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2015年、ハロウィンの東京――渋谷・六本木・池袋・原宿の姿

松谷創一郎ジャーナリスト
2015年10月31日、東京・六本木の交差点にて(筆者撮影)。

2種類ある都市のハロウィン

 2015年10月31日、東京はハロウィンの狂騒に包まれました。数年前から急激に盛り上がりつつあるハロウィンですが、今年も渋谷をはじめ、都内各所に仮装/コスプレをした人々が大挙として押し寄せたのです。この記事では、取材可能だった範囲内でその模様をレポートしたいと思います。

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 本題に入る前に、まず確認しておきたいことがあります。先日、都市のハロウィンの状況を分析した「盛り上がる都市のハロウィン」という記事を発表しましたが、状況的には今年もその延長線上にあることには変わりありませんでした。そこで書いたように、こうしたハロウィンの盛り上がりは、若者たちの多元的自我の感性によって成立しています。それは中高年以上に多い、「本当の自分」を信じるような一元的自我の感性とは、まったく異なるメンタリティです。

 また、しばしばハロウィンの狂騒を「マスコミに乗せられた若者たち」と揶揄する向きがありますが、それも完全に文脈を見誤っています。都市のハロウィンには、ふたつのタイプがあります。ひとつは、渋谷ハロウィンのような、ネットを介した自然発生型のもの。もうひとつは、川崎や池袋のハロウィンのような、企業と自治体が組んだイベント型のものです。テレビや新聞がハロウィンを大きく取り上げ始めたのは、一昨年あたりからですが、マスコミは渋谷などの盛り上がりを見て後乗りしたのが実状です。

 たしかにマスコミは、いまだに情報を増幅させて広く伝播する効果を持っていますが、「マスコミに踊らされる若者」といった、インターネット以前の素朴なメディア観では、現在のハロウィンは捉えることはできません。なにより、そうした旧いメディア観はネットを通じて発せられているというパラドクスを抱えており、同時にその多くが「本当の自分」を信じるタイプの内向的な中高年によるものです。

都市のハロウィンに参加するオープンな若者(多元的自我)と、それをネットで批判するナイーブな中高年(一元的自我)──そうした世代間断絶が広がらないために、このレポートが少しでも役立てばと思います。

ハロウィン前日、渋谷

 ハロウィン前日の10月30日、TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』から連絡があり、急遽ハロウィン前日の模様を渋谷からレポートすることになりました。21時半頃に渋谷に着きましたが、混雑はいつもの金曜日とそれほど大きな違いはありません。ただ、すでに仮装をした若者たちは散見されました。

2015年10月30日夜の東京・渋谷(筆者撮影)
2015年10月30日夜の東京・渋谷(筆者撮影)

 5、6グループに話を聞いたところ、その多くはやはり学生。これは昨年と同様です。ハロウィンは学園祭と時期が重なるために、大学生を中心に盛り上がってきた文脈があります。また、金曜日ということもあり会社帰りのサラリーマンが、仮装したひとたちといっしょに記念撮影する姿も目撃しました。

 なお、都市のハロウィンでもっともトラブルを起こしやすいのは、酔っぱらった中高年があたりかまわず絡みまくるという事態です。昨年逮捕された40代の男性もおそらくお酒が入っていたと思われますが、渋谷のハロウィンでもっともリスキーなのはハロウィンに意識的に参加する若者たちではなく、たまたま渋谷に居合わせた酔っぱらいです。来年のハロウィンは月曜日なので、昨年や今年ほどの人出にはならないと思われますが、会社帰りの酔っぱらいがトラブルを起こす可能性はもしかしたら今年よりも高いかもしれません。

コスプレイベントに特化した池袋ハロウィン

 ハロウィン当日、まず向かったのは池袋です。池袋では、昨年からニコニコ動画のドワンゴが豊島区と組んで、街を使ったハロウィンイベントを開催しています。ハロウィン翌日の11月1日も開催されていました。会場は、サンシャインシティと隣接する東池袋中央公園を中心に、公園や路上など東池袋の各所。サンシャインと道路を挟んだ向かいは、ここ10年ほど「乙女ロード」と呼ばれるオタクスポットとなりましたが、その動きに連動して池袋ハロウィンが生まれたのです。

2015年10月31日・11月1日の池袋ハロウィン(筆者撮影)
2015年10月31日・11月1日の池袋ハロウィン(筆者撮影)

