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後楽園ホールの入り口に

林壮一ノンフィクションライター
(写真:ロイター/アフロ)

 後楽園ホールに入った突き当りに、ガラスケースがあるのをご存知だろうか。先日、何気なく通り過ぎようとした際、元統一ヘビー級チャンピオン、レノックス・ルイスが使用した、サイン入りリングシューズが目に留まった。

 20年ほど前に私が書いた雑誌の記事も展示されていた。正直なところ、遠い昔の文章であるため、詳細までは覚えていない。媒体は『週刊プレイボーイ』(集英社)だった。

撮影:筆者
撮影:筆者

 ルイスを指導していた故エマニュエル・スチュワードは「ミズノのシューズこそ、世界中でベスト。これ以外に私の選手に履かせたい物は無い」と語っていた。

 だが、ルイスは最後の3試合に使っただけだった。カナディアンとしてソウル五輪で金メダリストとなり、英国人として世界ヘビー級王座に就いた彼は、1試合履くだけで5万ドルもの契約を、リングシューズのメーカーから勝ち得たからだ。

マイク・タイソンにとって最後の世界戦となった試合でも、王者足元は日本製
マイク・タイソンにとって最後の世界戦となった試合でも、王者足元は日本製写真:ロイター/アフロ

 ルイスが品質を重視するようになったのは、2001年4月22日に南アフリカでベルトを奪われてからだ。

 挑戦者、ハシーム・ラクマンは、試合の1カ月前から現地入りしてコンディションを整えたが、ルイスは8日前までラスベガスに滞在してハリウッド映画『オーシャンズイレブン』の撮影に協力しながらトレーニングを重ねた。

 ルイスはこの映画に、本人そのままの役で出演している。映画の中で彼がスクリーンに登場するのは花道を歩くシーンと、リングで戦う僅かな数カットに過ぎず、時間にすれば1分にも満たない。遊び半分でリングに上がったルイスは、伏兵に5回でKOされた。

写真:ロイター/アフロ

 後が無くなったルイスは、ラクマンとのリターンマッチに備えて、日本製・ミズノのシューズをオーダーした。35cmの甲高、幅広の一品で、2度作り直している。ミズノ社との間に入り、"挑戦者"となったルイスにシューズを届けたのは私だった。

写真:ロイター/アフロ

 6ヵ月後の再戦でラクマンを4ラウンドで下したルイスは、マイク・タイソン戦、ビタリ・クリチコ戦でもミズノを使用した。

ルイスにとって、ラストマッチとなった2003年6月21日のビタリ・クリチコ戦
ルイスにとって、ラストマッチとなった2003年6月21日のビタリ・クリチコ戦写真:ロイター/アフロ

 ミズノ社は数カ月を掛けて特注シューズを作るというのに、ルイスは1試合で履くと、また新しい物を注文しないと気が済まなかった。そのうちの一足が引退後、ミズノに戻され、後楽園ホールに展示されているのだ。

 この原稿を読み、興味を感じた方は、是非、後楽園ホールでルイスのサイン入りシューズを目にし、6年前に本コーナーでやっていた「レノックス・ルイスの足跡」もご一読頂ければ幸いである。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/4f4ab46fdd146b6c3e9ac6e22728a81e05081bfb

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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