亡国の犯罪 ―甘利疑惑で問題の〈あっせん利得罪〉とはどのような犯罪なのか―

(写真:アフロ)

■はじめに

 権力の一部を担う者が、その権力を悪用し業者から賄賂(わいろ)を受け取ったりして甘い汁を吸い、法の執行や公務の執行をゆがめると、国民の政治不信を招き、ひいては国民の道徳心や法を尊重する精神の低下につながり、最終的には国家の存立じたいも危うくしかねません。汚職の影響は、はかり知れないものがあります。

 しかし、賄賂罪は、殺人や強盗などと違い直接の被害者がいませんし(国民全体が被害者です)、また賄賂を贈る側と受け取る側が持ちつ持たれつの関係にあるため、警察に発覚することが難しく、風呂場のカビのように不正が社会の深層で深く広がるおそれがあります。

 人間が社会生活を営み、統治する者とされる者がいる限り、時代や政治体制を問わず汚職は存在します。

 わが国でも古代から汚職はみられ、すでに文武4年(700年)に制定された大宝律令には、汚職に手を染めた役人を最高で死罪とするといった大変重い処罰規定がありました。ただし、このような重い罰則を作らなければならないほど、汚職が深刻であったのかどうかは分かりません。国の存立にかかわる重大な犯罪であるために、重い威嚇効果を狙ったのかも知れません。

■公務員が〈顔〉を効かせる不当なあっせん(口利き)の処罰は難しい

 今の刑法ができたのは明治40年ですが、そのときの賄賂罪は実に単純なもので、(1)単に賄賂を要求したり、受け取ったりする単純収賄と、(2)その結果、不当な職務行為があった場合の枉法(おうほう)収賄を規制する刑法197条、それに賄賂を贈る贈賄行為を処罰する刑法198条だけでした。

 その後、昭和16年に公務員の職業倫理を強化する意味で、さらに次のような派生類型が整備されました。

  1. 事前収賄罪(公務員になる予定の者が、就任後に担当する職務に関する依頼を受けて賄賂を受け取ったり、その要求・約束をしたりする罪。公務員になった場合に成立する)
  2. 事後収賄罪(公務員であった者が、在職中の職務行為に関して賄賂をもらう場合)
  3. 受託収賄罪(公務員が職務に関する依頼を受け、これを了承したうえで賄賂を受取ったり、要求、約束したりした場合に成立する。依頼のない場合は単純収賄)
  4. 第三者供賄罪(公務員がその職務に関して、依頼を受けて賄賂を受け取る、直接本人がもらわないで第三者に与えるようにした場合)
  5. 加重収賄罪(公務員がその職務に関して、依頼を受けて賄賂をもらって不正な職務行為を行った場合=枉法収賄)

 このようにして、賄賂罪のほとんどの類型が整備されたのですが、そのときに唯一立法化されなかったのが〈あっせん収賄罪〉なのです。

 時代劇でよく見るように、昔から、役人が業者から賄賂を受け取って、自分の〈顔〉を利(き)かせて権限のある他の役人に働きかけるというようなことがあります。しかし、賄賂罪というものは、具体的な職務権限のある公務員が、不正な職務行為を行う見返りとして金品を受け取るものです。権限ある公務員に働きかける不当な口利きの場合は、自分には具体的な職務権限がないので単純に収賄だとは言いにくい面があるのです。

 また、政治家の活動には、一般国民や住民に代わって行政機関に権利や利益を主張することも含まれますので、口利き一般がすべて不当だとは言えない面もあります。とくに〈口利き〉というのは日本の伝統的な政治手法とされていますから、適法と違法の境界線をどのように引くのかでなかなか意見が一致しなかったのでした。

 そして、数回にわたって法案が出されながらも、その都度廃案になるということを繰り返し、難産のすえついに昭和33年に刑法197条の4としてあっせん収賄が犯罪化されたのでした(これに対する贈賄も198条に追加されました)。

 あっせん収賄罪(刑法197条の4)の基本的な要件は、

  1. 依頼(請託)があること、
  2. 公務員が、他の公務員に対して不正な職務行為を行うか、あるいは正当な職務行為を行わないようにあっせんすること、
  3. その見返りとして賄賂を受け取ったり、要求したり、約束したりすること