 この池袋ハロウィンは「ハロウィン」とは冠しているものの、その内実はほぼオタク文化のコスプレイベント。「レイヤー」と短縮形で呼ばれるコスプレイヤーたちが、めいめい好きなアニメやマンガのキャラクターの姿で集います。渋谷などのハロウィンでよく見かけるゾンビメイクなどはほとんどいません。階段のあるサンシャイン広場では多くのコスプレイヤーが撮影会をしており、その規模は参加者・物理的なスペースともに都内でも有数のものと言えるでしょう。お盆と年末に開かれるとコミケと違って、気候的もコスプレに向いている季節です。

 東池袋中央公園には大きなステージがあり、そこではコスプレイベントが断続的に開催され、その模様は逐一ニコニコ生放送で中継されています。また、サンシャイン通りの小さなスペースにもレッドカーペットが敷かれ、そのイベントも中継されていました。それらのポイントは5分ほどで移動できる距離ですが、移動する参加者はそれほど多くありません。

 それは、コスプレ姿で駅から会場に向かうひとが多くなかったことからもわかります。そもそもコミケなどのコスプレイベントでは、現場には更衣室や荷物置き場が準備されており、会場外でコスプレすることが禁止されています。池袋ハロウィンでも更衣室などは準備されていましたが、街全体を使うので会場外禁止の規定はありませんでした。しかし、それでもコスプレしたまま街中を歩くひとは、それほど多くはいなかったのです。

公園や路上にイベントスペースが設けられた池袋ハロウィン(筆者撮影)
公園や路上にイベントスペースが設けられた池袋ハロウィン(筆者撮影)

 こうした池袋ハロウィンは、非常に落ち着いた雰囲気があります。コスプレイヤーとカメラマンの間には、撮影における明確なルールがあります。キャラクターになりきることが目的のため、撮影時はカメラマンが必ず一声かけ、コスプレイヤーは独自のポーズをとります。そこには、長年のオタク文化で培われた明確な規範があるのです。また、場合によっては名刺を交換しますが、そうしたコミュニケーションの流れはとてもスムーズです。街中に参加者が溢れないのは、こうしたルールが共有されない可能性を参加者が意識しているからでもあるでしょう。

 コスプレは限定的な空間で明確なルールのもとに楽しむ「日常的な非日常」──池袋ハロウィンには、オタク文化で培われてきた落ち着いた大人の雰囲気が漂っていました。

盛り上がらない原宿と失敗した渋谷区の施策

 普段からティーンネイジャーでごった返す原宿・竹下通り。夕方、ハロウィンとしての盛り上がりはいまいちといった状況でした。

10代が中心の原宿・竹下通り。男性グループは少数(筆者撮影)
10代が中心の原宿・竹下通り。男性グループは少数(筆者撮影)

 たしかに仮装をしたひとは目立ちましたが、週末の原宿はいつも奇抜な格好の若者が集う場所。そもそも非日常的な空間です。よって、ハロウィンの仮装をしても相対的に目立たず、当たり前といった雰囲気があります。同時に、そもそも竹下通りは年齢層の低い中高生が中心です。仮装した若者もこの世代なので、全般的には大人しい印象でした。

 また、仮装が目立つのもほぼ竹下通りに限られています。特殊メイクイベントをやっていたラフォーレ原宿前にも少しいましたが、表参道やキャットストリート、あるいは渋谷に向かう明治通り沿いでは仮装したひとはあまり見かけませんでした。渋谷ハロウィンの波は、原宿には押し寄せなかったという印象です。

 それは、渋谷区が神宮通公園に設置したフィッティングルームが閑散としていたことからもわかります。これは、商業施設や駅のトイレが埋まってしまうことや、ゴミの散乱を危惧するための施策でしたが、完全に失敗したという印象です。

取材陣はいたものの閑散としていた神宮通公園のフィッティングルーム(筆者撮影)
取材陣はいたものの閑散としていた神宮通公園のフィッティングルーム(筆者撮影)

 これには、おそらくふたつの理由があります。ひとつが場所の不便さ、もうひとつは周知の不徹底です。大勢のひとが集まるセンター街の入口からは600メートルほど、7分ほどの距離ですが、渋谷からは原宿方向に行ってまた戻るという経路になるために、避けられた可能性があります。さらにこの場所についての報道が前日あたりに集中していたために、多くのひとは存在を知らなかったのだと思われます。

 とは言え、混乱を少しでも緩和するためにこうした施策を仕掛けたことは高く評価できます。渋谷区は4月に就任した長谷部健区長のもと、同性パートナーシップ条例を施行するなど、大都市の自治体として積極的に多様な民意を取り入れようとしています。今回のフィッティングルームもその試みのひとつだと捉えられます。今年は失敗しましたが、それにくじけることなく来年以降の施策にも期待したいと思います。

