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残り2試合で主将が離脱。守備的MFの人材難は天災ではない。

杉山茂樹スポーツライター

長谷部選手が再手術。全治は明らかではないという。今年1月、練習中に半月板を損傷。日本で手術を受けた際には、全治4週間から6週間と報じられた。

それが一転、再手術。

サッカー選手の膝はサラブレッドと一緒だ。ガラスのような儚さがある。かつては致命傷と言われたが、手術の大幅な進歩に伴い、サッカー生命を奪われる選手の数は減っている。だが、再手術となれば、話は簡単ではないことが想像できる。W杯本番に間に合うかどうか微妙。メディアはそう伝えている。早い復帰を願うばかりだ。

長谷部は、長年スタメンを張り続けてきたザックジャパンには欠かせない選手だ。遠藤と組む守備的MFは、まさに心臓部。浮沈のカギを握る舵取り役だ。「日本サッカー史上最高のコンビ」と評す人もいるほどだ。

このコンビは結成以来、かれこれ6年近く経過している。岡田ジャパン時代にすでに完成されたものを、ザッケローニも判で押したように使い続けてきた。替えは時間の経過とともに利かないものになっていった。

遠藤は34歳になり、長谷部も30の大台に乗った。さすがにここ1、2年、それぞれのパフォーマンス、それに伴うコンビネーションは、上げ止まり気味になっている。

だが、ザッケローニは、親善試合でも新戦力のテストを怠った。アジアの弱小チームと戦う場合でも、親善試合に相手がB代表同然のメンバーを送り込んできた場合でも、遠藤と長谷部を揃って出場させてきたそのツケが、いままさに回ってきている状態だ。

怖かったのだろう、敗戦が。

メンバーの固定化は、その他のポジション全てに言えることだが、とりわけ著しかったのがこの守備的MF。昨年後半、山口蛍に出場の機会が与えられ、使える目処が立ってきているとはいうものの、もし長谷部がW杯に間に合わなければ、山口蛍を戦力と見なしても、使える選手は2人。状況に変わりはない。細貝、青山はまだ苦しい。

守備的MFはセンターバックとともに、相手との接触が多く、イエロー、レッドカードを翳される危険の高いポジションだ。怪我の心配もしなければならない。ここに力の拮抗した選手を最低3人は揃えておくのが、W杯本大会でより多くの試合を戦おうとする代表チームの常識だ。

W杯本大会で、前回(ベスト16)以上の成績(ベスト8)を目指そうとするなら、最低5試合を戦う準備が必要になる。となれば、3人でも足りないくらいだ。

「守備的MFは、ただでさえ人材難。長谷部の戦線離脱は痛い」とは、どこかの記事の中で見つけた下りだが、使える選手が少ないのは、候補者の数そのものが足りないからだとする意見は、代表監督にあまりにも寄り沿いすぎだ。状況を正確に述べているように見えるが、実は、擁護そのものだ。

選択肢の少ない中で、四苦八苦しているJ2、J3の監督と向き合っているわけではない。しかも、ザッケローニには強化期間が4年間もあった。アイディアはいくらでも発揮できたはずだ。

CSKAモスクワ、ミランでも最近、長谷部、遠藤の位置でプレイした経験を持つ本田圭佑を、万が一の時に備えて、テストしてみることはできたはずだ。センターバックでスタメンを張る今野にしても、元々はボール奪取能力に優れた守備的MFだ。長谷部は、所属チームで右のサイドバックをこなすことが多かったが、その発想でいけば、内田にも守備的MFは務まりそうな気がする。

さらに闘莉王だ。このユーティリティ性溢れる大物を、なぜ代表チームに呼ばないのか。彼自身を守備的MFに起用することもできるし、センターバックで起用すれば、今野を守備的MFにコンバートすることもできる。

布陣の変更も一つの手だ。かつてのグアルディオラ、現イタリア代表のピルロに倣い、遠藤をワンボランチで使ってみるのも面白い。そうした様々なアイディアを試す機会は、これまで50試合もあった。

嘆くべきは人材難だろうか。

人材難は、監督の冒険心のなさ、アイディア不足に踏み込まず、漫然と素材(選手)の悪さを口にするリスクのない狡い言い回しであると同時に、代表チームの概念からも大きく外れた、非サッカー的なものの考え方と言うべきである。

また人材難を、若手に良い選手がいないという意味に捉えた場合でも、少し反論したくなる。川崎フロンターレの大島僚太は、行けるんじゃないの、と。守備的MFもできればサイドもできる。ボール操作能力も高く、視野も広い選手だが、こうしたユーティリティ性の高い、使い勝手の良い選手こそ、限定されたメンバーで5試合を戦おうとする代表チームには不可欠な「人材」だ。

人材は、やりようによってはいくらでも生まれてくる。作っていくこともできる。そのあたりを追求するのが4年周期で回る代表チームの監督の仕事だ。

3月5日のニュージーランド戦が終われば、次に控える準備試合は5月27日のキプロス戦のみ。壮行試合を兼ねたザックジャパンの国内ラストゲームだ。もはや、このまま行くしかない状況にある。これまでの50試合にいかに無駄が多かったことを、いま改めて痛感させられる。本番で何試合戦うことになるか定かではないが、使える選手が少ないままの状態が続くなら、先への期待は抱きにくい。

現状の起用法では3試合が精一杯。そこから先はまさに神頼み。これ以上怪我人が出たら3試合も怪しくなる。国民は長谷部の怪我をいろいろな意味で、もう少し心配すべきだと思う。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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