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違法接待の目的は幹部公務員との「顔つなぎ」という直球発言

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
証言する中島信也東北新社社長(写真:Motoo Naka/アフロ)

■はじめに

 参議院予算委員会(3月15日)で、東北新社の中島信也社長が参考人として発言していましたが、その中で驚くべき言葉が出てきました。

 そのときの映像はYouTubeで見ることができますが、最初から2時間41分が経過したあたり、斎藤嘉隆議員(立憲民主党)の質問に関連して次のようなやり取りがありました。以下、それを文字に起こします(太字は筆者)。

斎藤:なぜ、こんな違法接待を繰り返していたのか?

中島:「え~、私が受けております調査の中間報告によるもんでございますけれど、指摘されている会食に関して、具体的な目的というものはなく、懇親を図るためであり、具体的な働きかけなどの目的までは確認されていないということでございました。私も直接聞きました。なんでそんなにたくさん会食してるんだ。で、とにかく本人が言っていたのは、『顔つなぎ』だと言っていました。『顔つなぎだ』と。え、あの、ここに、あの、報告調査委員会からのあれではないのですが、本人はそういった具体的な目的ではなく、いつもお世話になっているからということで、新年会忘年会にお誘いしていたというようなことしか私には伝えられておりません。申し訳ありません。」

斎藤:本人とは? 顔つなぎをする目的は?

中島「(本人とは)木田由紀夫、三上(義之)でございます」(注:両名は東北新社執行役員)

中島:「顔つなぎの目的については、私、顔つなぎの目的まではちょっと追及いたしませんでした。顔つなぎかと、思いました。すいません。顔つなぎの目的は、顔つなぎかと。あの、あの、といいますのは、たくさんの事業においていろいろ関係が、あの深いということだ、というふうに私、今考えておりますけれど。申し訳ありません。はい、それだけしか聞いていません。」

 ここで私が注目したのは、過剰接待の目的が「顔つなぎ」であったという発言です。この言葉の意味について考えてみたいと思います。

■公務員が負っている2つの責任

倫理法や倫理規程による処分の意味

 今回の接待の相手方は、ほとんどが総務省において放送法に基づく衛星基幹放送の業務認定に関する事務を直接に担当し、あるいはその職務権限を有しており、事業者を管理監督する立場にあった幹部職員でした。

 接待を受けた多数の幹部職員らは、「利害関係者」との会食があったということで、すでに国家公務員倫理法、同倫理規程違反を理由に減給や戒告などの処分を受けています。しかし、倫理法や倫理規程はあくまでも公務員の任命権者(国)との関係における服務規律上の規制であり、これで処分がなされたからといって、すべての責任が清算できるというものではありません。

 公務員は国民全体の奉仕者であり、国民の負託によって支えられています。つまり、(1)公務員は指揮監督者である国に対する服務規律上の責任と、(2)その人物を信頼して公務を任せている国民に対する法的な責任という、二重の責任を負っているわけです。

(c) sonoda
(c) sonoda

 だから、公務員が違反行為を犯した場合には、公務員倫理の問題とは別にもう一つ、(倫理法や倫理規程による処分では清算されえない)国民に対する責任の清算が問題になってきます。そして、それを行うのが刑罰という制裁であり、本件で言えば、刑法上の贈収賄という犯罪類型であるということになります。倫理法や倫理規程は、刑法上の罪の免罪符ではありません。

 そこで問題は、上の発言が贈収賄という犯罪類型から見てどのような意味をもっているかということになります。

贈収賄罪の構造

 公務員にその職務に関して賄賂を贈ることが贈賄(刑法198条)ですが、収賄については複雑な構造になっています。

 基本類型となるのは単純収賄罪(刑法197条1項前段)で、公務員が単に自己の職務に関して賄賂を受け取った場合です。便宜供与などについての具体的な依頼(請託)がなくとも犯罪になります。具体的な依頼があれば、受託収賄罪(刑法197条1項後段)となり、刑が重くなります。また、収賄の結果、公務員の不正な行為が行われて行政がゆがめられた場合は、加重収賄罪(刑法197条の3第1項)となり、さらに刑が重くなります(→10分で分かる賄賂(わいろ)罪)。

 過剰接待を受けた総務省の幹部は〈行政がゆがめられたことはない〉ということを強調していますが、それは受託収賄罪や加重収賄罪ではないということの主張であっても、単純収賄を否定する抗弁にはなりえません。

