型的な選手だ。

チャンピオンズリーグ(CL)決勝をユベントスとアヤックスが争った95~96シーズン。グループリーグを終えた時点で圧倒的な強さを示していたのは、スパルタク・モスクワだった。6戦6勝。得点15、失点4。少なくともこの時点では、ユーベ、アヤックスより上に見えた。

優勝候補の本命と言いたくなる、ド迫力のサッカーを展開していたが、ウインターブレイク後にトーナメントを迎えると、スパルタクは別のチームのように弱体化していた。その間、有力選手を中欧州の有力クラブにごっそり引き抜かれてしまったからだ。準々決勝でナントに通算スコア2-4で敗れる姿には、なんとも言えぬ哀愁が漂っていた。

欧州市場におけるロシアの立ち位置が変わったことを印象づけたのは、大富豪ロマン・アブラモビッチのチェルシー買収だ。2003年の話だが、ロシアはこの頃から石油絡みでお金持ちになった。サッカークラブも総じて裕福になった。ロシアプレミアリーグに、寒さ対策として毛糸の帽子をかぶったブラジル人選手が現れたのを見て、驚いたのはちょうどこの頃になる。

それから十数年が経過したいま、あらゆる国の選手がロシアの地を訪れ、プレーしている。中国かロシアかと言われるほどに。

本田圭佑がモスクワを訪れたのは、09~10シーズンのウインターブレイク明け。オランダのVVVフェンロから900万ユーロ(当時のレートで約13億円)の移籍金でCSKAにやってきた。「夢はレアル・マドリード。そのためには30億円ぐらいの移籍金が必要になると思うが、その壁をなんとかクリアしてみせる」と、豪語した。

だが2014年、本田がミランに移籍した際の移籍金はゼロだった。移籍先が決まらずに契約満了となり、移籍金が発生しなかったからだが、金満ロシアとそうではない欧州、とりわけイタリアのクラブとの格差、金銭感覚の違いを垣間見た瞬間と言っていい。

本田とCSKAの話をすれば、同チームは09~10のCLで決勝トーナメントに進出。セビージャ戦では、加わったばかりの本田のFK弾を決める活躍などで、ベスト8に進出した。先述した95~96のスパルタク以来、ロシア勢としてはこれが2度目のベスト8となる。CL25年史においてベスト8が2回。物足りなく映る数字だが、それでも最近は、石油景気を背景に徐々に成績を安定させている。

欧州カップ戦の過去5年間の戦績を集計したUEFAリーグランキングでは、スペイン、ドイツ、イングランド、イタリア、フランスに次ぐ6位。2000年代半ばまではトップ10を外れることさえたびたびあったが、2009年以降は6位か7位かで一定している。アブラモビッチのチェルシー買収(2003年)が、転機になっていることがよく分かる。以来、大国の看板をなんとか維持している。

とはいえ、大国を自負するからなのだろう、番狂わせの気質に欠ける。代表チームのみならずクラブチームも、だ。受けて立つ、淡泊な傾向がある。格上を破った痛快劇は、例のCSKAのセビージャ戦ぐらい。代表チームではオランダを破りベスト4入りしたユーロ2008ぐらいに限られる。大国なのにチャレンジャーに徹し、番狂わせを起こす可能性を秘めているアメリカとの決定的な違いと言ってもいい。

選手に関していえば、決して強くないのに、外に出て行こうとしない内向きの精神も災いしている様子だ。稼ぐためにロシアという寒冷地まではるばる出かけ、次のステップを狙う外国人選手のような、プロ選手としての野心に欠ける。最近の中国人選手にも、その傾向が増しているが、大国が持つ負の要素を見る気がする。

国内リーグのスタートは、ソ連崩壊(91年12月)直後の92年。当初、圧倒的に強かったのがスパルタクで、92年から01年までの10年間に9度優勝を飾っている。それ以来の優勝を飾ったのが昨季で、スパルタクは通算優勝回数を10回に伸ばした。2位は通算6回のCSKA。その他で複数回優勝があるのはゼニト・サンクトペテルブルク(4回)、ルビン・カザン(2回)、ロコモティフ・モスクワ(2回)の3チーム。CSKAとゼニトには、それぞれ04~05と07~08に、UEFA杯(現ヨーロッパリーグ)を制した実績もある。

過去5年の戦績を集計したUEFAチームランキングで、現在、最も上をいくのはゼニト(19位)。ディック・アドフォカート(オランダ)、ルチアーノ・スパレッティ(イタリア)、アンドレ・ビラスボアス(ポルトガル)など、攻撃的と言われる外国人監督を登用する先進性という点で、他のクラブに先んじている。

ロシアが大化ける日はいつ訪れるのか。アジアにおける中国が大化けする日とどちらが早いだろうか。欧州サッカーの英知がロシアのクラブに集まることはあるだろうか。2018年ロシアW杯を起爆剤にすることができるか。欧州サッカーの今後を左右する、ポテンシャルを備えた国だと言えるのかもしれないが。

(集英社 Web Sportiva 2017年6月18日掲載)

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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