Yahoo!ニュース

日本サッカー界にはアギーレより心配なことがある

杉山茂樹スポーツライター

スコアは0−2。内容もまったく良くなかった。

とはいえ、アギーレジャパンはこの日が初戦。選手選考に関してアギーレは、Jリーグに足繁く通い、ビデオもよく見たと言いながら、一方で、スタッフの意見も取り入れたと言う。100%の確信を持って行なったわけではない。

しかも相手はウルグアイ。「世界のベスト8、トップ10に入るチーム」(アギーレ)だ。その不出来を肯定するつもりはないが、想定内の出来事と言って何らおかしくない。しかし、その不出来を快く思っていない人が少なからずいることも事実。試合後の監督会見の質問を聞いていると、そうしたムードを感じる。

「新チームの門出となるW杯後に行なわれた初戦で、日本は過去2回、勝利を飾っていますが、今回は敗れました。そのことについてどう思うか?」という質問などは、その代表的な例だ。

「日本は昨年、ウルグアイに2−4で敗れています。就任3年目の監督が率いるチームが、です。わずか3日間のトレーニングで試合に臨んだ今回は0−2。でもウルグアイはウルグアイです」とは、アギーレの切り返しの言葉で、説得力を感じさせるのもこちらだった。

日本代表の目標は4年後のロシアW杯だ。極論すれば、それまで行なわれる親善試合に全て敗れても、そこで好成績を収めれば何も問題ないわけだ。その可能性を感じるか、感じないか。平素の戦いを見るときに、目を凝らすべきはそこになる。

メディアは目の前の試合に一喜一憂することなく、それを根気よく、4年間続けることができるか。

2002年日韓共催W杯で、韓国代表をベスト4に導いたヒディンクは、就任から本番に至る1年半(18ヵ月)の強化計画表を示しながらこう答えた。

「韓国サッカー協会を説き伏せ、最初の9ヵ月は、あえて強豪と戦い、敗戦から学ぼうとした。その中から使える選手と、使えない選手を見極めようとした。だが、メディアは黙っていなかった。私を批判しました」

韓国代表の成績は、後半の9ヵ月で急上昇。メディアもその姿を見て論調を一変させた。ヒディンクはこちらに「韓国の記者は何も分かっていない」と嘆いたが、最初の9ヵ月で築いた黒星の山が、2002年W杯でベスト4という成績を収めることができた大きな原動力になっていたことは間違いなかった。

日本はどこまで我慢できるか。ヒディンクの就任期間は1年半。対するアギーレは4年。もしアギーレが、ヒディンクと同じ手法を採用すれば、2年間、嬉しいニュースは舞い込まないことになる。ともすると不甲斐なく見える戦いを2年間も続ければ、日本代表のテレビ視聴率は、大幅に落ちることが予想される。新聞、雑誌の販売部数も同様。スタンドも満員にならないかもしれない。

商売が絡むメディアにとっては、代表チームが常に人気選手を多く含むベストメンバーを編成し、常勝集団でいてくれることが望ましい姿になる。だが、これではW杯本番にチームのピークは来ない。ザックジャパンはその最たる例になる。

4年間の過ごし方。日本サッカー界の問題は紛れもなくここにある。とはいえ、4年は長い。ヒディンクも、任期がもし4年間だったら、その手法は使えなかっただろう。ファン、メディアは耐えきれなくなった可能性が高い。

それこそ僕が、一人の監督に4年丸投げすることを好ましくないと考える理由だ。4年は長い。2年で十分。今が2016年だったら、その半分をテストに費やしても、ファンやメディアがしびれを切らすことはないだろう。

ザッケローニとは異なり、アギーレは代表チームの監督を務めたことがある。しかし、彼が代表チームを巡る日本の特殊性まで理解しているとは思えない。代表チーム中心主義。これと彼は4年間、どう向き合うつもりなのか。両者の相性が、僕には良い関係にあるようには見えないのだ。

だが一方、少なくとも札幌ドームを埋め尽くしたファンは、アギーレジャパンに好意的だった。札幌での代表戦は年に一度あれば良い方だ。この試合も、歓迎ムードの中で行なわれた。実験的なメンバーで、良いところなく完敗を喫しても、ブーイングひとつ起きなかった。

これはブラジルW杯後に行なわれる最初の試合。本大会で不甲斐ない戦いをした代表チームに不満を溜めているファンがいたとしても不思議ではない。むしろそちらの方が自然だ。

試合を撮影したカメラマンによれば、アギーレは試合後、敗戦にもかかわらず選手に黄色い声を飛ばすファンを、もの珍しそうな目で眺めていたそうだ。こうしたファンは、世界的にそう多くないのである。

試合が終わるや、場内アナウンスが「両チームに盛大な拍手をお送りください」と言えば、その通りに拍手を送る人の何と多いことか。拍手を強要するスタジアムDJもどうかしているが、それにオートマチックに従うファンの方もどうかしている。

悔しくないのか、と言いたい。これは札幌のファンだけに限った例外的な話なのか。横浜で行なわれる続くベネズエラ戦のスタンドでも、この調子は維持されるのか。

選手のプレイより、僕はむしろそちらの方が気になる。結果至上主義と言うのなら、敗れた時は、思い切りブーイングを送るべきなのだ。選手、監督に思い切りプレッシャーを掛けるべきなのだ。

日本サッカー界はいろいろな意味で変わるべき時を迎えている。「惨敗」には薬となる要素も十分に含まれている。アギーレのサッカーより、まず心配になるのはこちら。商売の都合を優先するメディアであり、仏のように怒らないファンであり、そして4年間を有効利用できない協会だ。

日本のサッカー界には、今度こそ、悔いのない4年間を送って欲しいものである。

(集英社 SPORTIVA Web 9月6日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

たかがサッカー。されどサッカー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

たかがサッカーごときに、なぜ世界の人々は夢中になるのか。ある意味で余計なことに、一生懸命になれるのか。馬鹿になれるのか。たかがとされどのバランスを取りながら、スポーツとしてのサッカーの魅力に、忠実に迫っていくつもりです。世の中であまりいわれていないことを、出来るだけ原稿化していこうと思っています。刺激を求めたい方、現状に満足していない方にとりわけにお勧めです。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

杉山茂樹の最近の記事