カオス化した渋谷

 さて、いよいよ渋谷に着くと、18時過ぎにはすでにハチ公前広場には多くのひとでごった返していました。そこからセンター街に向かうスクランブル交差点には、すでにDJポリスも出ており、多くの警官が歩行者を規制していました。この日、警察は数百人体制で警戒にあたったそうです。

多くのひとであふれた渋谷。きぐるみ姿の幼児が大人気(筆者撮影)
多くのひとであふれた渋谷。きぐるみ姿の幼児が大人気(筆者撮影)

 センター街に入ると、その混雑は一層高まりました。立ち止まることがなかなか難しく、昨年のようにあちらこちらで撮影するのは難しい状況。まれに一か所で撮影が始まると、警察が寄ってきて移動を促していました。ほぼ一方通行状態にもなっており、渋谷駅に戻ることもほぼ不可能な状況です。結果的に、撮影しあう余裕が生まれるのはセンター街をかなり奥まで行ったあたりでした。

 体感的には、昨年よりも参加者が150~200%増加したという印象ですが、仮装したひとは相対的に減ったように思われます。もちろん実数的にはコスプレをしたひとは増えたのでしょうが、それよりも増えたのは仮装せずに見物に来たひとびと。具体的には、中高年層の男性や観光客と思しき外国人が増えたようでした。

 今年の仮装の内容は、昨年のそれと大きくさま変わりしていました。昨年多かったのは、制服+ゾンビメイクや『アナと雪の女王』ですが、今年目立ったのは、セクシー系小悪魔スタイルや『ミニオンズ』、『進撃の巨人』のコスプレです。セクシー系小悪魔衣装は今年ドン・キホーテでもっとも売れた商品で、『ミニオンズ』や『進撃の巨人』は今年大ヒットした映画です。昨年かなり見かけた日本エレキテル連合の仮装が、今年はまったく見られなかったように、仮装にも流行があるのです。

 衣装やメイクは、全般的に質が上がった印象を受けました。制服+ゾンビは非常に簡単にできますが、今年はより本格的な傷口をした特殊メイクのひとが増えました。これは、ハロウィン向けのメイクをするお店が増えたことや、特殊メイク用のアイテムが多く販売されたからです。市場規模がバレンタインデーを抜いたと各所で報告されていますが、ハロウィンの経済効果とはこういうところにも影響を及ぼしています。

 こうした状況は、一言でまとめればカオスでしょうか。若者が中心ではありますが、外国人も多く、それを見物する中高年の野次馬もかなりいます。また、自撮り棒を使って撮影をし続けるひとも昨年以上に目立ちました。ただ、カオスと言っても大きな事故や事件は起きませんでした。それは将棋倒しなどが起こらないために、警察がかなり工夫して誘導をしたからでもありますが、参加者のそれぞれがこの“パーティー”を楽しむという共通の目的を持っていたからでしょう。そこに宗教性はないものの、やはりそれは社会学で言うところの集合的沸騰の状況だったのです。

ノリのいい大人たちの六本木

 六本木は交差点を中心に仮装をしたひとたちが集まっており、警察も交通整理をしていましたが、渋谷ほどの混雑やカオス感はなく年齢層も高めです。そして、そもそも外国人が多い街・六本木は、いつにも増して欧米の外国人が目立っていました。そのためか、コスプレもスパイダーマンや『TED』のテディベアなどハリウッド映画のキャラクター、きぐるみのトロールなどが目立ちました。また、筆者の友人でもあるキョンシー姿の中国人グループもいました。

キョンシー姿の中国人グループとトロール(筆者撮影)
キョンシー姿の中国人グループとトロール(筆者撮影)

 他に目立っていたのは、大人っぽくかなり綺麗な女性たち。クラブに向かうひとたちだと思われますが、プロのモデルたちもかなり混じっていたと思われます。かれこれ4、5年ほど前からそうした女性たちが目立つのが、六本木の特徴です。また、リムジン車に乗ってなかから大騒ぎする女性たちも複数見られました。

 交差点から少し離れた六本木ヒルズと東京ミッドタウンには少し開けたスペースがありますが、そこも大きく盛り上がっていたという印象はありません。ひとが集まっていたのは、あくまでも交差点付近。そして、あまりにも混雑した渋谷から、多くのひとが移動してきたという事情もあります。筆者の友人二組も、それぞれ渋谷から早々に六本木に移動してきました。渋谷はそれほど動けない状況だったのです。

