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元世界ヘビー級王者にボクシングの怖さを教わったMMAファイター

林壮一ノンフィクションライター
(写真:ロイター/アフロ)

 2023年10月28日のボクシングデビューで、現WBCヘビー級王者のタイソン・フューリーと対戦し、3ラウンドに左フックでダウンを奪ったカメルーン人ファイター、フランシス・ガヌー。1-2のスプリットディシジョンで敗者となったが、金星を挙げていてもおかしくなかった。

写真:ロイター/アフロ

 UFCのスター、ガヌーは同ファイトだけで、WBCヘビー級10位にランクされた。そして、現地時間3月8日に元WBA/IBF/WBOヘビー級チャンピオンのアンソニー・ジョシュア戦を迎えた。

写真:ロイター/アフロ

 フューリー戦で大いに手応えを感じたガヌーは、ジョシュアにも、そしてボクシングでも十二分に通用すると踏んでリングに上がった筈だ。時折サウスポーにスイッチする戦法で、元3冠王者に向かって行った。

 衰えは隠せないものの、ジョシュアはいやしくも3本のベルトを巻いていた元ヘビー級チャンプである。世界10位は、MMAとボクシングの違いを思い知らされることとなった。

写真:ロイター/アフロ

 タイソン・フューリーに通用したガヌーだが、ジャブの腕が伸び切っておらず、左フックの軌道も読まれていた。ファーストラウンド2分1秒、ジョシュアの狙い澄ました右ストレートを喰らってダウン。

写真:ロイター/アフロ

 元3冠ヘビー級王者はその後、あまり手を出さすにガヌーの動きを観察する。そして第2ラウンド2分6秒、接近戦での右ストレートで2度目のダウンを奪い、起き上がった世界10位に更に右を浴びせて、キャンバスに沈めた。

 レフェリーはカウントせず、左手を大きく上下に振って試合終了を宣言。公式のKOタイムは、同ラウンド2分38 秒であった。

写真:ロイター/アフロ

 私はこのファイトを、元世界ヘビー級チャンピオン、ティム・ウィザスプーンのパソコンで目にした。

 ウィザスプーンは言った。

 「ジョシュアが勝つのは当然。ガヌーはボクサーとしては素人だからな。でもMMAで両者が戦ったら、反対の結果になったさ。ジョシュアは既にピークを過ぎている。バランスが悪いし、ディフェンスもクリンチだけ。彼にしてみれば、美味しい興行だった」

写真:ロイター/アフロ

 リング上でマイクを向けられた興行主が、「現在のヘビー級で敵無し。最強のファイターだ」と、さかんにジョシュアを褒め称えていたが、空しく聞こえた。

 ヘビー級の低迷は深刻である。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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