です(法定刑は5年以下の懲役)。

 ここでの賄賂は、不正な職務そのものに対するものではなく、あくまでもあっせん行為(不当な口利き)に対する不正な報酬である点で、他の収賄罪と異なっています。

■あっせん利得処罰法とは

 その後、平成4年に 公正取引委員会が調査していた独占禁止法違反事件に関して刑事告発されるのを回避する目的で、大手ゼネコン副社長らが衆議院議員に対し公正取引委員会委員長に働きかけてもらいたい旨依頼し、同議員が多額の賄賂を受け取ったという事件がありました。この摘発を契機に、特に政治家が役人に不当な口利きを行って賄賂を受け取ることを処罰すべきだとの意見が高まり、国会でも議論されましたが、法律にはなりませんでした。そのような中、元建設大臣による受託収賄事件が摘発され、紆余曲折をへて、平成12年に「公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律」(あっせん利得処罰法)が成立したのでした。

公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律

 この法律では、

  • 公職者と国会議員秘書によるあっせん利得罪(第1条、第2条)と、
  • これらの者に対して利益を供与する利益供与罪(第4条)

が処罰されています。

〈あっせん利得罪〉と刑法上の〈あっせん収賄罪〉との違い

 あっせん利得処罰法では、公務員に対するあっせん行為の対価としての賄賂の授受が処罰されている点で刑法上のあっせん収賄罪と類似していますが、あっせん収賄罪では、公務員の職務の公正さに重点が置かれ、公務員の廉潔性やこれに対する社会の信頼をも保護する趣旨と解されますが、あっせん利得罪では、公職にある者等のクリーンな政治活動に重点が置かれ、政治に対する国民の信頼を確保するために、政治に携わる公務員の政治活動のルールを定めたものとされています。

 このような趣旨・目的の違いは、処罰の対象や範囲にも影響を与えています。

 まず、あっせん利得罪では、公務員の範囲を〈政治に携わる公務員(及び国会議員秘書)〉に限定しており、衆参両議員、地方公共団体の議会の議員、地方公共団体の長、さらに衆参両議員の秘書に限られています。

 また、対象となるあっせん行為の内容については、あっせん収賄罪では、あっせんの内容が、〈他の公務員に職務上不正な行為をさせ又は相当の行為をさせないこと〉を要するのに対して、あっせん利得罪では、クリーンな政治活動を保持し、政治に対する国民の信頼感を確保することが目的ですから、「国若しくは地方公共団体が締結する売買、貸借、請負その他の契約又は特定の者に対する行政庁の処分に関」するものであれば、あっせんの内容がかりに〈他の公務員に適法な職務行為をさせ又は不当な行為をさせないこと〉であっても、依頼を受けて、その政治家としての権限に基づく影響力を行使して不当な金銭を得ている限り処罰の対象となります。この点では、あっせん利得罪の方が刑法よりも広い行為を対象としています。

 あっせん利得罪として処罰される典型的なケースとしては、たとえば次のようなケースが考えられます。

  • 議員が、公共工事の入札に関し、公務員に特定の者を指名業者にするように働きかけて建設業者から報酬を得た場合
  • 議員が、公務員の採用、任用、昇格、降格、転勤、罷免などについて、公務員に対して働きかけて報酬を得た場合
  • 議員が、道路工事等に関する補償交渉に関して業者から依頼を受け、担当公務員に解決を働きかけて、業者から多額の現金を得た場合

■将来の課題

 あっせん利得罪については、次のような課題が残されています。

 第1は、地方議員の秘書が対象とはされていないことです。不当な口利きがなされる可能性があるという点では、国会議員秘書であろうと、地方議員秘書であろうと区別はありません。

 第2は、第三者供賄(賄賂を受け取る者が議員本人ではなく、他人であったり法人であったりする場合)です。まずは刑法上のあっせん収賄罪を改正して、不当なあっせん行為によって本人以外に賄賂が及ぶ場合を追加すべきだと思います(刑法197条の2の第三者供賄罪は、公務員がその〈職務に関して〉行った場合です)。そして、特別法のあっせん利得罪においても、第三者供賄のケースを追加すべきでしょう。(了)