「議題設定」が抑圧された選挙戦──2016年参議院議員選挙を振り返る

選挙翌日、2016年7月11日の新聞各紙の一面。

与党圧勝

7月10日に投開票された参議院議員選挙は、前回2013年の流れを概ね維持する結果となった。十分に「与党圧勝」と言える結果だろう。

連立与党の自民・公明はともに改選議席を上回り、現有に加えて10議席以上も上積みすることなった。新勢力の議席数は、おおさか維新の会も加えると、改憲発議に必要な三分の二を超えた。この点を踏まえても「圧勝」と言えるだろう。

対する民進党は、10以上議席を減らす結果となった。6年前の2010年、当時与党だった民主党は鳩山政権下で44議席を獲得して敗北するが、それよりもさらに少ない結果だ。とは言え、3年前の17議席から大幅に増やす結果でもある。つまり、「良い」とは言えないが、「最悪ではない」という結果だ。

一人区選挙協力の効果

今回の選挙でひとつ注目されたのは、30を超える一人区における野党4党の選挙協力だ。前回2013年の選挙では、自民党が31選挙区中29勝という圧倒的な結果となった。だが今回は、自民党は32選挙区中21勝にとどまり、野党(無所属議員含む)が11議席を獲得した。

そのなかでも注目すべきは、東北6県の結果だ。秋田を除く5県では野党統一候補が勝利した。2013年は(当時二人区だった宮城も含め)野党は7議席中2議席しか獲得できなかったことを踏まえると、選挙協力の効果だと捉えることができる。

また、福島と沖縄では、法相と沖縄北方相の現役閣僚ふたりが敗れた。今回の選挙でもっとも大きな波乱はおそらくここだろう。このように、小選挙区では現役閣僚でもひっくり返される可能性があることがあらためて確認できた。

とは言え、近畿から西にかけて与党は一人区でもほとんどで勝利を収めた。例外は三重・大分・沖縄だけだ。

複数選挙区ではやや与党有利に議席を分け合い、大阪と兵庫の両県では野党の議席をおおさか維新が奪うという状況だ。今回野党4党は中選挙区では選挙協力をしていないが、たとえば神奈川県では当選した4位の自民党議員が52.4万票に対し、5位の共産党議員が48.8万票、6位の民進党議員が44.9万票と、大きな差がついていない。もし選挙協力をしていれば、このあたりも結果は異なっていたかもしれない。

なお、おおさか維新の会は今回伸長したが、あくまでもそれは比例区で4議席を獲得したからだ。選挙区ではこれまでのように関西では圧倒的な強さを見せるが、今回は党名に「おおさか」を付けたことで関西以外では不利に働いた可能性がある。今後は党名から地域性を外すかもしれない。

各党上昇した比例区得票率

比例区の結果は、民進党の得票率が前回2013年から7%も上がっていることが特徴だ。ただしこれは、前回が低すぎた反動でもある。また自民党も1.2%上げており、人気を維持していることがうかがえる。また、共産党も前回から1.1%ほど、社民党と生活の党も微増して議席を獲得した。

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得票率が、明確に減ったのはおおさか維新の会である。党の分裂などもあったために改選議席からの上積みにはなったが、前回から2.7%減となった。これは橋下徹氏の離脱が関係していると考えていいだろう。

なお、今回議席を獲得した党の得票率が軒並み前回を上回っているのは、みんなの党が解党したからだ。みんなの党の得票率は、2013年が8.93%、2010年が13.59%だった。この票がさまざまな経過を辿って分散したと捉えられる。

比例区では、右派の日本のこころを大切にする党が議席を獲得することができなかった。獲得した73.4万票は、都知事選に出馬した田母神俊雄氏が獲得した61万票を少し超える程度だ。全国区であることを考えると、この種の右派系政党がさほど支持を集められていない状況もうかがえる。

曖昧だった争点

今回の選挙は、2014年の衆院選挙に続き争点が非常に曖昧だったと言える。それは投票日直前の情勢調査と大差ない結果だったことからもうかがえる。

事前の各マスコミの情勢調査と選挙結果を比較すると、大勢はほぼ変わらない。民進党が2~5議席上積みし、共産党が1~4議席少なかったという程度だ。

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ただ、これらは誤差範囲と言える程度で、今回はほとんど投票直前に波乱が起きなかったことが見て取れる。つまり、バンドワゴン効果やアンダードッグ効果などはほぼ生じなかったと考えられる。共産党・藤野政策委員長が防衛費を「人を殺すための予算」と発言したことで、票が離れていったとする分析もあるが(※3)、比例区では前回と同じく5議席を獲得し、得票率も増えているのでそれは考えづらい。

また投票率も前回よりは2.09%上がったものの、過去4番目に低い54.70%にとどまった。これも、有権者が今回の選挙に大きな関心を示していなかったこと、及び争点が明確でなかったことを表している。

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争点をはっきりさせないのは、安倍政権の選挙対策である。前回の衆院選でも、消費増税先送りを争点としながらも与野党や国民の多くがそれに賛同しており、明確な争点にはなりきらなかった。

今回は通常選挙であったが、与党がアベノミクスの成功や社会福祉を打ち出していたのに対し、野党は選挙協力もしたように明確に憲法改正の反対を訴えていた。自民党の選挙公約では、憲法改正は全26ページの最後の11行にしか書かれておらず(図参照)、しかも、憲法のどの部分を改正するかいっさい触れてはいない。今日の新聞では「改憲勢力3分の2」という見出しが全紙で踊っているが、野党としては安倍政権の術中にハマり、憲法改正を争点化しえぬまま選挙が終わったという印象だろう。

抑圧された「議題設定」

この安倍政権の選挙対策(争点ぼかし)には、マスコミもその大きな役割を果たしていると言える。とくにテレビがそうだ。今年3月の放送法を振りかざした高市早苗総務相の「停波」発言は、放送局に強いプレッシャーを与えることとなった。それは憲法学者から、憲法違反の疑いもあると指摘されたほど、重大な問題を抱えた発言だった。

マスメディア研究においては、「議題設定(アジェンダ・セッティング)効果」と呼ばれる、メディアの効果研究が長らく行われている。文字通りそれは、マスコミが争点を設定し、それが受け手(視聴者≒国民)にどれほど影響を与えるのかを考える研究だ。

しかし今回、選挙期間中にテレビ各局が報道に及び腰だったことは強く指摘されているとおりだ。つまり、マスコミは議題設定の効果を抑圧された可能性がある。この点については、今後新聞やネット、雑誌などのマスコミ、及びマスコミ研究者による検証が必要とされるだろう。

なおNHK放送文化研究所は、3月の高市発言を受けてか、定期刊行しているメディア専門誌『放送研究と調査』において、放送法の歴史的経緯と各条文の解釈を整理している。そこでは、「放送事業者が自らの放送の不偏不党を保障しなければならないと解釈することには不自然が残る」(※4)と述べられており、これは高市発言への反論と捉えられる。

もちろん、この放送文化研究所のレポートが、NHKおよび民放各局の総意ではないだろう。ただし、マスコミには「不偏不党」を「中立」と誤解する者も実際おり、放送法の理念が熟知されているとは言いがたい。関係者および政治家は、いま一度この入念かつ綿密な整理を熟読する必要があるだろう。同時に、マスコミはこの記事の執筆者が今後危うい立場に立たされることがないか、強く注視する必要があるだろう。

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