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アルゼンチン人コーチが語る「祖国の2黒星」

林壮一ノンフィクションライター
ウルグアイに0-2で敗れ、悔しさを露にするメッシ(写真:ロイター/アフロ)

撮影:筆者
撮影:筆者

 実兄のピチは、あのディエゴ・マラドーナと共にワールドユース東京大会(1979年)で世界一となった右ウイング。息子は、昨季までオーストラリアのバンユール・シティ・ブルズでプレーするエスクデロ競飛王。

 自身は、元アルゼンチンユース代表&ビーチサッカーアルゼンチン代表であるセルヒオ・エスクデロ。

 今日、埼玉県のジュニアユース、トリコロールFCのコーチとして指揮を執る彼が、祖国が喫した2つの敗戦について語った。

写真:ロイター/アフロ

 「まずは、11月17日に行われたワールドカップ南米予選の第5節、ウルグアイ戦ですが、我がアルゼンチン代表は0-2でウルグアイに負けました。去年、ワールドカップで優勝し、その後もずっと負けていなかったんですよね。

 そうすると、人間って『自分たちは無敵だ』って勘違いしちゃうものです。南米予選は4連勝して1位でしたから、いい薬になったんじゃないかな。

写真:ロイター/アフロ

 ウルグアイは、お隣にある小さな国で、あちらのニュースは全部アルゼンチンに入ってきますし、こちらに関する情報もウルグアイ人は把握しています。何よりも、ウルグアイの代表監督であるマルセロ・ビエルサは、アルゼンチン人なんです。

 2002年の日韓ワールドカップではグループステージで姿を消してしまいましたが、アルゼンチンの代表監督もU23代表監督も務めた経験がある名将です。つまり、どうすれば、母国が一番やり難いかを熟知しているんですね。

写真:ロイター/アフロ

 アルゼンチンの細かく繋ぐパスやメッシのドリブルをカットし、守備を固めてカウンターで得点するスタイルを貫きました。非常に見事な采配でした。

 悔しいのは確かなのですが、『マルセロ・ビエルサが相手だから、今回は仕方なかったね。気持ちを入れ替えて、次は勝とう!』という気持ちです。それだけ、経験と実績のある名監督なんですよ。

マルセロ・ビエルサ
マルセロ・ビエルサ写真:ロイター/アフロ

 その反面、18日にU22を率いて日本に2-5で敗れたハビエル・マスチェラーノ監督には厳しい声が飛んでいます。

 ご存知のように、マスチュラーノは素晴らしい選手でした。人間的にも非の打ち所が無く、腰も低いんです。彼はリーダーシップについて書いた本を出版していますが、その内容も絶賛されています。

ハビエル・マスチュラーノ
ハビエル・マスチュラーノ写真:森田直樹/アフロスポーツ

 僕は、U22アルゼンチン代表選手たちは時差ボケに悩まされたんじゃないか、とも思うのですが、日本に負けてしまったら言い訳は出来ません。アルゼンチン人にとっては、あり得ないことですから。

 マスチュラーノは過去にU20を率いて結果を出せず、辞任したこともあります。<名選手、名監督にあらず>という言葉がありますが、まだ経験が足りないから、失敗から学習してほしいですね。彼は自身のプロジェクトを、ゆっくり進めていくタイプですし。

闘志溢れるプレーでファンを魅了した現役時代のマスチュラーノ
闘志溢れるプレーでファンを魅了した現役時代のマスチュラーノ写真:ロイター/アフロ

 アルゼンチンでは勝たないと叩かれてしまうのは、昔からです。でも、今回、ヨーロッパのクラブに所属する主力3~4人が日本に来られなかったという事情もあるんですね。

 マスチュラーノが監督としてビエルサのレベルまで成長出来るかどうかは分かりません。でも、あれだけの大舞台で修羅場を味わった男です。僕個人としては、もう少し時間を掛けてキャリアを積ませてあげたいですね」

写真:森田直樹/アフロスポーツ

 現役時代、マスチュラーノの闘志は見る者を熱くさせた。是非、指導者としても輝いてもらいたい!

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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