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かつてのMVP選手のウォーミングアップ

林壮一ノンフィクションライター
撮影:Marvin Woods

 現地時間12月29日、西地区4位のLAクリッパースは、同13位と苦しむメンフィス・グリズリーズを迎えた。

 18時過ぎ、クリッパーズのホーム、Crypto.comアリーナでは両チームの選手たちが、思い思いにウォーミングアップで汗を流していた。クリッパーズもグリズリーズもコートを半々に使いながら、各々がシュート練習を繰り返す。

撮影:Marvin Woods
撮影:Marvin Woods

 グリズリーズの大方の選手たちが引き上げたTip Offの67分前、2011年のMVP選手がコートにやって来た。彼は、左膝の痛みが引かず、ここ6試合欠場中だった。かつて、Too BIG(存在自体が大き過ぎ)、Too Strong(強過ぎ)、Too Fast(速過ぎ)、Too Good(良過ぎる)と評された男――デリク・ローズである。35歳のベテランだ。

 22歳でMVPを獲得したが、その後は左膝前十字靭帯、右膝半月板などケガとの戦いを強いられている。今季からグリズリーズのユニフォームを着ているが、老いと闘っているようにも感じる。

撮影:Marvin Woods
撮影:Marvin Woods

 ローズはこの日もメンバー外だった。が、コートの5カ所から何度もシュートを放った。シュートが外れると苦笑いを浮かべたり「ウーッ」と唸ったり、黙々と自分の仕事をこなす様は、彼の人間性を醸し出していた。

 水色のトレーニングウェアが汗で染まると、それを脱ぎ、自軍のエンドラインから、敵チームのエンドラインまで走った。途中でキャリオカステップ、バックステップ、サイドステップを交えながら、8本×2セットをこなした。それぞれのセットを終えると、上半身裸のまま腹筋運動、サイドプランクをこなしてロッカールームに消えた。

 ローズは観客の前で35分間、トレーニングした。左膝の前十字靭帯の手術痕が痛々しかった。彼は4度、膝にメスを入れている。

撮影:Marvin Woods
撮影:Marvin Woods

 この日、グリズリーズは106-117でクリッパーズに敗れた。パスミスが目立つゲームだった。3Q終了間際、デイビッド・ロディーがサイドラインからスローインした際、味方が受け取れないボールを投げたシーンには目を覆った。

 1秒もプレーも出来なかったローズだが、35分間のウォーミングアップ、即ち生き方でファンを釘付けにした。

撮影:Marvin Woods
撮影:Marvin Woods

 2020年2月23日、私はポートランドでローズをインタビューしている。その時に彼が語った「出来る限り長く現役を続けたい」「頭を使ったプレーをしている実感がある。与えられた仕事を確実にこなしていく。私は終わっていない。自分自身を創り上げているところだ」という言葉が蘇った。

撮影:Marvin Woods
撮影:Marvin Woods

 上半身裸のまま、コーチと共に控室に消えていく彼の姿が印象的だった。デリク・ローズの闘いを見守りたい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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