 そもそも公務員は国民の血税によってその生計が支えられているわけですから、決められた給与以外の金銭的利益を受け取ることじたいが、一部の者の利益誘導によって公務の公正さがゆがめられるのではないかとの疑念を生むことになり、行政に対する国民の信頼を損なう違法行為だといえます。それを放置すれば、行政だけではなく、国家そのものに対する信頼がゆらいでしまうことから、贈収賄は亡国の犯罪と呼ばれるほどです。賄賂と引き換えに実際に不正な行為が行われた場合は当然のこと、具体的な便宜供与の依頼は、行政をゆがめる危険性があるために単純収賄よりも重く処罰されるわけです。

 ただ、公務員の職務と関係のない利益供与ならば、公務に対する信頼性が損なわれることがありませんので、刑法は「職務に関して」という要件を設けたわけです。分かりやすい例でいえば、たとえば公立病院に勤務する小児科の先生が、勤務時間外に入院中の児童の勉強を見てあげていて、保護者がそれに感謝のしるしとしてお礼したような場合です。それは医師の職務とは関係がありませんから、賄賂にはなりません。

■〈許認可権限のある公務員との「顔つなぎ」のために供応接待しました〉ということと、〈賄賂を贈りました〉ということは同義である

 では、贈収賄の問題として見た場合、中島社長の発言はどのように考えるべきでしょうか。

 単純収賄罪は、上で見たように、公務員が「職務に関し」て単純に賄賂を受け取ったことで成立する犯罪であり、贈った方は贈賄罪になります。

 「職務」とは「公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務」という意味です。本件の場合は、供応接待を受けた側が総務省において放送法に基づく衛星基幹放送の業務認定に関する事務を直接に担当したり、あるいは直接その職務権限を有していたりする立場の者であり、このような「職務に関して」供応接待が行われたのかが問題になります。

 職務に「関して」とは、贈られた金品等と当該職務との間に一般的な「対価性」が認められるという意味です。「対価性」とは、その職務の見返り、あるいは報酬といった意味であり、単に違法な金品等を受け取るだけでも犯罪となる単純収賄の場合は、〈そのような権限をもっていた公務員だからこそ金品等を贈ったのだ〉という関係にあったということです。

 中島社長は違法接待が「顔つなぎ」のためであったと委員会で明言されました。

 辞書を見れば、「顔つなぎ」とは、「訪問したり会合に出たりして知り合いの関係を保っておくこと。また、その関係を作ること。」(広辞苑第6版)という意味をもった言葉です。

 つまり、中島社長の話を要約すると、接待の目的は、このような職務権限ある幹部職員との関係を保ったり、その関係を新たに作るためのものであったということになります。

 このような発言が、国会の委員会審議の中で堂々と述べられたわけです。

 たとえば、どこかの市で新しい市長が就任したので、地元の建設業者が市長との「顔つなぎ」を目的として市長を供応接待したというのとまったく同じです。

 単純収賄罪について、これほど分かりやすい例は滅多にありません。私もこれから講義で贈収賄の説明をする際には、これを例にして説明したいと思っています。

 なお、社会では一般に中元や歳暮などといった社交儀礼上の贈答の習慣があり、公務員であっても(公務員倫理法上の制約はあるものの)このような贈答を受けることが一般的に禁止されている訳ではありません。しかし会食を例にいえば、一回で何万円もの豪華な会食というのは、国民の感覚からすればとても社交儀礼上の接待とはいいがたいと思います。(了)

【参考】

【政治家の汚職に関する園田寿の過去記事】

  1. 亡国の犯罪 ―甘利疑惑で問題の〈あっせん利得罪〉とはどのような犯罪なのか―(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース
  2. 10分で分かる賄賂(わいろ)罪(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース
  3. 政治献金と賄賂(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース
  4. あっせん利得処罰法をザル法にしないために(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース
  5. 【甘利疑惑】「少しイロをつけてでも」や「顔を立ててくれ」は、違法な「あっせん」か?(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース
  6. 【遠藤疑惑】またもや現職大臣のスキャンダル、今回は何が問題となっているのか(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース
  7. 【遠藤疑惑】50年前の〈大阪タクシー汚職事件〉と比べてみる(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース
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  10. 【甘利疑惑】「あっせん、一切ない」と言われるが・・・・・(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース
  11. 賄賂を受け取ってくださいと差し出せば、3年以下の懲役または250万円以下の罰金です(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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