ポスト・モウリーニョが続々。CLを席巻するポルトガル指揮官たち
チャンピオンズリーグ(CL)でチェルシーがパリ・サンジェルマンに敗れた。同点に追いつくスーパーゴールを決めたジエゴ・コスタが、怪我でベンチに下がらなければ、あるいは違った結果になっていたような気もするが、これで2シーズン連続ベスト16での敗退だ。
暫定監督フース・ヒディンクのもと、国内リーグも何とか10位まで盛り返したとはいえ、来季のCL出場圏内には届きそうもない。過去10シーズン維持してきたUEFAクラブランキングトップ10の座からも陥落必至だ。チェルシー敗退には、一つの時代の終わりを告げるかのようなストーリー性を感じた。
チェルシーといわれて連想するのは、ロマン・アブラモビッチ会長の資金力とジョゼ・モウリーニョの指導力だ。04~05シーズン、モウリーニョがやってきたことで、金満クラブは、単なる金満クラブでなくなった。チーム力はそれを機に一気に上昇した。
そのモウリーニョが今季途中、成績不振でチームを去った。彼がチェルシーを離れるのは06~07シーズン終了後に続き2度目だが、3度目があるかどうかは怪しい。報道では、来季マンU監督への就任が噂されているが、マンUは現在、国内リーグ6位。来季のCL出場が難しそうな位置にいる。
来季、モウリーニョがCLの舞台に立てるかどうか微妙な情勢だ。03~04シーズン、ポルトの監督としてCL優勝を飾って以来、毎シーズン、監督として出場を果たしてきたが、それが途絶える可能性が高まっている。いいサッカーより、勝利、結果を何より追求する名監督にとって、チャンピオンを目指せない環境に置かれることほど面白くない話はない。
モウリーニョがチェルシーの監督に就任したのは11シーズン前(04~05)だが、その時、彼の存在は異色だった。41歳という若さ。喋りのよさも目を引いた。元通訳。プロ選手としての経験がないことも輪を掛けたが、そうした要素をいっそう引き立てていたのがポルトガル人であることだった。
ポルトガルはいまでこそメジャー国だが、当時はサッカー大国に位(くらい)負けするひ弱さがあった。メジャー国と呼ばれるための条件には優れた監督の存在が不可欠。どれほど優秀な監督がいるか。
それだけに03~04のCLにおけるポルト優勝は重要な意味があった。監督がモウリーニョというポルトガル人だったからだ。
しかしその直後、自国開催のユーロに出場したポルトガル代表は違った。監督はルイス・フェリペ・スコラーリ。ポルトガルサッカー協会は、その2年前、日韓共催W杯で優勝したブラジル代表監督を招聘した。結果は準優勝。実際、スコラーリは、その準々決勝対イングランド戦で、感動的な采配を披露している。ポルトガルは、ブラジル人監督スコラーリによって準優勝に導かれた。そんな感じだった。
その後、モウリーニョはチェルシーで監督力を見せつけることになるが、ポルトガル人指導者にあっては例外に見えた。もう一人、例外を挙げるならば、同国のユース年代の選手を鍛え、優秀な人材を代表チームに送り込んだカルロス・ケイロスになるが、「監督強国」のイメージは果てしなく薄かった。
それから10年と少し経ったいま、モウリーニョに当時の勢いが失われているにもかかわらず、ポルトガルは監督強国ぶりを際立たせている。
昨季のCL本大会にポルトガルが送り込んだ監督は計6人。しかもそのうちの4人が海外のクラブの監督だ。
ジョルジ・ジェズス(ベンフィカ)、モウリーニョ(チェルシー)、マルコ・シルバ(スポルティング)、アンドレ・ビラス・ボアス(ゼニト)、レオナルド・ジャルディム(モナコ)、パウロ・ソウザ(バーゼル)。
今季は4人(モウリーニョ、ビラス・ボアス、マルコ・シルバ=オリンピアコス、ルイ・ビトーリア=ベンフィカ)に減り、首位の座をスペインに譲ったが、海外のクラブからCLに出場した監督の数(3人)では、欧州一を守っている。
CL決勝トーナメント1回戦、ゼニト対ベンフィカは、その直接対決だった。勝ったのはルイ・ビトーリア(ベンフィカ)で、負けたのはビラス・ボアス(ゼニト)だが、個人技巧みなサッカーを展開するポルトガルのイメージとは別の顔を見せられた試合だった。
「多くの人はポルトガル人を、勉強嫌いな頭脳的でない人種と思っているだろうが、そうではないことが、近々証明されることになるだろう」と言ったのは、かつてのモウリーニョ。そして彼はこちらにそう語った後、CLで優勝を遂げた。監督力を主張したかったのだろう。監督としての優秀な頭を備えた人種だとモウリーニョはこちらに対して訴えた。
それから10年と少し経過したいま、遅まきながらとはいえ、彼の言葉に納得せずにはいられない。と同時に、彼はポルトガルが海洋国家であることも強調した。「海外に出て監督をすることが、私に課せられた使命だ」と。
地元ファンの中には、モウリーニョを、ポルトガルの大航海時代の英雄である、エンリケ航海王子に例える人もいた。彼のような偉大な人物になって、ポルトガルに帰ってきてほしい、と。いま、ポルトガルに航海士は続々誕生している。
数年前まで、サッカー界で航海士役を果たしてきたのはオランダの指導者だ。バルセロナに攻撃的サッカーを伝えたヨハン・クライフ、2002年日韓共催W杯で韓国をベスト4に導いたヒディンクなどはその最たる例になるが、ポルトガルはいまやその域に迫りつつある。
上に記したポルトガル人監督はいずれも優秀だ。正確に言えば、今日的。ビラス・ボアス、マルコ・シルバなどは、現ブラジル代表監督、ドゥンガより優秀なのではないかと思いたくなる。かつて、スコラーリに導かれユーロで準優勝したポルトガル。今度は、ポルトガル人監督の力でブラジルを世界王者に復帰させる番ではないのか。ブラジルに欠けているものが優秀な監督だとすれば、同じ言語圏のポルトガルとの関係は良好なはずだ。
その昔、鉄砲を伝えたジパングにも、押し寄せてほしいものだ。ゼニト対ベンフィカ。サンクトペテルブルグで、ポルトガル人監督同士が戦う姿を見せられると、妄想は果てしなく広がっていくのだ。
(集英社 Web Sportiva 3月11日 掲載原稿)