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説明責任の欠如と不明朗な人事 日本サッカー協会をめぐる5つの問題点(2)

杉山茂樹スポーツライター

(2)ファンの知る権利に答えていない

日本サッカー協会が主催する大会に出場しようとすれば、登録選手は協会に登録料を支払う義務が生じる。女子サッカー、フットサル、ビーチサッカーしかり。審判もこれに含まれる。子供からシニアまで、サッカー人口にカウントされるほぼ全ての人がその対象。それが、日本サッカー協会の大きな財源になっている。

これは他の競技の協会にはない手法だ。かつて、この日本サッカー協会のやり方にならおうとした他の協会もあったが、反対にあい上手くいかなかったという経緯もある。登録料の支払いは、ほぼサッカー界に限られた話。そう言っていい。サッカー協会は、登録料という名の「税金」を、サッカー人口を構成する人々から、無条件で徴収する仕組みを築き上げた特殊な団体なのだ。

代表戦が行なわれるスタジアムは常時、ほぼ満杯。視聴率も悪くない。グッズなどの売り上げもしかり。日本のサッカーは、多くのファンがお金を落としてくれるために成り立っている。巨額なスポンサー料もそれあってのもの。

そこのところがどうも忘れられている気がする――とは、アギーレ解任を伝える報道を見聞きしながら思ったことだ。

契約期間内での解任には通常、巨額な違約金が発生する。だが、大仁邦彌会長は、記者の質問に答える形でこう述べた。

「違約金というものは存在しない」

もし、違約金という名目で支払われなかったとしても、示談金など、他の名目で支払われた可能性はある。

スペインで検察当局の告発が受理されたとは、あくまでも、捜査を始めても構わないという合図だ。シロなのかクロなのか、いまは全く分からない状態にある。アギーレが不祥事を起こしたという事実は、いまのところ明らかになっていない。

シロだったら、アギーレに落ち度は何もないことになる。その可能性を十分に残した中で、アギーレは解雇された。コーチ共々、だ。そこに違約金なのか示談金なのか定かではないが、常識的には手切れ金が一銭も掛からないはずがない。

大仁会長は「守秘義務があるので、それ以上は申し上げられない」と述べたが、少なくとも登録料という名の「税金」を収めている人たちは、知る権利があるのではないか。日本サッカー協会はアギーレにいくら払ってお引き取り願ったのか。体裁を守るため、臭いものに蓋をするために、いくら費やしたのか。

解任の是非論は、その額に負うところが大きい。もしそれが10億円なら、そんな大金を支払ってまで、解任する必要はないという声が「納税者」の間から聞こえても不思議はない。

そもそも我々は、就任時にアギーレと協会が結んだ契約の中身さえ知らされていない。2年契約なのか、4年契約なのか。契約金はいくらなのか。就任記者会見に同席した大仁会長と原専務理事は4年任せるつもりだと述べていたので、4年契約と推測できるが、だとすれば、現在はその8分の1が終了したに過ぎない。年俸2億円だとすれば、未払い金額は7億円になる。コーチ陣の年俸を加えれば、10億円という数字が見えてくる。その解任に、協会はいったいいくら費やしたのか。

大仁会長と原専務理事に、処分が下されないことが先の理事会で決まった。それが妥当な決定か否かも、アギーレとコーチ陣に支払った額次第と言っていい。守秘義務と知る権利。他の競技団体なら前者が勝ってもいいが、サッカーの場合は知る権利が勝るのではないか。サッカーに携わるメディアは、もっと知る権利を盾に、協会と対峙するべきではないか。僕はそう思う。

(3)不明朗な人事

サッカー協会の会長は、理事会という名の会議の席上で決まってきた。密室人事。悪く言えばそうなる。前任の犬飼基昭会長は、会長の座をなぜ突然、退くことになったのか。漏れ伝わるのは憶測ばかりだ。

大仁邦彌現会長の後任を決める次回からは、選挙制度が導入される。従来のやり方は不透明だとするFIFAから、強い要請を受けたためだ。統治能力のなさを国際バスケットボール連盟から指摘され、国際活動禁止処分を言い渡された日本バスケットボール協会のことを、冷笑する資格がサッカー界にどれほどあるか。これはかっこのいい話ではない。

原博実専務理事は2009年、犬飼会長時代に技術委員長として協会入りした。犬飼前会長は、日本リーグでプレイした三菱重工の元選手。原専務理事も元三菱だ。その技術委員長就任は、昔の所属の縁が結んだ結果と思われても致し方ない。

続いて会長に就任した大仁氏も元三菱。大学(慶応)も、犬飼氏の後輩にあたる。原専務理事との関係も密接だ。三菱重工時代、両者は監督と選手の関係にあった。原専務理事は2014年初めに、技術委員長から、専務理事という協会の実質ナンバー2に異例の昇進を果たした。これも両者の親密な関係から、と言われても仕方がない。

原専務理事は、ザッケローニの招聘に中心として関わった人物。ブラジルW杯惨敗を受け、その任命責任を問われても不思議のない立場にいた。しかし結局、処分は何も下されなかった。その口から反省、検証の弁も、多く聞かれなかった。この態度を面白く思わない人は、当然のことながら多くいた。その間隙を突くように、技術委員長から専務理事へと昇格した人事も拍車を掛けた。元選手、元監督、テレビなどに出演する評論家からの評判は、総じて悪かった。

そして、原専務理事を快く思わない人たちがターゲットにしたのが、彼が中心となって招聘した新監督のアギーレだった。記者から繰り出される記者会見の質問を聞いていると、それは手に取るように実感できた。

象徴的だったのは、0−4で敗れたブラジル戦(10月・シンガポール)。なぜベストメンバーで戦わなかったのか。メディアの多くはそうした立場に回り、アギーレを批判した。八百長問題が囁かれ始めたのもそのあたりから。アジアカップ優勝は、続投の絶対条件。気がつけば、世の中はそうしたムードに支配されることになった。

アジアカップの結果はベスト8。解任記者会見は、大会終了とともに行なわれた。

ただしアギーレがシロかクロかなどという話に関心を寄せるメディアはあまりなかった。注目はむしろ、大仁会長、原専務理事の去就に集まった。協会の密室人事、コネクション人事が、騒動の根底にあることが、ここで改めて浮き彫りになった。

現在のサッカー協会はコネクションで成り立っている。協会の職員募集も、つい最近まで、一般からの公募は受け付けていなかったほどだ。そうした風通しの悪さ、閉鎖的な社会が強化の足かせになっている。そう言われても仕方がない状況にある。

FIFAの指導の下、この秋に定年を迎える大仁会長の後任は、選挙で選ばれるとは前にも述べたとおりだが、これを機に、サッカー協会の体質も大きく変化して欲しいものだ。それと日本サッカーのレベル、代表チームの成績とは密接な関係にある。僕はそう思うのだ。

(集英社・Web Sportiva 2月17、18日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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