 ただ六本木は、行き交うひとたちが撮影しあうよりも、お店に入るひとが多いのも特徴です。ミッドタウンのオープンカフェでは、仮装した多くのひとたちが食事をとっていました。また、何年か前から六本木では日中にハロウィンパレードが開催されています。昼と夜とでハロウィンの姿が異なるのも六本木の特徴なのです。

全般的には、参加者たちの仮装のレベルが高く、大騒ぎはしているもののカオスというほどのこともありませんでした。六本木らしい、ノリのいい大人たちのハロウィンなのです。

レイト・マジョリティにも達したハロウィン

 池袋、原宿、渋谷、六本木――ひとりで半日回れるのはこの程度だったので、東京の他の地域はわかりません。たとえば今年リニューアルされた歌舞伎町のシネシティ広場(旧コマ劇場前)や、渋谷の隣の恵比寿や代官山にも、多くのひとが集まっていたのかもしれません。

 この4地域に限定し、年齢層と状況を軸にすると、その傾向は以下のようにおおまかに区分できるでしょう。

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 大人が集まる池袋と六本木に対し、若者を中心とした渋谷と原宿。騒がしい渋谷と六本木に対し、落ち着いた池袋と原宿といった印象です。それは、ふだんの街の雰囲気をそのまま反映しているとも捉えられます。

 それにしても都市のハロウィンは今後どうなっていくのでしょう? 来年から2019年までは10月31日が平日なので、今年ほどの騒ぎになることはないと考えられますが、今年も大きな事故や事件が起こらなかったために、ひとまず完全に定着したことは間違いないでしょう。

 社会学者のE・M・ロジャーズは、イノベーション(※1)の普及を5段階に分けて分析しましたが、それに倣えば、昨年はアーリー・マジョリティまでだったのが、今年はレイト・マジョリティにまで達したと捉えられます。それを強く感じさせたのは、渋谷における仮装をしていない見物人の多さです。レイト・マジョリティとは、まさにこのひとたちのことを指しています。

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来年以降のハロウィンはどうなるか

 さて、来年以降のハロウィンで起こりうることとしては、次の3つのことが予想されます。

 ひとつが、時間的・物理的により分散したイベントとなることです。すでにハロウィン当日までの2週間にイベントは拡がっていますが、来年以降はますますそれが分散される可能性があります。また、今年は混雑しすぎた渋谷から六本木に多くのひとが移動したように、来年はより他の地域に飛び火する可能性も高いでしょう。

 次に考えられることは、地方都市へのさらなる波及です。すでに大阪や福岡など、地方の大都市ではハロウィンが盛り上がっています。なかでも来年以降に注目したいのは、京都や広島です。なぜなら、外国人が多く訪れる観光都市だからです。東京のハロウィンの源流のひとつは、90年代に欧米の外国人が山手線をジャックして大騒ぎしたことにもあります。現在も渋谷や六本木に外国人の姿が目立つように、観光客を含め欧米の外国人が多い都市で盛んになる可能性があるのです。地方のハロウィンで期待されるのは、各自治体の十分な協力体制です。東京でも試行錯誤は続いていますが、放置して混乱が拡大することよりも、街の活性化のためにも積極的に関与して上手く誘導することが期待されます。

 最後にあげられるのは、ゴミ対策の徹底です。今年は東京都がハロウィン仕様のゴミ袋を配布し、翌朝には「SHIBUYAハロウィン・ゴーストバスターズプロジェクト」などゴミ拾いをするグループが集まったことによって、驚くほどの量にはならなかった模様です(※2)。東京都のゴミ袋配布は成功し、自助的な活動が生まれたことは、大きく評価すべきことでしょう。来年以降は参加者の意識もより高まり、ゴミ拾いの活動もさらに拡大するでしょう。

 来年以降に残された課題はまだたくさんありますが、誰にとってもより良いハロウィンが続くことを願ってやみません。

 というわけで、ハッピーハロウィン!でした。

※1……ロジャーズは、イノベーションを「個人あるいはその他の採用単位によって新しいと知覚されたアイデア、習慣、あるいは対象物」と定義している(エベレット・M・ロジャーズ、三藤利雄訳『イノベーションの普及』2003=2007年/翔泳社)。

※2……横田泉「ごみ拾いに密着! “ハロウィーン狂想曲”渋谷で見た『意外な光景』」『dot.』2015年11月1日。

■関連

・盛り上がる都市のハロウィン──「キャラ探し」の時代(2015年10月)

・同性パートナーシップ条例から考える「結婚」の未来(2015年4月)

・ギャルはこのまま終わるのか?――相次ぐギャル雑誌の休刊とギャルの激減(2014年12月)

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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