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Sライト級4団体を統一するのはクロフォードか、インドンゴか 全団体統一王者が滅多に生まれない理由

杉浦大介スポーツライター
Photo By Top Rank

8月19日 ネブラスカ州リンカーン

WBA、WBC、IBF、WBO世界スーパーライト級王座統一戦

WBC、WBO王者

テレンス・クロフォード(アメリカ/29歳/31戦全勝(22KO))

WBA、IBF王者

ジュリアス・インドンゴ(ナミビア/34歳/22戦全勝(11KO))

史上3人目の快挙

 現地時間19日、珍しいボクシングの4団体統一戦が行われる。それぞれ2つずつのタイトルを持つクロフォード、インドンゴが激突。引き分けで終わらない限り、ミドル級のバーナード・ホプキンス(アメリカ)、ジャーメイン・テイラー(アメリカ)に次ぎ、史上3人目の4団体統一王者の誕生となる。

 「(マニー・)パッキャオ戦が難しかったら、(ジュリアス・)インドンゴがここに来てくれている。インドンゴと(統一戦を)やろうとじゃないか」

 5月20日、ニューヨークのマディソン・スクウェア・ガーデンで行われたフェリックス・ディアス(ドミニカ共和国)戦で10回終了TKO勝ちを収めた後、クロフォードはリング上でそう述べていた。

 しかし、すんなり実現するとは思わなかった関係者が大半だった。4団体統一戦はもう12年以上も開催されていないというヒストリーが示す通り、統一戦の挙行は簡単ではなく、マイナスの要因も存在するからである。

 最近では王座の増加ゆえにタイトルの価値が低下し、一部の人気選手たちはベルト収集にこだわらなくなった。それに加え、統一戦は余計にコストがかかるのが大きい。タイトルマッチの際、統括団体は認定料としてファイトマネーの3%を受け取るのが通例(注・高額報酬を得る一部の超人気選手の場合は交渉次第)。シンプルに、統一戦ではその%が倍になる。

 クロフォード対インドンゴ戦では4団体のタイトルがかかっているため、承認料の合計はファイトマネーの12%。2人の王者たちはそれぞれ10万ドル以上を払うという報道がなされていた。

 これほどの金額をアルファベット団体に吸い取られるよりも、例えば複数階級制覇の方を目指すスター選手が増えるのは当然だろう。

 そんな中で、クロフォードとインドンゴが珍しい4団体統一戦に踏み切った理由はどこにあるのか。まず、スーパーライト級には挑戦者候補になる有力選手が枯渇していること。そして、2人の王者はどちらも実力派ファイターではあるが、ピンで大興行にできるほどの人気選手ではないことが影響しているのだろう。

4つのタイトル保持が長続きしなくとも

 クロフォードはパウンド・フォー・パウンドで上位にランクされる一流王者だが、地元以外ではまだドル箱とは言えない。パーソナリティも地味なため、売り出すのも簡単ではない。だとすれば、ここで12年ぶりの全タイトル統一を達成し、箔をつけておきたいと周囲が考えるのは理解できる。

 敵地でのタイトル戦連勝で業界内では注目の存在になったインドンゴも、一般の知名度は極めて低い。2つのタイトルを持っていても、ナミビア出身の地味な王者が大金を稼ぐ機会は限られている。報酬100万ドル以上とも言われるクロフォード戦は、すでに34歳のサウスポーには歓迎すべきビッグマネーファイトだったのだろう。

 今回、晴れて4団体統一王者が誕生しても、長続きはしないはずだ。一般的に有利と目されるクロフォードは、今戦後にウェルター級への転級が予想されている。インドンゴが勝ったとしても、各団体から義務付けられる指名戦を順番にこなしていくのはほとんど不可能に近い。他にビッグマネーファイトの選択が生まれたとすれば、タイトルにこだわる意味もない。

 このように、諸事情ゆえに4団体統一は簡単なことではない。だからこそ、余計に希少価値があるという見方もできる。今後、早い時期に続く可能性がありそうなのは、WBA、WBC、IBFの世界ミドル級王座を保持するゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、あるいは9月から開幕するワールド・ボクシング・スーパー・シリーズのクルーザー級優勝者くらいか。

 本人の強い意志がない限りは達成できない現代の偉業。19日の夜、クロフォード、インドンゴのいずれかが近代ボクシングの歴史に名を刻むことになる。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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